瑕日、幽幻なる
伊島糸雨
この街には、誰もが知っていて、けれど誰にも構われることのない噂が七つある。
ひとつ。終電後の深夜三時四十二分、
ふたつ。夜明けと同時に
みっつ。雨の日に
よっつ。人のいない時に
いつつ。暇を持て余して
むっつ。
ななつ。
すべての噂には打ち消しがつく。彼らは主体を失っており、その欠落によって浮遊している。風説は流動性の音律であり、さらさらとそよぐ落丁の、拾われることのない滲みとして了解される。彼らは確かにそこに在り、そこに在るのが当たり前であるが故に、好奇や関心の的を外れている。
語られるべき噂があり、一方で語られる必要のない伝承というのも、街にはまた存在している。誰も知らず、構われることなく、記述される意味を持たない伽藍堂。それは主体を得て初めて駆動する天啓であり──偶然という所作によってようやく、偶像を得る流体である。
この街には、誰もが知っていて、けれど誰にも構われることのない噂が七つある。
けれど、この話だけは、誰も知らない。
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