第9話 売られる娘

 ええと、ランク外の依頼がある。

 ランク外の依頼は達成が困難なものばかりだ。

 切羽詰まった事情があるのが多い。

 誰でも良い受けてくれという悲痛な叫びが聞こえてきそうだ。


 依頼はオークの集落を壊滅してくれというもの。

 オークは豚の顔をした2足歩行のモンスターで身長が2メートルはある。

 大柄な男と同じぐらいの身長だ。

 だが、その体は分厚い。

 そこから繰り出される攻撃はレベルの恩恵が無ければ太刀打ちなど出来ない。


 推奨レベル20のCランクだ。

 ただしこれはオーク単体での話。


 群れとなるとAランクか、Sランクまで跳ね上がる。

 推奨レベル40だ。


 レベル15の俺にどうしようもできない。

 ちなみにゴブリンの巣穴でレベルが2上がった。

 ボスゴブリンの経験値が大きかったらしい。


 あと5上げればオークとは互角にやれる。

 だが、集団で来られたら、ボスオークには。

 くそっ。


 そして見てしまった。

 依頼人が連れている娘達を。

 娘達には首輪が嵌められていた。

 絶望したかのような目。


 依頼金の金貨50枚がどのように捻出されたか想像できる。

 勇者の姿が見えた。

 俺は他の冒険者の後ろに隠れた。

 くそっ、何で逃げているんだ。

 堂々としてろよと内なる声が言う。

 いや、いまやり合うのは不味いとも。

 ああ、まだレベルがぜんぜん足りない。


 仕方ないんだと自分を納得させる。


「ほう、村娘を奴隷にか」


 勇者が嫌らしく笑った。


「いえ、まだ売られる予定です。依頼を達成された方がおられましたら、清算するときに奴隷になることになっております」

「ふん、今すぐ娘を差し出せば俺がオークを退治してやろう」

「ねぇ、輝樹、あんな娘達なんかいなくっても」

「そうそう、私達がいるんだし」


「楽しむ時は力一杯だ。お前達は1回で潰れるだろう」

「激しいから」

「私達に飽きたの」


「いや、娘達を手に入れても、変わらずに可愛がってやるさ」

「約束よ」

「嫌だと言っても付いていくわ」


「心配するな。それで娘達を寄越すのか?」

「お断りします。先払いはできません。虎の子の財産なので」


「何だと、逆らうのか」

「滅相もございません」


 依頼人は勇者にぶっ飛ばされた。

 さすがに不味いと思ったのかギルド職員と教官がなだめに掛かる。


 勇者一行は去って行った。

 何度、勇者を殴ってやりたいと思ったことか。

 でもきっと決闘するとコテンパンにされる。

 我慢だ。


 奴隷になる娘達に声を掛けることにした。


「あの、気を落とさないで」


 何でこんなことを言ってしまったのだろう。

 これじゃまるで俺がオークを退治するかのようだ。

 できるのか?


「あなたには私達の絶望が分かりません。気軽に言わないで下さい」

「俺が何とかする。待っててくれ。時間的な余裕はあるんだろう」

「ええ、オークが攻めてくる兆候はありません。でも気休めは要らないです」


 なんて俺は無力なんだ。

 助けると言って本当にできるのか。

 チャレンジに失敗して挫折したら?


 勝算もないのに助けるという俺の浅はかさが堪らなく嫌だ。

 これじゃ、勇者より最低だ。

 勇者は勝算があるのだろう。

 勝算ががあって娘達は慰み者。


 俺は勝算もなしに気休めか。

 どっちが最低なんだ。


 どっちも糞だ。

 やるぞチャレンジだ。

 やるしか前に進めないんだよ。


「チャレンジスピリット」


――――――――――――――――――――――――

レベルアップ+武器ゲットクエスト:

 8時間耐久マラソン。※良い子は真似しないでね。

 挑戦時間無制限。

 レッツチャレンジの言葉で開始。

――――――――――――――――――――――――


 今回は、簡単?

 いや8時間走りっぱなしだぞ。

 かなりつらいだろう。

 でもレベルの恩恵もあるし、ポーションの類もある。

 行けるんじゃないか。


「俺は君達のために1日走る。見守っていてくれ」

「走ったからどうだっていうのですか」

「走れば神が奇跡を与えてくれる。そういうスキルを持っているんだ」

「そんなスキルが」


 娘達の目に希望の光が灯ったように見える。

 この目の光を消したらいけない。


 できるできないじゃないんだ。

 やるんだ。


 まず、ポーションだ。

 走る場合、足の皮が心配だ。

 これはポーションで補う。

 ひどくなる前に使えば、最下級のポーションでも足りるだろう。


 栄養補給。

 塩と甘い果汁を入れた物を用意した。

 そして、栄養バーみたいな食品。


 問題はおしっこだ。

 8時間の間には何回かもよおすはず。

 この世界、おむつの良い製品はない。


 垂れ流しで走るしかないか。

 恥ずかしいが仕方ない。

 街の住人は俺が狂ったと思うだろうな。

 汚名ならいくらでも着る。

 それで助かる人がいるなら。


 ポーション、飲み物、食べ物の差し入れは浮浪児に頼んだ。

 走っている最中に渡してくれるはずだ。

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