電子の王国

天川裕司

電子の王国

タイトル:(仮)電子の王国



▼登場人物

●実味内男(じつみ うちお):男性。40歳。在宅ワーカー。内気。世間に少し絶望している。

●今野冷子(いまの れいこ):女性。27歳。浮気性。性格も最低。本性は現実のチャラい女の形。

●詩手(しで)ノンコ:女性。20~30代。電子の中だけに住む絶世の美女。理妃子が創り上げた架空の存在。

●夢月理妃子(むずき りひこ):女性。30代。内男の本能と欲望と夢から生まれた生霊。


▼場所設定

●内男の自宅:都内にある一般的なアパートのイメージでお願いします。

●Electronic Resident:お洒落なカクテルバー。理妃子の行きつけ。

●ノンコのアパート:都内にある一般的な都営アパートのイメージでOKです。


▼アイテム

●Full of Reality:理妃子が内男に勧める特製の栄養ドリンク。これを飲むとリア充を手に出来る。でも現実のトラブルに対抗できる効果はない。

●Electronic Kingdom:理妃子が内男に勧める特殊なチャットサイト(メモリーカードにそのサイトアドレス等が保存してある形)。チャットだけを楽しめるようになっている。実際に会ってしまうと電子の空間に取り込まれてしまう。


NAは実味内男でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたには今、友達は居ますか?

また恋人は居ますか?伴侶は居ますか?

核家族が増え、孤独な時代と呼ばれる現代。

ご近所のお隣さんでも、数ヶ月、顔を見ない…

現実にはそんな生活を繰り返しているのではないでしょうか?

今回は、或る孤独な男性にまつわる不思議なお話。



メインシナリオ〜


俺の名前は実味内男(じつみ うちお)。

今年40歳になる在宅ワーカー。


内男「よしっと、今回の納期分もこれでちゃんと送る事ができたし、ちょっと飲みにでも行くか」


俺の仕事は主にライティングで、

今日も頼まれていた原稿を書き終え、

それをクライアントに納品したあと

行きつけの飲み屋街へと足を向ける。


まぁ在宅ワークでそれなりに生計を立てる事ができて

日常生活は安定しており、

独りの生活ならばそれなりの充実はある。

でも…


内男「ふぅ。まぁこれでホントは、付き合ってる女の1人でも居たら良いんだけどな」


俺にはここ数十年、友達は居らず、恋人も居ない。

ある日を境に隠遁生活のような暮らしをし始め、

俗世間との関係をなるべく断ってしまった事から

孤独な生活を強いられるのは無理もない。


でもやはり人間、独りで居るといろんな事を思い煩い、

「なんで自分はここにこうして独りで居るんだろうか?」

なんてふと思う事もあり、それを思うと孤独な自分が

どうにも無駄な人生を生きているようにさえ思えてくる。


俺の生活は今、とても静かな生活。

この静かな生活に、そっと花を添えてくれるような

そんな女性が1人ぐらい現れても良い。

そう思うのは俺の正直でもあり、また男そのものの本能にもあろう。


そして飲屋街に着き、行きつけの店に行こうとしていた時…


内男「あれ?こんな店あったっけ?」


『Electronic Resident』

と言うかなり変わった名前のカクテルバー。

でも外観は綺麗で中も落ち着いてたから、

俺はそこに入りカウンターにつき、いつものように1人飲んでいた。


内男「はぁ。ここでもし彼女でも居てくれたら、将来の事を話し合ったりして、今の生活の事も話し合ったりできて、いろいろと楽しいんだろうなぁ」


そんな風に心の内の空想の彼女と喋っていた時…


理妃子「こんにちは♪お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」


と1人の女性が声をかけてきた。


見るとまぁまぁの美人で、一緒に居るだけで何となく安心できる。


彼女の名前は夢月理妃子(むずき りひこ)さんと言い、

都内でメンタルヒーラーや

スピリチュアルコーチのような仕事をしていると言う。


そんな孤独な俺だったから声をかけられた時、

「もしかしてこの人と付き合えるかも?」

なんて嬉しい期待に身を寄せようとしたのだが、

なぜか不思議なぐらいに彼女に対しては恋愛感情が湧かず、

その代わりにもっと自分の事をよく知って欲しい…

その延長で自分の悩みを聞いて欲しい…

そしてあわよくばその悩みを解決してほしい…

と、そっちのほうに心が動かされていく。


そして気づくと俺はその通りに行動していた。


内男「もう何年もずっと独り身なんです。友達も居なければ恋人も居らず、ずっと在宅ワーク漬けの毎日。確かに独りで居れば気は楽ですが、一体何の為に働いてるんだろう?…なんて正直思う事もあります。やっぱり孤独って、人をそうさせてしまうんでしょうかね?」


内男「周りの奴らはみんな結婚していって、なんか俺だけが取り残されてるような気もして。俺の人生、やっぱり普通じゃないのかな…なんて、少し…」


俺はそのとき心の在るまま向くまま、

日頃の悩みを全部打ち明ける勢いで彼女に喋っていた。

30分ぐらいずっと喋り続けていたのを

彼女はずっと真剣に聴いてくれていた。

やっぱり職業柄か、彼女は聞き出すのが上手い。


そして…


理妃子「そうですか。あなたは今、孤独に悩まれていると?」


内男「え、ええ、まぁw」


理妃子「でもそういう方って結構多いんですよ今の時代。私も都内でヒーラー教室のようなものを開いておりますが、そこに来られる方もあなたのように孤独に悩まれている…何とか人生に花を添える事ができないか、そんな風に工夫されている方も結構おられます」


内男「はぁ…」(何となく聞いてる)


理妃子「良いでしょう。でしたら、私がお力になって差し上げましょうか?」


そう言って彼女は持っていたバッグから

1本の栄養ドリンクのような物を取り出し、

それを俺に勧めてこう言ってきた。


理妃子「ぜひこちらをどうぞ。これは『Full of Reality』と言う特製の栄養ドリンクで、飲めばその人の性格を明るく変え、内向的な性格を社交的にもしてくれます。簡単に言えばこうなりますが、おそらく今のあなたの生活や人生において、飛躍的な前進を遂げさせてくれるものになるでしょう」


内男「…は?」


理妃子「あなたはきっとこれまで自分で社会との関係を断ってきたので、そのせいで周りに友達が居らず恋人も居ない、その状況を作り上げているに過ぎません。私も長年この仕事をしてるから分かるんですけど、あなたのような方が持っておられるそのお悩みは、きっと心の持ち方1つで大きく変わるものです。どうか騙されたと思って、1度お試し下さい。一歩踏み出せば、私が今言ってる事がはっきり解るでしょうから」


彼女はやっぱり不思議な人だ。

普通なら絶対信じないような事でも

彼女に言われるとなぜだか信じてしまう。


気がつくと俺はそのドリンクを手に取り、

その場で一気に飲み干していた。


理妃子「そのドリンクは誰に対しても1本限りのお勧めになります。これであなたの生活はこれまでに比べて一変するでしょうけど、その後は何とか自分の力で未来を開拓し、幸せな人生を歩めるよう努力していって下さいね」


ト書き〈数週間後〉


それから数週間後。

俺の人生は本当に変わっていた。


それまでのようにウジウジした所がすっかりなくなり、

彼女が言ったように本当に社交的な性格になれ、

在宅ワークを一応本業にしたまま

外でパートの仕事も副業感覚でやり始め、

俺の周りには少しずつ友達が増え、そしてなんと…


内男「ああ、あの子、良いなぁ…」


長らく眠り続けていた恋心に

火をつけてくれる女性も現れたのだ。


彼女はパート先で知り合った今野冷子さんと言い、

とても綺麗で優しくて、俺のモロタイプの女性。


俺はこれまで独り身の生活を続けてきた事から

貯金は在宅ワークでもまぁまぁあって、

もし彼女と付き合い本当に一緒になる事ができたとしても、

彼女と自分の生活を支えていけるだけの資金は持っていた。


その事も含めて俺の事を知ってくれた後、冷子さんは…


冷子「私も実は少し前からあなたの事がイイなぁなんて思ってたのよ♪」


と、天にも昇る程の嬉しい事を言ってくれたのだ。

これはまさに告白。


それから俺は彼女と付き合うようになり、

周りの友達とも一緒にいわゆるリア充の生活を送り始めた。


内男「まさか俺がこんな幸せな人生を送れるなんて♪」


過去の自分から見れば本当に信じられない飛躍。

これもあのとき理妃子さんが言ってくれた通りの事。


ト書き〈カクテルバー〉


そしてある日、俺は1人で又あのカクテルバーへ行き、

今の自分の生活のあり方を理妃子さんに伝え、

どうしてもお礼を言いたい、そして彼女にも喜んで貰いたい…

そう1人勝手に思い込み店に飛び込んだ。


すると理妃子さんは前と同じ席に座って飲んでおり、

俺は彼女を見つけるや否やそばに駆け寄って

その通りに何度も心から感謝した。


理妃子「そうですか♪よかったですね」


それを聞いて彼女も心から喜んでくれ、

付き合う事になった冷子と俺の将来まで祝福してくれた。


でもこの時1つだけ、理妃子さんは

俺に忠告めいた事も言ってくれたのだ。


理妃子「内男さん。この現実の生活で、そんな華やかな舞台がやってきてくれるのは本当に嬉しい事だと思います。でも現実で友達関係を図り、恋人と付き合ってその後の将来も安泰させようとしていけば、必ずハードルと言うものはやってきて、そのハードルを何とか自力で乗り越える力も必要です」


理妃子「あなたは長らくずっと独り身で居た事から、このハードルを乗り越える事への免疫が少し乏しくなっている状況もあると思います。ですので今後、何かトラブルが起きても、ぜひその彼女さんと一緒に乗り越える力を身に付け、たとえ傷つけられてもくじけない、強い心を持つようにして下さいね」


まぁずっと聞いていると、

当たり前の事を言ってくれていたように思う。


人生生きていく内、必ずハードルと言うものはやってくる。

それは誰にとっても同じ事。

俺だってそれぐらいの事は解っていると彼女に笑顔で応え、

冷子と2人で歩く今後の明るい将来だけを夢見ていた。


ト書き〈トラブル〉


でもそれから僅か数日後。

トラブルが起きた。


内男「れ、冷子!どういう事なんだよ!俺にはもう飽きたから別れるって…今までの事は全部嘘だったのか!?」


冷子「ハッwあんた本気にしてたの?アッハハwあんたみたいなネクラな男、本気で将来を約束する相手に選ぶ女なんてこの世に居ると思う?まぁこんな綺麗な私と暫くの間でも一緒に居る事ができたんだから、それで良しとして、今後の大事な思い出にしまっときなさいよ♪じゃあね〜」


結局、彼女は俺の貯金を遣うだけ遣い、

生活が少し乏しくなり始めた頃に俺の元を立ち去った。


デートの時はいつも俺が奢っていたのだ。

それを「今生活が苦しくなってきたから…」と

2人で倹約しながら貯金していこう…と話した矢先の事だった。


彼女には初めから俺と一緒になる気は無い。

その証拠に俺の周りに居た

友達の何人かとも関係を持っていた事が分かり、

俺は結局その友達とも絶交する形で輪を離れ、

また元の生活に無理やり戻されたのだ。


内男「…フ…フフ…結局こうかよ。世間なんてモンはみんな同じだ。どこへ行ったってこんな奴らしか居やしない。あんな薄汚い女とハードルを一緒に乗り越えて、その後の未来を約束しろだって?wちゃんちゃらおかしいw何を約束するってんだよあんな下卑た女と」


俺は改めて薄汚い世間の奴らと絶交し、

「2度とこんな経験してなるものか」

とまた独り身の生活をし始めていた。


ト書き〈カクテルバー〉


でもそんな中、やっぱりあの彼女だけは別だったのだ。

理妃子さんに対する想い。

それは恋心とは全然違うものだが、彼女に対してだけは、

「離れたくない、出来ればずっと一緒に居て欲しい」

「そして悩みを聞いて貰い解決して欲しい…」

そんな思いが心の底から渦巻くように溢れ出す。


そして気づくと俺はやっぱり又

あのカクテルバーへ立ち寄っており、

その店の中で彼女を探した。


するとやっぱり彼女はそれまでと同じ席に座って飲んでおり、

まるで俺が来るのを待っていたかのように歓待してくれる。


内男「…理妃子さん。あなたはホントに不思議な人ですね。まるで僕がここへ来る時、いつもそれが分かってるかのようにあなたはここにずっと居て、僕が来ると笑顔で迎えてくれる。あなたとこうして居る時、僕はなんだか安心するんですよ。世間の女にどれだけ絶望しても、あなたに対してだけはなんだか別の気持ちがあって…」


そんな事を話しながら俺はやはり自分の悩みを打ち明けており、

彼女はまた真剣に聴いてくれていた。


内男「…そうやって俺の事を聴いてくれるのは、もうあなただけです。本当に有難う」


そう言って少し俯き、グラスを持っていた俺に…


理妃子「せっかく出会えた女性がそんな人だったなんて、本当に悲しかったですね。それなら一緒にやって行くも何も…あなたの気持ち、本当によく分かります」


と同情して言ってくれた後…


理妃子「では、こちらはいかがでしょうか?お勧めしたいと思うのですが」


と言ってメモリーカードを1つ俺に渡してきた。


内男「…え?これ、何ですか?」


理妃子「そのメモリーカードには『Electronic Kingdom』と言うチャットサイトの情報が保存されてます。まぁいわゆる出会い系に思われるかもしれませんが、そこらにあるような出会い系サイトじゃなく、日頃のその人の心を充実させるピュアなサイト。つまり本当に出会う事はせず、チャットだけを楽しみながら人間関係を構築していく…そんなサイトになります」


内男「はぁ…」(何となく聞いてる)


理妃子「どうですか?こちらをお試しになられてみませんか?おそらく今のあなたには、こういった出会いのほうが向いてるかもしれないと思いまして」


まぁ日頃からパソコンに向かう仕事をしているものあり、

ツマミ程度にそう言うのもあって良いかと思った。


俺はメモリーカードを受け取り、その日から、

彼女が教えてくれたそのサイトで

チャットを楽しむようになっていった。


ト書き〈出会い〉


そしてそれから数日後。

そのチャットサイトの中で、俺は又新たな出会いをしてしまった。


詩手(しで)ノンコさんと言う

ハンドルネームか本名か分からないその人だったが、

彼女は自分の写真を送りつけてきた上、

自分が今住んでる家の住所やこれまでの生い立ち、

また趣味や将来の夢なんかも俺に教えてくれて、

まるでずっと一緒に居る事を約束してくれたかのような、

そんなメールを何度も送ってきたのだ。


まずその写真が彼女本人のものなら、

これまで見た事もないほど絶世の美女。


そしてその文面から漂う彼女の気品のようなものは

俺の心を本当に安らげてくれ、

「こんな彼女ともし一緒になる事ができたら…」

正直、そう思わせるのに充分だった。


また懲りずに俺は世間の女と関係を持とうとしているのか?

なんてやっぱり躊躇する気持ちもあったが、

そこは男の本能なんだろう。


ノンコさんこと、彼女にどうしても会いたい気持ちが芽生え、

そのメールのやり取りの中で「今度会おう」と俺は言ってしまった。


ト書き〈カクテルバー〉


でも俺は理妃子さんからあの時、

「そのサイトを利用してチャットするだけなら結構ですが、絶対そのお相手と会わないようにして下さい」

という事を同時に言われていた。


あんな時だったから俺も「もちろんそうします」

と応えていたが、やはり時が過ぎ、状況が変われば

人の心も変わってしまう。


俺はその事を彼女に伝えようと、

又あのカクテルバーへ立ち寄っていた。

するとやはり理妃子さんはいつもの席に座って飲んでいて、

俺は彼女に駆け寄ってその事を言った。


でも彼女は…


理妃子「それは駄目です。会ってはいけません。言っておいた筈ですよ?あなたもそれに賛同し、だからこそ私はメモリーカードをあなたに渡したのです。あれはお喋りを楽しむだけのチャットサイト。確かに相手によっては実際会おうとする人も居るかもしれませんが、そこはそのメールを受け取った人がその相手を嗜め、会わないようにするのが1つのルールなんです」


内男「で、でも…!」


理妃子「…その慌てぶりから見ると、会いたいとおっしゃったのはあなたのほうじゃないんですか?おそらくそのチャット相手に惚れ込んで、もうお喋りだけでは気が済まない…そんな気持ちになってしまったのでは?」


内男「い、いや、それは…」


俺はその時「相手が会いたいと言ってきたから」

と言うのを1つの口実にしようとしていたが、

どうやら彼女には見透かされていた。


全部バレていて、この人に嘘は通用しない。


それがはっきり分かった時、

俺はただ「どうしても会いたい」と無心し始めた。

彼女は何度も駄目だと言い俺を嗜めようとしてくる。

でも俺は引き下がらず食い下がる。


そんなやり取りが少し続いた後、

彼女もやっと折れてくれたのか。

俺の気持ちを尊重し、会うのを許してくれた。


でもこの時…


理妃子「それだけ会いたいのでしたら会っても構いませんが、1つだけ覚悟はして下さい。そのチャット相手と会ってしまえば、あなたはこれまでの生活に戻る事はもう出来ません。その相手とずっと一緒に居る事になり、あなたはその相手とだけ、その後の人生を歩む事になるでしょう。それでも良いのでしたらぜひどうぞ。まぁあなたの人生ですからあなたがお決め下さい」


と言い「それなりの覚悟をしろ」と言ってきた。


でも「理想の人とずっと一緒に居る事ができる」

それを聞いた瞬間、俺はもうほとんど迷う事なく

あの彼女、ノンコさんに会う決意をしていた。


ト書き〈パソコンに引き込まれる〉


そしてその夜。

俺は今ノンコさんが住んでいる都内のアパートに来ていた。


ノンコ「あ、いらしてくれたんですね♪ほんとに嬉しいです♪どうぞ上がって下さい」


彼女は写真通りの絶世の美女。

騙しじゃなかった。

俺はそれだけで本当に嬉しくなって、

今後の彼女との生活まで夢見始めた。


とても明るくて朗らかで、気品漂う素敵な女性。


彼女は俺をもてなしてくれ、

リビングで一緒に温かい紅茶を飲んだ後…


ノンコ「あ、隣の部屋に行きませんか?あなたとずっとチャットしていたのが隣の部屋で、そこにパソコンもあるんです♪このまえ素敵な風景を画像で撮って、保存してありますので、よかったらソレ一緒に見ませんか?」


と俺を誘った。


それまでの話の流れから、

「なんでパソコンなんだろう?もう出会ったんだから、これからの2人の将来の事について話し合えば良いのに」

とも思ったが、彼女があんまり嬉しそうにそう言ってくるので

俺もついその気になり、誘われるまま彼女に連れられ

そのパソコンが置いてある隣の部屋に行った。


(パソコンの部屋)


ノンコ「これですコレ!どう?とっても綺麗でしょ?」


内男「おぉ♪ほんとに綺麗だなぁ…」


彼女が見せてくれたのは、夕日が差し込む草原の写真。

どこかのネット画像から撮ってきたのか、

それをちゃんと保存しデコレーションまでして、

彼女のお気に入りのファイルの中に入れていた。


そして…


ノンコ「…ねぇ内男さん。今からここへ行ってみませんか?実はここ、この部屋からすぐ行けるんですよ?」


と彼女は少し落ち着いた表情で俺に言ってきて、

「ぜひ2人で一緒に行こう」と何度も誘う。


内男「え…えぇ?いや、ここに行こうって、これパソコンの画像だし…。あ、この風景がある場所に行こうって事?」


俺はそう言ったが…


ノンコ「ううん。手を伸ばしてみて。2人で一緒にこのパソコンの画面に指を置くの。そうするだけで行けるわ…」


と彼女は俺の手を取って、2人で一緒にパソコン画面に

指でタッチするポーズを取らせた。

その瞬間…


内男「う…うわっ…うぉおおぉ!?」


2人の体はその指からパソコン画面に吸い込まれ、

一瞬めちゃくちゃ明るい光を放(はな)った後、

俺達はその部屋から本当に消えてしまった。


その消える瞬間ノンコは…


ノンコ「これで私達も電子の空間の中で、ずっと幸せにやっていけるわ…」


と言った気がした。


ト書き〈ノンコのアパートが消えていくのを見ながら〉


理妃子「フフ、これで内男もノンコと一緒に電子の住人になってしまったか。実はノンコは私が作り上げた架空の女性。電子の中にだけ住む絶世の美女。今じゃネット産業も飛躍的に発展してるから、その電子の中で美女を作り上げる事なんて容易い事よね」


理妃子「私は内男の本能と欲望、そして理想から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。本当は現実で幸せを手にして欲しかったけど、彼にはやっぱり無理だったようね」


理妃子「現実に幸せを見出せず、電子で作り上げた架空の世界にこそ、自分達の永遠の楽園があると信じてしまう。こんな人って案外多いんじゃないかしら?でも、たとえ電子とは言え、自分の夢を叶える事が出来たんだから、内男はそれなりに幸せを手にした…とも言えるのかな。まぁその電子の王国で、これからもずっと2人、お幸せにね…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=eYawL7KFz5g

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電子の王国 天川裕司 @tenkawayuji

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