亡霊の正体
リアーナ達は本を回収した後、今夜は解散との旨を記憶の番人の2人から命じられた為、解散となった。アリオスは黒猫を、リアーナはピューレを抱きしめた状態で帰路に着く。もう2人はクタクタでお風呂に入り直す気力も何もなかった為、洗浄魔法で汚れを落としてリアーナはベッドに、アリオスは布団に入った。
「お疲れ様アリオス。今日はありがとう」
「いいのよ。さ、そんなことより早く寝ましょう。このままじゃ干からびてしまいそう」
そう言ってアリオスは眠りについたが、リアーナは今日本を封印した際に本を一冊抜き取ってきたものを眺めていた。その本はぼろぼろで、中身も見えないくらいに薄汚れている元だった。
(可哀想な本。早く綺麗な状態に戻してあげる)
リアーナは外を見る。すると、不安げに揺れる雲たちが見えていた。
✴︎ ✴︎ ✴︎
次の日、前日亡霊と戦ったメンバーがリベルテ学級王国に訪れていたが、アリオスのみがいない。集合場所は騎士団でよく使われたり、占星術で利用される天文室で、キラキラとした六等星がたくさん釣られていたり、球儀や水晶、望遠鏡など、様々なものが設備されている。
「では、これより騎士団と司書の合同会議を開始する」
そんな静かな天文室に、ビリビリとした声が響き渡る。
今日はいつもよりもずっと空気が重く、それでいてどんよりとしていた。いつもはキラキラとしているリーヴァでさえ、なんだか今日は無理をしている。シルフに至ってはさらに人を寄せ付けないオーラを漂わせていた。昨日の激乱からして、元気な人がいる方が珍しいのかもしれない。
「というわけで、今日の議題は二つ!一つ、亡霊の正体。二つ、今後の対応についてだ。正体については伏せていたが、この状態じゃ黙っておくわけにはいかないだろう。書庫番人の方が詳しいだろう。モシュネ。頼めるか?」
「えぇ、シルヴィア。後は私が引き継ぐわ」
そう言ってモシュネが今度は立ち上がり、みんなの前に立つ。モシュネは息を一つ吐き、話し始めた。
「まず、端的に言うと亡霊は空奏の書庫から逃げ出したものです。空奏の書庫の最後の番人は100年前の戦で亡くなっています。それから、その代理として魔力を分け与えている人と仮の番人がいたのですが、その人達の魔力が底をつき始めているのでしょう。そのせいで書庫の護りに隙間ができて、本達が逃げ出している状態よ」
モシュネが短く簡単に説明したおかげで、こういう説明を理解するのが苦手なリアーナはすんなりと理解できる。空奏の書庫の番人がいないことはよく知られている事だが、代理がいるとは知らなかった。他の皆も同じだろう。代理ができるというだけでもかなりの魔力の持ち主だということがわかるし、それくらいのレベルの人を探すことは困難だろう。
静者の書庫を管理してるリアーナでさえ、かなりギリギリの魔力だ。モシュネもエドゥアルトもリアーナの倍は魔力を持っているし、そんな人間がそこら辺に転がっているとは思えない。
(つまり、できるだけ早く新しい番人を見つければいいってこと?)
「じゃあ空奏の書庫の番人を見つければいいって事?」
リアーナがモシュネに問いかける。するとエドゥアルトが険しい顔をして、モシュネの代わりに答えた。
「何年も前から僕たちで探しています。最近、ようやく候補が1人出てきました。おそらくこの人が書庫の番人になる事で丸く収まるのでしょうが、」
そこまで言った時、モシュネとエドゥアルトの雰囲気がさらに鋭い物に代わり、モシュネがエドゥアルトの言葉に続いた。
「今、書庫の力を肩代わりしている子が書庫の継承を拒否しているの」
「えええ!?」
一同驚いた声をあげて、リアーナは立ち上がって猛抗議した。
「どおして!?それで平和になるのに!?」
モシュネとエドゥアルトはなんだか居心地の悪そうな顔をしている。隣にいるエドゥアルトがリアーナを座らせ、徐に頭を撫で始めた。
「僕もそう思います。ほんっとにそう思います。あの強情……」
「エドゥアルト!やめなさい」
突然モシュネが声をあげてエドゥアルトを静止させる。モシュネがこんなに声を張り上げることは極めて珍しい事だ。
「とりあえず、候補は見つかっているから、今度その子を司書会議に招いて、話し合いを通して決断しようと考えているわ。……問題は、それまでの亡霊の対応ね」
リアーナは納得できない。どうして早く番人を継承させないんだろうと、考えがそればっかりになってしまって、つづきの会議に集中できないままだった。
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