The Stillness・Wind-静者の番人と亡霊の謎-

灰業みずり

序曲

通りすがりの番人


「大変だ!亡霊達が暴れている!!」


 辺りは人々の悲鳴や叫び声が響き渡っていた。

 真っ暗な泥沼のような人の形とも言えないような、物体が、人々に襲いかかっている。


「いやぁぁぁぁぁぁ!」


「おかあさん!」


 女性の腕に亡霊が巻きつき、引きずり回す。女性は必死に抵抗するが、抵抗すればするほど亡霊は複雑に絡みつく。

 皆杖を使って魔法で退こうとするが、魔法が亡霊をすり抜けてく為手も足も出なかった。

 亡霊というのはそもそも書庫で封印されているはず。それが外に出てくるなんてあり得ない事が起きている。村全体が混乱へ陥っていた。

 

「書庫の番人達は何をしているんだ……!誰か状況を知る者はいないのか!?」

「鏡を使おうと試みたのだが繋がらん!完全に手詰まりだ」


 書庫の番人と言うのは、この国の一種の伝説だった。知る人ぞ知る知る図書館には、様々な真実や呪いが封じられている。それが解き放たれてしまったら、この国はもう滅びてしまうだろう。

 

「騎士団は何をしている!」

「亡霊達は空奏の書庫から逃げ出したものです。なので騎士団は救援に来ないかと」

 


 村の長は苛立ちを隠しきれないように吐き捨てる。だが、そんな事をしているうちに亡霊達は容赦なく村に膨大な量の魔力を解き離そうとする。


 そのとき、まばゆい光が人々の周りを包み込んだ。

 そして天使が舞い降りた。

 白いロングカープを羽織、フードを目深に被った少女がそこにいた。真っ白な杖を振るって亡霊たちを振り払うかのように消していく。彼女は風を自在に操り、亡霊たちをどんどん切り裂いて行く。



「風を操っているだと?」


 この国に風をものにして魔法を使える人は、歴史上でもごく僅かだ。彼女はそれを自由自在に操っていた。


 ガガガ!


 残りの亡霊が最後の余力を振り絞って、上空から一斉に彼女に襲いかかる。

 彼女は杖を高く掲げて光を灯す。するとみるみるうちに亡霊たちが渦上になり、吸い込まれて行くのを村人たちは信じられないような目をして見ていた。そして吸い取ったそれを、真っ白な本に吸収させると、本は中身を取り戻していった。


「い、いったい、お前はなんなんだ」


 すると少女はカープをしたまま杖先を胸に当ててぎこちなくお辞儀をした。


「と。通りすがりの番人でし!」


 噛んだ。思いっきり噛んだ。

 シーンと、あたりは静まり返るが、緊張感で張り詰めていた空気が緩やかになっていく。

 その後彼女は何事もなかったかのように村の人たちの怪我を癒して、村の復興まで手伝い、ぶじを確認できると風のように去っていってしまった。


 彼女の持つ真っ白な本には鮮やかな色が戻っていた。


 ✴︎ ✴︎ ✴︎


 世界で唯一、唄や物語と心を通わせる魔女。

 弱冠17歳で星導騎士団に所属し、さらにはリベール王国・禁書保管庫「静者の書庫」の守人兼司書番人。

 

 と言われているけど本当は、ちょっぴりドジでお馬鹿な子。



      -スティルネス・ウィンド-

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