第二十話 モフモフの新種発見!?

 ギルドの取り締まり強化に加えて、あの事件から数日後。お父様に頼んだわたくしは、モスフルに住む国民で困っている者がいないかと通達を出した。

 お金の面でなら対価として渡せるかもしれない。


 毎日話を聞くことは難しいから、週3日の朝に定めた。


 どこか遠くに視線を向けてみえたレイはいつものように笑顔でわたくしをからかってくる。


「来週から大変になりますねぇ。お嬢、泡吹かないでくださいよー」

「不敬ですよ、レイ。ただ、そうですね……お父様が見えていない部分で、困っている方が多かったら分かりません……」

「だ、大丈夫よ! アタシたちもお金以外は手伝うから」


 意気込みをいれるわたくしたちは、会議の場として好んで使っている花の庭にある白い籠のようなガゼボにいた。

 メイドも他に護衛もいない中、顎を押さえるレイが神妙な面持ちでわたくしを見る。


「実は、お嬢に話そうか悩んでいることがあるんですよねぇ……」

「先ほどから様子がおかしいと思っていたら、何かを隠していたのですね。正直に言いなさい」

「それが、モフモフ詐欺と同じ時期に聞いた噂話なんですがー。森の奥に、新種のモフモフが現れたとか?」


 新種のモフモフという言葉にわたくしは思わず立ち上がっていた。

 興奮したままレイに詰め寄ると、呆れ顔で詳細を話す姿に軽く頬を膨らませる。


「お嬢、興奮しすぎですー。そのモフモフは、複数の目撃者がいるんですが、同じモフモフを見た人は少ないんですよぉ」

「それは、気になりますね……。複数いるのでしょうか。ですが、新種など簡単に見つかるものでもありませんし……」

「森の奥っていうと多少、獰猛どうもうな魔物もいるけど……基本的にモフモフの森だし、大丈夫でしょう! 調査に行ってみましょうよ」


 素晴らしい提案をするチャコラに全身全霊で肯定したわたくしを見て、頭を抱えるレイは予想通りだった。



 森に入る準備を済ませたわたくしたちは、早速モフモフの森に向かう。

 城から遠くない場所にあるため、直ぐに入口につくと興奮するわたくしはレイに注意された。


「いいですかぁ。いつも言ってますが、俺の前に出ないように。それから、興奮しても大きな声を出さないようにしてください」

「分かりました! モフモフを驚かせてしまうかもしれませんしね。そうでなくても半径5メートルという物理的な距離がありますし……」

「悲しい運命さだめを背負っているからねぇ。気を取り直して行きましょう!」


 チャコラの元気な掛け声でわたくしたちは森の中に足を踏み入れる。

 最初は、普段見るモフモフに癒されながら進むけれど、ときおり近付きすぎたモフモフが恐怖の声をあげて走り去る姿に足が崩れかけるのを必死に堪えた。


「あー……ルキディア様、仕方ないわよ! もうすぐ噂の場所だし、頑張りましょう」

「そ、そうですね……。これは、今に始まったことではないですし……。自分で言っていて悲しくなってきました」

「お嬢、元気を出してください。着いたみたいですよー」


 わたくしが好む木漏れ日の広場を過ぎた先にある、開けた場所。

 小さな木々はあるけれど、草が生い茂っているだけでモフモフの影すらない。


 今日も快晴で、森の中は風が心地良くてわたくしはうっとりしていた。

 そんな中、森の奥から微かに音がして前方のレイは警戒して剣を抜く。


 すると姿を現したのは、虹色に輝く宝玉のように丸いモフモフした魔物だった。


「これが、噂の新種でしょうか……。ハッ! 声を抑えないと」

「見た目が派手ねぇ。でも、モフモフはしてる? 図鑑では見たことはないかも……」

「二人は少し離れてください。見た目が派手なだけなら良いが」


 一歩ずつ近付いていくレイに、わたくしは不安の中、両手を合わせて見守ることしか出来ない不甲斐なさを感じている。

 レイは護衛としてもわたくしの王国内最強と言える実力者だけれど、ただ守られるお姫様のように平然としているのだけは嫌だから。


 レイが部外者なのは変わらない。あと二年の関係だとしても、レイが来てくれてから友達のいなかったわたくしの心は救われた。

 異性間で友情が育まれるかは分からないけれど……。チャコラも加わって、わたくしが王妃としてこの国を背負ったときも、傍で見守っていてほしい。


「あっ……コイツ。突いたら変身しましたぁ」

「えっ……? モフモフじゃなかったのですか?」

「そうみたいです、けどぉ……近づかないでください。チャコラ!」


 わたくしが考え事をしている間に新種のモフモフ? に近づいていたレイは急に大声をあげる。

 緊急事態にわたくしとは違って直ぐに反応したチャコラは、有無を言わせずわたくしの腰を抱えて数歩下がった。


「失礼します! こっちは大丈夫! そっちはお願いっ」

「き、急すぎて驚くと声が出ないのですね……」


 虹色に輝く小型だったモフモフのかたまりは擬態を解く。

 見る見るうちにレイの身長を超えて、森の一部に早変わりした姿は『モフモフに擬態して捕食する魔物』だった。


「うわー。大きいわねぇ。木の化け物にしか見えないけど」

「森の木とは違って、枝がつるのように動いていますよ。それに、顔のようなくり抜きも……」


 木のお化けと表現した方が早いかもしれない。

 ついこの間レイが魔物学で教えてくれた。あのつるで獲物を串刺しにして、くり抜かれたような裂けた口のような部分に丸ごと飲み込んで捕食すると……。


「大丈夫です。サクッと終わらせます」

「ハ、ハイ! 気をつけてください」


 無数に伸びてくるつるを軽々とかわして魔物に近づいたレイは、踏み込んだ足で一刀両断する。

 その姿は、無駄がなく綺麗だとしか言葉が浮かばない。


 自分が倒されたことも分からないまま、生命活動を終えた魔物のことを気にすることなく剣を鞘に戻すレイは頭を掻いて近付いてきた。


「お嬢ぉ。残念でしたねぇ……。まぁ、そんな簡単に新種は見つかりませんし、次がありますよ」

「そんなことは良いのです。レイは、強いから不安はありませんが……あの魔物は、生きた年数によってギルドが討伐依頼を出すようなものです。油断はしないでくださいね!」

「ははっ。分かってますよぉ? でも、モフモフのことよりも俺を心配してくれたんですね。嬉しいです」


 隣に視線を感じて横を向くと、口を押さえて笑いを堪えているチャコラの姿がある。

 それに便乗したように、城のメイドや国民が目を輝かせるような笑顔を作るレイに顔をそらした。


「――レイ、チャコラ、共に不敬です。減給されたいのですか?」

「えっ……。俺まだ減給されているんですけど! これ以上減給ってあるんですか」

「ちょ、ちょっと! それは困るわ! せっかくお給金良くて、趣味にもお金を使えるようになったのに」


 平謝りする二人にわたくしは、思わず笑い声が漏れそうになって口元を押さえる。

 モフモフの新種じゃなかったのは残念だったけれど、今日も良い一日だった。

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