第五話 気分転換

 今日は、朝から空の色が灰色をしていて怪しいことから、森に行く許可は得られず、レイを連れて気分転換に街に来ている。

 毎日もふもふライフを夢見て努力をすることは、他のことでも継続は力なりというけれど……。

 わたくしに至っては、直ぐに解決できる問題ではないことが目に見えていた。


 だから焦らずに、ことを進めることにする。なぜなら、わたくしの心が先に折れそうだから。



 ここは城下街ということもあって、街は賑やかで活気にあふれている。

 モスフル城が青と白を基調とした建物だからか、街の屋根も大半が青く、白い壁は太陽が出ている穏やかな日は、光輝いていてキレイだ。


 城下街の市場のテントも青色で統一されていて、さまざまな食べ物や、小物などが売られている。名物は、砂糖菓子全般。

 最近の流行りは、飴細工のようで、沢山の職人がこだわりをもって、さまざまな動物から食べ物などを模して手作りしている。

 わたくしも、この間、街でモフモフの動物を模した飴細工を購入した。


 けれど、今回は気分転換といいつつ目的がある。

 それは、以前レイとも話をした身の回りの世話をしてくれる獣人族の女性を探すこと。

 でも、一つ問題がある。


「今日も街は穏やかですね。獣人族の姿は一切ありませんが……」

「ええ、活気があってとても素敵な街です。まぁ……種族的に、人族が一番多いですからねぇ」


 人族の街に他種族の人間は少ないこと。

 でも、この街にも情報収集で、さまざまな人が集まる場所がある。

 それが、ギルド。冒険者だけではなく、他の仕事なども紹介している王国機関でもある。


 ここだけは、他の建物と区別するために屋根の色が赤い色をしていた。ただ、壁の色は同じ白色で統一されている。


 大きな扉に、両サイドに大きな窓があって、外からも中を覗けて女性でも入りやすい構造をしていた。

 わたくしはレイの後ろをついて扉を開けて中に入る。実は、今日はお忍びの姿で来ていて、派手なドレスは着ていない。


 髪の色も魔法で焦げ茶色をさせ、三つ編みで一つに束ねている。どこから見ても、街娘に見えるはずとわたくしは、レイに訴えたのだけれど……貴族にしか見えないと言われてしまった。

 レイも今日は、派手な騎士ナイトのような護衛姿ではなく、街の装いをしている。


 それと、レイはギルドで冒険者登録もしているから知られた存在だった。注目を一心に浴びるレイを置いて、わたくしは募集掲示板を眺める。

 ここには、依頼の募集が貼り付けられていて、その中には自分を売り込んで仕事を探している者もいるからだ。


「うーん……残念です。獣人族の方が仕事を探している募集はありません」

「おう、見ない顔のべっぴんさんじゃねぇか~? 俺と、一杯やらねぇか」


 いつもはレイとともにいるから、男性に声をかけられることはないわたくしでも、怖がることはしない。

 どこの国でも、一定数こういう人間はいて当然なのだけれど……。自国民の男性でこれは、とても残念で仕方がない。


「申し訳ございませんが、わたくし、探している方がおりますので、失礼致します」

「つれねえこと言うなや。俺も、一緒に探してやるかさぁ――あっ……」


 すでにお酒の臭いがする男性の手がわたくしの肩に触れようとした瞬間、背後から氷のように冷たい圧がかかってきた。

 勿論、わたくしからは見えている。レイの鋭い紫色をした眼孔が、男性を睨みつけていた。しかも、その片手は腰にある剣に触れている。


「――その汚い手を、どこに置くつもりだ?」

「す、すいやせんでしたぁぁぁあ!!!」


 お酒に酔っているとは思えない身のこなしで、ギルドの扉を開けて走り去る姿に、他の客も唖然としている。

 けれど、直ぐに元の雰囲気に戻ると、レイは腰の剣からも手を離し胸元に片手を置いた状態で軽く頭を下げた。


「お嬢をお一人にさせて、申し訳ございませんでした。ご無事で、何よりです」

わたくしは、このとおりです。それよりも、あの方の方が……酔いが回って大変なことになりそうですね」


 わたくしは、王族として、いついかなるときでも、冷静で相手に屈しないと学んでいる。だから、男性に対して怖い対象だと感じたことはない。

 城では、騎士もほとんど男性で耐性もありそうだ。

 そんなわたくしは、人間の男性よりも、苦手なものがある。それは、見た目が気持ち悪い生き物……。

 モフモフだったとしても、それは駄目。


 気を取り直してギルドの受付で、獣人族の女性が仕事を探していたりしないかとレイに聞いてもらうことにした。

 勿論、あのときの専属受付嬢が対応している。

 彼女も、レイに対する目付きが乙女のように感じていた。これは、女性であるわたくしの勘がそういっている。


 けれど、レイは誰にもなびくことはなく普通に接しているからか、誰も食事の誘いすらしてこない。

 彼が、わたくしの護衛になる前のことは深く聞いていないけれど、お父様の知り合いの息子と聞いたから、貴族ではあると思っている。


 レイを待つ間、少しだけれど椅子に座っているように言われて窓側にある二人がけのテーブル席にいた。

 ときおり中の様子が気になる子供たちに手を振られて振り返す。大きい王国ではないけれど、とても穏やかでのんびりした良いところだと自慢したい。


 ふと視線に気がついて前に向き直ると、レイの姿があった。レイもわたくしに許可をとって隣に座る。


「やはり、自分から名乗り出て仕事を探している獣人族の女性は少ないようですねぇ」

「こればかりは、仕方ないですね……男性もいないのですか?」

「獣人族の男性は、1人居ましたが……男性にお嬢の身の回りの世話は出来ませんし、その者は兵士希望でしたよ」


 身の回りの世話といっても、メイドがする仕事ではない。護衛であるレイの仕事とも別で……簡単にいうと、わたくしの話し相手。

 求めているのは、気兼ねなく話ができる友人かもしれない――。

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