第34話 深夜の闘争

 外に出ると町は静まりかえっていた。通りには誰もおらず魔石燈の淡い明かりだけがあたりを照らしている。

 少し歩きだすと、向こうから一人の男が歩いて来るのが見えた。

 俺には、男の装備が全てかなりの業物だということはすぐにわかった。

 白金プラチナ級冒険者であれば、相手にとって不足はない。


「ヤードさん。だったかな」

 俺はそう呼びかけ、改めて名乗った。

「酒場で会ったヤツだな。あの時、怪しいと思ったのは当たっていたな」

「俺は帝国のしがない銅級冒険者だ。肩書は別にあるにはあるが」

 ヤードは少し首を捻り、ではいくぞとさっそく突っ込んできた。

 一刀目を見切ってやり過ごし、体を入れ替えて俺は後ろに飛び退った。

「帝国の銅級はレベルが高いな」

 ヤードは早めにケリをつけたいのか、さっそく身体強化を纏った。

 隙を与えず、俺は拳を握ると突っ込んでいった。

 不意を突かれたヤードは、少し遅れて地を蹴った。

 俺はその時に瞬時にヤードの魔力を吸収して奪い、そのまま自分に身体強化を施した。

 そして速度が緩んだヤードの剣を紙一重でかわし、装備越しだったが彼の鳩尾辺りに思い切り拳を叩き込んだ。

 装備がなかなかの物だったため、胴当ては破壊はできなかったものの、衝撃波がヤードの体の内部に走ったようだ。


 さすが白金プラチナ級だけあって、言葉は出ないが息はしているし、意識もある。

 俺は傍らに座り、ヤードを見守った。

 しばらくして何とか言葉が出るようになるとヤードは俺に訊ねた。

「あれはスキルか」

「いや、体術は自前だが、あんたの魔力を奪ったのは加護だ」

「それで銅級は詐欺だろう」

 ヤードが苦情を言ったので、俺は笑った。

「まあ、色々と事情があるんだ」

 ヤードは咳き込んで顔を顰めたが、大丈夫だと手を挙げた。

「俺はここに置いていけ、朝には何とか帰れるだろう」

 俺はダメもとでヤードに訊ねてみた。

「依頼人は誰だ」

「ダイン公爵だ。冒険者組合では匿名依頼は禁止されている。俺が明かしてもなんの問題もない」

「俺はこれでも身分は帝国大使付き一等将官だぞ、どういう依頼だ」

「ソニア嬢の保護が名目で、連絡があったら排除に向かうというものだ」

 奇妙な依頼だな、と俺がつぶやくとヤードは舌打ちをした。


「依頼は失敗な上にこんな目に遭うとはね」

「気の毒なことをしたな」

「いいさ、この間言ったように前金はもらっている。ところでこれからダイン公爵の所に行くのか」

「聞きたいことがあるんでね。話をするだけだ」

 ヤードはお前に言う必要もなさそうだが、気をつけろよと呟くと、限界だったのか目を閉じて寝息を立て始めた。

 俺は少し考えて、もう大丈夫だろうと死の首輪デスネックレスをクラークから外し、目の前に横たわるヤードに施した。

 俺はヤードがこのまま殺されてしまうには惜しい男だと思ったのだ。

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