第20話 尋問の時間

「縄を解いてやれ」

 眼鏡の男はそう言った。

 髭の大男はハッと素早く答えると不器用そうに少し時間がかかったが縄を外した。

「ここで自由にするくらいならもう少しやり方があっただろう。それであんたは何者だ」

 俺は苦情を言った。

 それを聞くと眼鏡の男はクックッと笑った。


「私はクラークだ。一応このあたりではそこそこ顔の効く男だと思ってくれ。お前をここに連れて来るやり方については警告の意味もあった」

 なるほど、とは思ったがあまり意味がなかったようだ。

「しがない仲買人ブローカーになんの警告だ。人違いじゃないのか」

「いや、間違いなくお前だ」

 そう言って俺の名を告げた。

「間違いはなさそうだな。だが、突然殴られて目覚めの悪い思いをさせられるいわれはない」

「それはどうかな。この後に及んで嘘をつくのは余り賢くはないぞ」

 俺はフンと鼻を鳴らした。

「わかっていることをわざわざ俺に言わせるために殴って縛り上げるとは念の入った話だ。少しは手間を省いたらどうだ。それとも暇なのか」

 クラークは少し真顔になり俺を睨んだ。

「じゃあ言ってやろう。お前は仲介人ブローカーではなく、大使館付き将官だ。そして身分を偽って商人といい、方々に出入りしオロスにまで行った」

「それが何か問題か。装飾品好きの軍人がいても問題あるまい」

「マヨラムを帝国で扱いたいとまで言わないだろう。客として買うのであればわかるが」

「どうだろうな。軍人が副業で商売するのが問題か。戦争もなくてこの頃じゃ帝国軍人も肩身が狭いんでね」

 俺はばれたことはともかく、その他のことはしらを切り通した。

 理屈の通った怪しい言い訳であれば、相手は絡みやすいだろう。


 クラークは真顔になると俺を見て言った。

「マヨラムを探っている目的を言うまではここを出られないぞ」

 俺は腕を組んで脅しをかけた。

「腐っても一等将官だぞ。いつまでも俺が姿を現さなければ大使が動く。それでもいいなら、いつまででもいてやるから安心しろ」

「またオロスにでも行くと偽のメッセージを大使に送っておくさ。お前の筆跡はもう手に入っているから、どうにでもなる」

 さてはどこかで書いたサインでも手に入れたか。

 それに俺が王国に来ている事情が事情なので大使館に顔を出さなくとも怪しまれることはない。なかなか頭が働くやつだ。


 俺はため息をついた。もちろん嘘のため息だが。

「仕方ないな。ここにいる間、むさくるしいこの男に色々やられるのは御免だからな」

「察しが良いな。私はこれでもあまり暴力は好かないたちでね」

 良く言う、だったら警告なんぞで殴らせるな。

「ただ、条件がある」

「聞くだけ聞こう」

「あんたにだけ話す。この男は外に出してくれ」

 俺が髭男を見ると、ヤツはクラークを見てこいつどうにかしましょうかというような顔をした。

「わかった。デレク、外で待て」

 クラークがそう言うと髭男改めデレクは、この野郎というように俺を睨んだ。

 俺はデレクに笑顔で応えた。しかしクラークの命令は絶対らしく文句を言うこともなく、外に出てドアを閉めた。

 それを見届けると、俺は気づかれないように部屋に結界を施した。

 余計な面倒を避けるためである。

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