第13話 謎の商会
リベルはもともとこの村の生まれで、若いころに村を出て街に行った。理由は村では食えなかったからである。
男であれば林業に就くことも出来たが、女は出稼ぎに出る。
街で仕事を見つけて稼いでその中から実家に仕送りをするのだ。
リベルは生来手先が器用だったということもあり、村に来た行商の伝手で王都の宝飾品の工房の手伝いの仕事を得た。
ちょうどその頃は王国も復興が成って景気も良くなりつつあったので、服飾や装飾品の需要が高まっていたらしい。
「時期が良かったのです。私はそこのオーナーに宝飾のデザインの手ほどきを受けて手伝っておりました」
「それが今につながるのですね」
「ええ。私にデザインを手ほどきしてくれたオーナーは高齢で、私が務めて十年目で工房自体を人に譲り、引退されてしまいました。そこで新たに工房を引き継いだオーナーが、新しいブランドを作りたいとおっしゃりまして、デザインができる私に目をかけてくださいました」
「そのオーナーはどのような方なのですか」
「宝飾以外にも服飾や家具、敷物なども扱っている商会の方で、特に宝飾は専門のディーラーを抱えているような方でした」
「それはすごいですね」
「はい。その方が、これまでには無いハイブランドを作りたい、そのためにはデザインが他店に漏れることが無いようにしないと困ると言われたのです。それで私は故郷のこのオロスが頭に浮かびました。林業以外の者は来ることもなく、秘密は守れますし、宝飾関連の鉱物の生産も少ないですがあります。それに村の若い娘に仕事も与えることができますし」
そのオーナーはいったい何者なのか、俺はそれが気になった。
「それでここに工房を作られたのですね」
「すぐにそれは良いとおっしゃられて、私名義で工房を作られました。なんでも自分の商会の名義ではすでに知られていて、目新しさが無い。ブランドには謎めいたところが必要だから、と言われまして」
おそらくはマヨラムとの関りを隠したかったのだろう。理由はハッキリとはわからないが、その商会の背後には何かある気がした。
「それではやはりその出資された方のお許しが必要ですね。もし可能であれば、私がその出資された商会の方と直に交渉をさせて頂けないでしょうか」
リベルは困ったような表情を浮かべて首を振った。
「契約でそれは秘密にするとあるのです。ブランドがその商会の系列だとわかると、逆宣伝になってしまうと言われまして」
筋は通っていた。
手広くやっている既存の商会が実質のオーナーであることが漏れれば、これまで作り上げたブランドのイメージが失われてしまう。
「それはわかります。では、今回の用件はリベルさんに一任して私はその連絡を待つこといたします。もしも断られても気にされませんように。商売にはこういうことはつきものですので」
リベルはリリアではなかったが、収穫はあった。
話のあとでいくつか商品を見せてもらい、手に取って知りたいことが確認することができた。
そこにあるマヨラムの宝飾品からは魔力は感じられなかったのである。
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