第84話 アリスのお願い

「ジル様、お願いがあるのですけど……」


 ある日の放課後。隣に座ったアリスがちょっと言いづらそうに眉を下げて言った。かわいい。


「どうしたの? なにか欲しいものがあるとか?」


 アリスのためなら、なんでも買いたくなっちゃうよ!


「欲しいものと言いますか……。ジル様の時間が欲しくて」

「オレの時間? いいよ」


 アリスのために時間を使うなんて全然余裕だね。むしろ積極的に時間を使いたい。


「ありがとうございます、ジル様! えっと、王都で行ってみたいお店があって……」

「お店? また服飾店にでも行く?」

「いいえ。その、お菓子屋さんをいくつか……」

「お菓子屋さん? いいね! 王都のスイーツ巡りでもしようか!」

「ありがとうございます!」


 ホッとした様子のアリスがかわいくてニマニマしてしまいそうだ。


 あれかな?


 お金を払うのはオレだから遠慮しているんだろうか?


 そんなの気にしなくてもいいのに。どうしても気になるようなら、アリス用のお小遣いとか導入してみようかな?


 アリスもお金を管理することで成長するかもしれない。


 でも、適正なお小遣いの額がわからないな。多すぎてもアリスが恐縮するだろうし、逆に少なければ本末転倒だ。お小遣い制を導入するのはもうちょっと後の方がよさそうだね。


「お前らどっか行くのか? 俺もまぜてくれよ」


 両肩に手を置かれたので見上げると、オレを見下ろすコレットと目が合った。


 こいつ、本当に顔はいいんだよなぁ。さすが主人公だ。


「コレット、馬に蹴られてしまいますよ?」

「なんだそれ? 俺なら避けれる!」

「そういう意味ではないのですが……」


 アリス、コレットにそんな遠回しな物言いじゃ伝わらないよ。


「コレット、オレとアリスはデートだ。邪魔するな」

「あん? なんだよ、デートかよ。最初からそう言えよな」


 そう言ってオレの両肩をペシペシと叩くコレット。


 オレは苦手だから使わないけど、貴族の話し方って回りくどいことが多い。コレットってちゃんとみんなと会話できているのだろうか?


 ちょっと心配になってしまう。


「なあ? 俺も付いて行っていいか? 邪魔はしないからよ」

「ダメだ。どこの世界に婚約者とのデートに他の女同伴する男がいるんだよ」


 そんなの地球でもこの世界でも白い目で見られるぞ。


「ちぇっ。わぁーったよ」


 コレットがオレの両肩から手を下ろすと、ベシッとオレの背中を叩いてくる。


 痛い。


 べつに故意に仲間外れにしたわけじゃないんだけどなぁ。なんか理不尽じゃね?



 ◇



 そして、アリスとのデート当日。


 オレは早めの時間から校門でアリスを待っていた。


 実は、時間さえ合えばオレはアリスとデートしている。観劇に行ったり、王都の街並みや観光名所を訪ねたり、食べ歩きしたり、ね。わりと王都を満喫しているのだ。


 今日のようにスイーツ巡りは初めてだけどね。


 この日のために情報収集して、おすすめのお菓子屋さんやカフェを調べ上げたオレにエスコートできない場所なんてないよ。


 ちなみに、オレの主な情報源はエヴプラクシアやコルネリウスだ。エヴプラクシアはもちろん、コルネリウスも甘党でお菓子に目がないらしい。


 ……あのドワーフ、ギャップしかないな。生まれる種族を間違えたんじゃないか?


 そんなことを考えていると、遠くに白と青のワンピースを着たアリスの姿が見えた。どんなに遠くても、オレがアリスの姿を見間違えるわけがない。


 アリスはオレの姿に気が付くと、小走りで近づいてくる。


 まだ約束の時間前だから、そんなに急がなくてもいいのに。


 でも、笑みを浮かべて走ってくるアリスの姿があまりにもかわいらしい。


 動画に納めたい!


 なんでオレの目にはスクショ機能も動画機能も無いんだ! できることならそんな機能が付いたギフトが欲しかったよ!


 本気で悔しくて地団駄を踏むのをこらえていると、アリスがオレの目の前に到着する。


「お待たせしました、ジル様!」

「待ってないよ。オレも今来たところだ。今日のアリスもかわいいね」

「えへへ。ありがとうございます」


 はにかむアリスが尊い。尊すぎる!


 今日のアリスは、前に王都で買った白を基調としたワンピースだ。頭の帽子もよく似合っている。清楚なアリスにはぴったりだね!


「馬車は用意してある。行こうか」

「はい!」


 手を差し出すと、アリスがオレの手を取った。


 そのままアリスをエスコートして、馬車へと乗り込む。


 オレもアリスも礼儀作法の授業を受けているからね。きっと前よりもかなりスムーズにエスコートできるようになったはずだ。


 やはり、練習すれば身につくんだなぁ。


 オレも焦らずにしっかりと基礎を確認しながら格闘術を伸ばしていこう。


 そんなことを思った。

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