第36話 白虎とアウシュリー
「決めた!」
白虎装備にしよう。たしかにブラッディ装備の耐久力には惹かれるものがあるが、白虎装備の瞬間火力は逃せない。
目の前に浮いたウィンドウの白虎装備の欄をポチッと押すと、宝箱の中に白と黒の縞々の装備が現れた。
これが白虎装備か。できるなら女の子に着せたい装備なんだけど……。仕方ない。
オレは白虎装備を収納空間に収納すると、黄金の神殿を後にした。
◇
学園に戻ると、オレはさっそくアリスに会いに行った。女子寮の前でメイドにアリスを呼んできてもらうように頼むと、すぐにアリスが姿を現した。
「ジル様、午前中はどこに行っていたんですか?」
現れたアリスは腰に手を当てて少しご立腹の様子だ。
「ちょっと王都を見学しててね」
「ずるいです! わたくしも王都を見て回りたいのに!」
「じゃあ、アリスも一緒に行く? たりないものとかあるかもしれないからね」
「はい!」
そんなこんなで、オレは今度はアリスと一緒に王都へと飛び出した。
「本当に人がいっぱいいますのね。オレールの街でも驚きましたけど、王都はそれ以上です」
「さすが王都だよね。そういえば、アリスは授業に必要な物はすべてそろってる?」
「一応そろえてはきましたけど……」
「どうしたの?」
「あー、う~……」
アリスはなぜか言いづらそうにしていた。それどころか、アリスの顔が少しずつ赤くなっていく。その空のような瞳も潤んで、目じりには涙まで浮かんでいる始末だ。
アリスが口元で、手でメガホンを作ってみせた。
あまり周りの人間には聞かれたくない内容らしい。
オレはアリスに耳を貸すと、アリスが今にも消え入りそうな震えた声で囁く。
「その、下着が少ないんです……」
「え?」
「ですから、あーもー。し、下着です」
予想外の答えに、オレはアリスの顔をまじまじと見てしまった。
「そんなに見ないでください……。わたくしだって恥ずかしいんです……」
「ご、ごめん……」
まさか下着ときたか……。女性用の下着ってどこに売ってるんだ?
しかもただの下着じゃない。貴族の女の子が着ていてもおかしくない下着だ。
「切羽詰まってる感じ?」
「まだ一応予備はありますけど……数は心許ないです」
「なるほど……」
どうしたものかと周りを見ていたら、ちょうど服飾店があった。色合い的に女性用じゃないか?
まぁ、このままではわからないし、訊いてみるか。あそこで売っているならよし、もし売ってなくても、別の店を紹介してくれるだろう。
「アリス、あそこに行ってみよう」
「はい……」
アリスを連れて服飾店に入ると、ドレスを着たマネキンが出迎えてくれた。やはり女性用の服飾店か。ここで売っていればいいんだが……。
「いらっしゃいませ。あら……?」
女性店員が不思議そうな顔でオレたちを見ていた。
「ここは女性用の服飾店で間違いないか?」
「はい。左様でございます」
「アリス、ここで頼んでみたらどうだ?」
「はい。あの……。下着が欲しいのですけど、売っていますか?」
「はい。当店は下着からドレスまで、オーダーメイドを承っております」
「オーダーメイド……」
アリスが不安そうな顔でオレをチラチラ見ていた。
「では、こちらの子の下着を……そうだな、五セット頼もう。アリス、それでたりる?」
アリスはオレを見てコクコクと頷いた。決まりだな。
「では、お嬢様はこちらへどうぞ。採寸いたします」
「じ、ジル様……」
「行ってらっしゃい、アリス。オレはここで待ってるよ」
アリスは店員に連れられて奥へと通されていった。
さて、どうやって時間を潰そうかと考えていると、女性の店員が近づいてきた。
「お部屋を用意いたします。どうぞそちらでお待ちください」
「ありがとう」
◇
さすが、高級店だけあって貴族の扱いになれているのか、サービスはよかった。なにも言わなくてもお茶とお菓子が出てくるし、お世話係兼話し相手として女性店員が付いてきた。
その話の中で発覚したのだが、学園の生徒、それも貴族がなにかを注文する時、学園に商人を呼び寄せるのが一般的らしい。だから、オレたちを見た店員が不思議そうな顔をしていたのか。
それに、貴族は普通、馬車で移動するし、従者が付いている。馬車もないし従者もいないオレたちは、さぞかし変な客として映っただろう。
今度から買い物は学園を通して商人を呼ぶことにしよう。
それからかなりの時間が経って、やっとアリスの採寸が終わった。採寸だけでなんでこんなに時間がかかるんだと思ったのだが、下着のデザインなんかも決めていたらしい。アリスとしても初めてのことだろうし、余計に時間がかかったのだろう。
「世話になったな」
「ありがとうございました」
店を出る頃には、もう夕日に空が赤く染まっていた。
店を出ると、無骨な雰囲気の男が付いてくる。店がオレたちを心配して護衛を付けてくれたのだ。
やはり高級店。サービスが行き届いているな。
服飾店アウシュリーか。その名前、覚えたぞ。
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