第32話 第二十階層ボス戦。決着

 ブオンッブオンッ!!!


 体を半身にして、オークジェネラルたちの両手斧を連続で回避する。まずは右のオークジェネラルから片付けよう。


 オークジェネラル。その二メートルを超える筋肉質な体格は、間近で見ると脅威だ。このオークジェネラルの操る両手斧の一撃は、オレを即死させることができるだろう。


 動きやすさを重視して、オレの装甲は紙みたいなものだからね。


 だが、懐に飛び込んでしまえば、一気にオレが有利になる。


「ファストブロー! ダブルブロー!」


 スキルを使って一気に倒す。拳を打ち込むたびに、オークジェネラルの金属鎧が弾け飛んだ。


「フィニッシュブロー!」


 左右の乱打からのアッパー!


 もちろん、そのすべてにタスラムの追加攻撃も発動する。合計二十発の連続攻撃だ。


 さすがにこの猛攻には耐えられなかったのか、ついにオークジェネラルが後ろへと倒れていく。ドサッと重い音を立てて白い床に大の字に倒れ、ボフンッと白い煙となって消えていった。


 ブオンッ!!!


 しかし、オレにそれを悠長に眺めている時間はない。オークジェネラルはもう一体いるのだ。


 オークジェネラルの両手斧の一撃を回避する。そして、オークジェネラルの懐に潜り込もうとしたら、今度はオークキングが王笏で殴りかかってきた。オークジェネラルの隙をカバーするように立ち回っている。厄介だ。


 オレはのけ反るようにして、ギリギリのところでオークキングの王笏を回避する。


 その頃にはオークジェネラルは両手斧を振り上げていて、隙が無い。


 二対一というのは、圧倒的に不利だ。オークジェネラルとオークキングはお互いの隙をカバーするように連続攻撃を仕掛けてくる。これでは手が出せない。


 が、手はある。


 オレは小さな収納空間を展開すると、その中からあるものを左右の手に取り出した。


「指弾!」


 そのあるものとは、ビー玉より一回り大きなサイズの鉄球だ。それを左右の親指で弾いて、オークキングを狙う。


「指弾!」

「GAHU!?」


 スキルとしてMPを消費するだけあって、指弾の威力は強力だ。見る見るうちにオークキングがボコボコになっていく。指弾にもタスラムの追加攻撃が乗るからね。使っているオレでも卑怯なくらいエグイと思う。


 オークキングが指弾を嫌ってオークジェネラルの後ろに隠れた。この時こそ好機!


 ブオンッ!!!


 オレはオークジェネラルの両手斧を紙一重で回避すると、オークジェネラルの懐へと潜り込んだ。


「ラッシュ!」


 そして、殴る! 殴る! 殴る!


 殴るたびにオークジェネラルの体はくの字に折れ曲がっていき、オークジェネラルは立ったまま絶命したのか、そのままボフンッと白い煙になった。


 その煙を突き破るように王笏が目の前に現れる。


 オークジェネラルの後ろに隠れていたオークキングの不意打ちだ。


 だが、オレはそれさえも計算していた。


 オレの足は事前に決められていたようにステップを踏み、オレは回転するようにオークキングの王笏を避ける。


「GABU!?」


 そして繰り出されるのが、右の裏拳だ。タスラムはオークキングの頭蓋骨を容易く砕き、その追加攻撃でオークキングを滅殺する。


 オークキングも白煙となって消え、戦場にはオレ一人だけが立っていた。


 完全勝利だ!


「ジル様ー!」

「アリス!」


 アリスがオレに飛び付くように抱きしめてきた。ふわりと香った薬草の匂いに安心感を感じる。


「すごいです、ジル様! あんなに強そうなモンスターを一人で倒してしまうなんて!」

「ありがとう。でも、それを言うならアリスもすごいよ。あんなにたくさんのモンスターを一気に片付けてしまうなんてね。あれは爆発ポーションだろ? アリスの錬金術の成長スピードはすごいね。毎回驚いてしまうよ」


 アリスと抱きしめ合っていると、じんわりと彼女の体温が伝わってくる。それがとにかくオレを癒していく。このままアリスを抱きしめたまま寝てしまいたいくらいだ。


「とりあえず、これで目標の二十階層はクリアだね」

「はい!」


 オレもそうだけど、アリスもかなり肉体レベルが成長したと思う。そのことは、錬金術でMPを使うアリス本人もわかっているだろう。


 それに、今のアリスの笑顔は大輪の花が咲いたように美しい。


 少し前までのアリスからは想像もできないほど、アリスは明るく前向きになってくれた。


 エロー男爵家で虐げられてきただろうアリスにとって、自分にもできることがあるというのは、自己肯定感につながり、やがて自信になったのだと思う。


 ダンジョンに行って、肉体レベルが上がって、できる錬金術が増えていく。そうした正の連鎖が、傷付いたアリスの心を癒してくれた。


「ジル様、あれ!」

「ん?」


 アリスの目線の先には、大きな木の宝箱があった。二十階層をクリアしたご褒美だね。


「開けてみようか」


 中身はランダムだからオレにもわからない。なにが出るかな?


 できれば当たりアイテムの豪鬼の籠手だといいけど……。


 期待しながら宝箱を開けると、中には白い粘土のようなものが入っていた。


「これって何でしょう?」

「これは錬金術用のアイテムだね。人工精霊の素体だよ」


 まさか、一番確率の低いレアアイテムが出るとは思わなかったな。


 オレは白い粘土を掴むと、アリスに差し出した。白い粘土はひんやりとしていた。


「これはアリスが持っているといいよ。まだ無理だけど、アリスが錬金術を極めていけば、心強い味方になってくれるはずだ」

「ありがとうございます、ジル様」

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