俺の気持ちを踏みにじり笑いものにしていた幼馴染を棄ててみたら青春がはじまりました
サドガワイツキ
第1話 クソみたいな幼馴染にあばよ!!!!
「菜穂、俺と付き合ってくれ!!」
「……う~ん、祐ちゃんのことは嫌いじゃないけど、やっぱりちょっと考えさせてほしい」
ここは放課後の校舎裏。
これで4度目になる幼馴染への告白だったが、今回ものらりくらりとかわされて断られてしまった。
俺の目の前にいる栗色のショートボブが似合う女子は俺の幼馴染で御木本菜穂と言う。幼稚園の頃から続く腐れ縁で、家も隣の友達以上、恋人未満の間柄である。
そして高校生になった事を機に関係を進めようと告白するもこうしてずっと断られている。
とはいえ菜穂も他に彼氏がいるとか、好きな男がいるという訳ではないし、デートにでかければ二つ返事で来てくれるので一緒に出かけたりもする。
なのにどうしても告白にうんと言ってくれないし、その理由を聞いても、迷っているからというので俺としても手の打ちようがない。
こうして今回も俺、川田祐一の告白は玉砕に終わった
そんな4度目の玉砕が終わって数日後の昼休み。
教室近くの男子便所が満室だったので校舎のはずれの古いトイレにかけこもうとしたところで、トイレ近くの階段の踊り場で話しているであろう女子達の声が聞こえて来た……菜穂と他のクラスの女子の声だ。
「また裕ちゃんに告られちゃった〜、これで4回目♪」
これは聞き間違えるはずもない菜穂の声だ。
「川田も頑張るねぇ~。でも菜穂、なんで川田君を振ったの?あんなに仲良いじゃない。何が嫌なの?」
「え~?裕ちゃんの事は嫌いじゃないよ?」
「じゃあ付き合えばいいじゃん」
「だって簡単に返事をしたらなんかつまんないじゃない」
――――つまんない?なんだよそれ
俺はほぼ無意識にスマホをとりだし、スピーカーモードで録音ボタンを押した。階段を反響して女子達の声がよく聞こえる。さぞよく録音が捗るだろう。
「えぇ~?」
「あー、なんかわかる。男子が付き合いたくて必死になってるのってなんかみていて女子として優越感、感じるよね」
「それそれ!そうなのよ!なんか焦らす程どんどん必死になるのってみていて面白いから、もうちょっとこうやってはぐらかすのもいいかなって。愛されてるって感じするしぃ?」
「わぁ、ドン引きだわぁ、ないわぁ。そんな事してるといつか後悔するよ」
「いやいや、何言ってるのよ藤岡さん。簡単に告白受けずにじらしてはぐらかして縋ってくるのにマウントとるのってめっちゃくちゃ優越感感じて興奮するんだって、楽しいよ」
「えぇ?わけわかんない、幼馴染でしょ?」
「幼馴染って言っても家が隣なだけの他人だよ。だから、裕ちゃんの告白を、焦らしてるんだ~♪」
優越感?マウント?……俺の気持ちはどうなるんだよ。
告白するのだって、いろんなことを考えて、悩んで、勇気を振り絞ってしてるんだ。それをそんな弄ぶように振っていただなんて聞かされて、好きなままでいれるはずがない。
その瞬間、あれだけ好きだった菜穂への愛情がどんどん冷めていくのを感じた。
俺の真摯な気持ちは、一時の優越感とやらを感じるために踏みにじられていたのだ。
それがわかった瞬間、その場に怒鳴り込んで問い詰めてやりたいほどの怒りがわきあがるが、それすら一瞬で超越し、失望、呆れ、諦め。そういったところまで過ぎ去った。
あんな女、もうどうでもいい。もう付き合いたいとも思わないし、相手する価値も無いわ。
一緒にいた時間は長かったが、それも今日この瞬間までだ。
次の日から、俺はいつもなら菜穂が起きて家に迎えに来る時間より早くに家を出れるように早起きをして、一人で学校に行くようになった。
菜穂とは小学校から昨日までずっと一緒に登校していたが、もうそんな気すら起きない。愛情は反転して憎しみになり、それを超過して無関心に到達してしまっている。つまり、無だよ無、もうなんもない。
最初は先に言ったことに対して文句を言われたが、適当に聞き流した。
そしてれからは当然のように一人で登下校し、菜穂とも話さなくなった。クラスメイトとして必要な話はするが、わざわざ一緒にいることもないのでこちらから距離を取るようにする。それが不満なのか菜穂はあれこれと話しかけてきたが、全部適当に対応するようにしていた。
そして菜穂とでかけたりしていた時間が空いたが、部活もやってないので暇つぶしに図書館にいくと、うちの学校は意外と図書館にマンガが取り揃えてあった。
歴史ものの漫画や、天才外科医の漫画、あるいは、燃える転生クソバードとか。
昼休みや放課後は図書館に入り浸って漫画を読むことに没頭したが、結構ハイペースでよんでいたので2週間ほどたつと読むものがなくなってしまった。
どうしたものか悩んだので、図書委員で貸出係をしている女子に話しかけてみることにする。
「すいません。漫画を全部読んじゃったんですけど、なんかあまり本読まないおれみたいなのでも読めるような本無いですか?ラノベとか」
俺のそんなぶしつけな質問に係の女子はわたふたとこまっていたが、色々と俺に質問をしながら好みや系統を考えてから、ひとつのシリーズをおすすめしてくれた。
G.H.H(ギャラクシーヒーローヒストリア)。というその小説は、銀河を統治した銀河皇帝の立志伝、というようなスペースファンタジー小説らしい。
俺達の父親世代に産まれた古い作品だがアニメ化も何度もされているという説明が気に入ったので読み始めてみると、読みやすい上に面白く魅力的なキャラクターに魅了されてどっぷりはまり図書室の閉館時間までに1巻を読み終わってしまった。
「ありがとう、これ滅茶苦茶面白かった!2巻借りてくよ」
「本当ですか?よかったです」
図書委員の女子にそうお礼を言うと、はにかむように笑う女の子の笑顔にちょっとだけドキっとした。
そして帰ったら続きを読むぞと俺はウキウキしながらG.H.Hの2巻を借りて帰った。その日は主人公の幼馴染の親友で相棒と言うべきキャラがあっさり死んでしまったのはショックを受けた。未来の銀河皇帝、いきなり親友失ってるけど退場はやすぎません作者様??
そんなこんなでG.H.Hすっかりハマった俺は俺にシリーズをすすめてくれた図書委員の女子とも話すようになり、北乃八雲というその女の子と本を借りていっては感想の交流をするようにまでなっていた。北乃さんはお父さんからのすすめでこの作品を知っていて、実は親子でこの作品のファンだったらしく作品への造詣が深い。
今では放課後に北乃さんとあのキャラはどうだとか、あの展開が、とか小説を読んだら北乃さんと話し込む、というのが俺の楽しみだ。
このころになると、もう俺の頭の中には菜穂の事はなかったけど、特に問題は無かった
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短編作品になりますが、もしお気にめしましたらブックマーク、応援、評価頂けましたら嬉しいです。
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