第六話 調査開始


 さっきこそスライムに押しつぶされたり、怪しい女性に遭遇したりしたが、それ以外の時間俺は松明を持って歩いていただけだ。

 遺跡の調査とやらはクリスタに任せっきりである。


「えーっと……そうですねぇ、ヴァリウスに理解できるでしょうか……?」

「ぐっ……」


 少しだけ考えこんだクリスタから、言葉のナイフが投げられる。

 今のは純粋に傷ついた。

 クリスタ自身に馬鹿にしたような様子は無いので尚更だ。


「ま、まあ最低条件くらいは知っておいても損はないだろ?」


 とはいえ今は真面目な話の時間だ。

 悟られるのも嫌なので、そのまま続ける。


「そうですねぇ、最低条件としては遺跡内部の罠の有無、生息する魔物の程度等々危険度の判別と……大まかな地図の作成ですかね」


 クリスタが分かれ道を見ながらそう言う。

 クリスタが言葉に詰まった理由は分かる。あの女性のせいだ。


 あの女性が姿を消したのは左の通路。

 通路は十字に分かれはしているが、地図の作成となるといずれ左の通路も調べなければいけない。

 全ての区画を調べなければいけないわけでは無い様だが、ここは入口から初めての分かれ道だ。

 浅くても少しは調べなければ、報酬に関わってしまうだろう。


「まあ、まずは右から調べるか。あの女性も2方向調べ終わるころには帰ってるだろ、多分」

「そう上手くいきますかねぇ?」


 おそらく帰ってないんだろうな。

 そう思いつつも言葉には出さずに俺たちは右側の通路に進むこととする。

 とりあえず足を動かして、選択肢をつぶしていくのが手っ取り早いだろう。


「ええ……?」


 だがしかし、そう思って俺たちが数十歩、右の通路に足を進めたところ。

 上が見えないほど高い壁に突き当たってしまった。


「古代の昇降機みたいですねぇ。今は動いてませんが」

「……目印立てて真っ直ぐ行くぞ!」


 先が思いやられる。


◇◆◇◆◇


「おいおい……嘘だろ……?」

「これはビックリですね……」


 通路を進んで数十分後。

 俺たちは先程建てた目印を見下ろしていた。


「高いな……」


 恐らく大の大人が10人連なっても届かないであろう高さから、先ほど建てた目印の傍。

 今しがた投げ落としたばかりの、微かに燃える松明を覗く。


「飛び降りますか?」

「馬鹿言うな」


 確かに俺なら飛び降りても死なないし、クリスタは飛べば降りられる。

 だが不死者とはいえ痛みは感じるわけで。

 この高さから落ちれば、文字通り死ぬほど痛いだろう。


「この先はもう見た分かれ道だし、引き返してまっすぐ行こう。左の通路を探索するのはその後でも遅くないだろ」

「左の通路さえ探索出来ればもう帰っても良いと思うんですけどねぇ」


 あの後、直線通路をしばらくまっすぐ進むと右側に脇道があった。

 クリスタが言うには右側から進んだ方が地図作りが楽だそうで、俺たちは嫌な予感を抱えながらも進んだわけだ。

 道中魔物が出ることは無く、安全にここまで来ることができたのだが……

 まさに問題は、そのことなのだ。


「ここまで魔物が出ないってことは、やっぱりあの人だよなぁ……」

「まあ、ですねぇ……」


 恐らくあの女性は、先にこの道を通っていたのだろう。

 証拠になるのは、道中やけに焦げ臭かったこと。

 炎の魔法で付けられたような、焦げ跡がいくらか残っていたように思う。


「ヴァリウスは気付かなかったかもしれませんが、道中の部屋、倉庫だったみたいです。焼け焦げて役に立つ物は一切ありませんでしたが、恐らく彼女はあの部屋で魔物と戦闘したんしょうね」


 あの部屋に黒く、大きな折れ曲がった棒状のものがいくつか転がっていたのを思い出す。

 あの時は気付かなかったが今思えばアレは魔物の残骸だったのだろう。

 おそらくそれは、大きな蜘蛛の魔物。

 大量の大蜘蛛たちを、彼女は一人で倒したのだろう。


「……なあやっぱり引き返し」


 そう思って、俺がクリスタの方を向いた瞬間だった。


「うおっ!?」


 地面が大きく揺れる。

 地震にしては突発過ぎる揺れ。

 まさかとは思うが……


「ヴァリウス! 左の通路の方から、強い魔力の乱れを感じます!」


 やっぱりか。

 あの女性が、なにかをしでかしてしまったらしい。

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