第3話 指名依頼
この可憐で多少……と言うかかなり毒のある話声の主はクリスタ。もうかなり長い間一緒に暮らしている相棒の妖精だ。
俺は不死者のなので余り人前に出ることは無いが、彼女は良く街に出掛け、俺の代わりに傭兵ギルドで仕事を受けてきてくれる。
傭兵ギルドについては長いので割愛するが、傭兵とは名ばかりのいわゆる何でも屋のような物で、俺と彼女はそこに所属している。
「流石は不死身の傭兵ヴァリウスさんですねぇ、今日確認しただけで指名依頼が三件も来てましたよ」
クリスタがニヤニヤしながら俺の周りを飛ぶ。
指名依頼というのはその名の通り、誰か特定の傭兵を直接指名して出される依頼のことだ。
大抵の依頼はどんな傭兵でも受けられるよう、専用の掲示板に貼られ、傭兵はそこから危険度と報酬の釣り合いを見極め、依頼を受ける。
だが指名依頼は違う、特定の誰かを直接指名するだけあって報酬は豪華、しかし危険度は通常の依頼と比べ物にならない程高い……のだが問題はそこではない。
「不死身の傭兵かぁ……」
「いいじゃないですか不死身の傭兵、これ程までにあなたを的確に表した二つ名もありませんよ?ポンコツが抜けてる気がしますけど」
クリスタの息をするような罵倒は置いておいてだ。
正直なところ『不死身の傭兵』と言う二つ名を付けられてしまうのはあまりよろしくない。
クリスタの言う通り俺にピッタリの異名だが、だからこそだ。
俺はクリスタ以外に不死身である事を明かした事はない。
つまり『不死身の傭兵』と言う二つ名は完全に推測で付けられたわけだ。
恐らくはこないだのキリングボーネットの討伐を成し遂げてしまったせいだろう。二人で、しかも片方は非力な妖精でキリングボーネットを三体討伐する事など不可能に近い。本来は四人がかりで一体を討伐しに行くような相手だ。
「やっぱり、離れますか?」
「ああ」
クリスタは飛び回るのを止めて俺の肩に乗り、真剣な声色でそう言う。
「突然有名になるとどうしても疎む奴はでるもんだ。無いとは思うけど依頼中に追跡されでもしたら俺が本当に不死身だってバレるかもしれない」
俺は一度、不死身だとバレてひどい目にあった事がある。
詳細は省くが、もしあの時逃げ出せなければ、俺は暗い地下で縛られ、クリスタは死んでいたかもしれない。
俺はともかく彼女を死なせる訳にはいかない。彼女は皮肉屋で何かにつけて俺を馬鹿にしてくるが、俺の唯一の理解者であり、大切な人なのだ。
「やっぱりそうですよねぇ、この辺りは自然豊かだし気に入ってたんですけど」
クリスタが残念そうに言う。
俺たちは今、山奥の捨てられた小屋に住んでいる。
人も寄り付かず、土地も豊かではっきり言ってこれ以上の立地はなかなか無いだろう。第一捨てられた山小屋など滅多に見つかるものではない。
「まあ不死身の何々なんてありふれた二つ名、一月もすれば忘れられるだろ。そうしたらまた帰って来れば良い」
「そうですね……」
クリスタがうつむく。やはり彼女もここには思い入れがあるらしい
なごり惜しいが、この辺りに街は1つしか無いのだ。
しんみりとした空気になりかけるが
「じゃあ今日の依頼発表と行きましょうか!」
「俺の話聞いてた?」
思ったより早く顔を上げたクリスタによってその空気はぶち壊された。
「ちゃんと聞いてましたよ。でも指名依頼なんて滅多に受けられる物じゃありませんよ?最後に一つくらい受けてから出発しても遅くないでしょう?」
まあ確かに指名依頼なら掲示板に貼られた通常の依頼と違い、依頼内容は受注者本人にしか伝えられない。
後をつけられたり、待ち伏せされる心配は無いだろう。
その上、通常の依頼とは報酬の額が桁違いである。
旅立ちにはお金もかかる、出先で都合のいい依頼が見つかるとも限らない。
ここで稼いでおけば、その心配も無くなる。
それどころかしばらく生活に困らなくなるだけのお金が手に入るだろう。
「そうだなぁ……まあ最後くらい欲張っても良いだろ」
「その意気ですヴァリウス。あの小屋ともしばらくお別れなんですから、今夜はパーッと宴をして旅立ちましょう!依頼内容は……」
少なくとも死ぬ心配は無いわけだし。
「古代文明の遺跡の調査、です」
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