二人暮らし

dede

二人暮らし


「ねえねえ、二人って一緒に住んでるってホント?」

今の会社にリョータと一緒に入社して1ヵ月とちょっと。

ようやく会社に慣れてきただろうという事で新入社員の歓迎会が開かれた。

そこで隣りに座った同期の女の子がそう話しかけてきた。

「ホントだよ。なあ?」

「ああ」

目の前に座っていたリョータは、ややぶっきらぼうに答えるとジョッキのビールを煽った。

飲み会の席だというのにしっかりとネクタイを締めて、服装に乱れがない。

俺?俺はとっくにネクタイ外してボタンも外してる。新人なのに慣れてるなと言われたが知らないな。

リョータはビールを飲み干すと、メガネのレンズ越しに冷ややかな目線で俺を観察している。

「ふーん、昔から二人知り合いだったんだ?」

同期の女の子が俺の顔を下から覗き込む。

「高校からの友達でさ、ルームシェアも大学時代からなんだ。家賃が浮いて良いよ。な?」

「ああ」

「そっかー……でもさ?」

と、そこで彼女は一旦言葉を区切り、俺の腕に軽く手を添える。

「彼女が出来たら、色々困りそうだよね?」

そう言って彼女は揶揄うような目つきで俺を見て、そしてリョータを見た。

そんな彼女の様子に俺は苦笑いを浮かべる。

「ま、今のところそんな予定はないから大丈夫だよ」

「えー?二人ともモテそうなのに?」

「全然。リョータはともかく、俺はまるでモテなかったよ。な?」

「嘘つけ。高校の頃からよく告白されてたじゃないか」

「あーやっぱりー」と、彼女はリョータを見てニタリと笑った。

「な!?リョータ、なんでそれを今言うんだ!?」

「……フンッ」

リョータは答えずに、不機嫌そうにビールのお代わりを頼んだ。


「じゃ、一旦お疲れ様でしたー。はい、そしてこのまま2次会に参加する人ー」

と、幹事の一つ上の先輩が声を掛けると、

はーい、という酔っ払い達の元気が返事がそこかしこから聞こえていた。


「私も参加するけど、二人はどうする?」

「もちろん俺たちも参加す……リョータ?どうした?」

さっきから随分口数が少ないとは思っていたが今は道にへたり込んでいる。

「……すまない。飲み過ぎたみたいだ」

「あちゃー……、っていう訳でこいつ一人で帰すの心配だから、悪いけど」

「うん、わかった。大丈夫そう?」

と、心配そうに彼女はこちらの様子をうかがう。

「どうだろ?あー、ったく。こんな格好で飲むから酔いが回るんだ」

俺は膝をついて、へたり込んでるリョータの首元に顔を近づけると、未だに締めてあるネクタイに指を引掛けて緩める。そして第一ボタンをポチっと外す。

「少しは楽になったか?」

「ああ」

「……ん、どうしたの?」

振り返ると、彼女はボーっと熱に浮かされたように俺らのやり取りに見入っていた。

「……え、あ。うん。その、二人とも気を付けて帰ってね、お疲れ様」

「ありがとう。それじゃ、お疲れ様。また来週」

そうして俺たち二人は会社の人たちと別れて、二人肩を並べて駅へと向かった。


「ほら、もうすぐ着くぞ?」「ん……」

幸い、電車の中では二人ともシートに座れた。

俺は肩にもたれて目を瞑っているリョータを、軽く揺する。

「ほんと、大丈夫か?」

リョータは薄っすらと目を開ける。

「……ああ、少し楽になった。帰ろう」

電車から降りて改札を通り過ぎると、後は20分、あまり人通りの多くない道を歩けば俺たちの部屋だ。

途中コンビニに寄ると水と缶ビールを買う。

「ほれ、水」

「ありがと……お前はまだ飲むのか?」

「悪いな、俺はまだ不完全燃焼でさ」

「気にせずに飲んできて良かったのに」

「バカ言うなよ?ほら、もうすぐだから頑張って帰るぞ」

そうして二人、フラフラ肩を寄せ合って歩いていく。

途中、リョータが俺の手に指を絡めてきた。

「リョータ?」

「……」

「噂になるから近所じゃ止めよって、リョータが言ったんじゃんか……今だけな」

「ん」

手をつなぎながら二人、フラフラしながら二人の部屋に向かって歩いた。


「ただいまー。ふー疲れた……って、ンッ!?」

二人が部屋に入って扉を直後にリョータから荒っぽくキスをされた。

「んーーっ!?」

そして余韻を味わう間もなく、玄関で押し倒されるとリョータが馬乗りになった。

「ちょ、ちょっとリョータさん?」

「……ずっと、あの子と喋ってたよな?」

どうしよう、リョータの目が据わってる。

「喋ってたよな?」

「え、ああ、うん。話しかけられたからね」

「俺の目の前で……」

「リョータが喋らないから」

「あの子、ずっと腕とか触ってた……きっと気があるんじゃないかな?」

「いや、それはないんじゃないかな?」

「ウソだ。絶対あるって」

「いや、ないと思う。だってアイツ、俺らを推してるって言ってたし」

「……え、推して?」

「なんか、俺ら二人が同じ部屋に住んでるってだけで、捗るらしいよ。そう言ってた。

今日の言動も、リョータの反応を見て楽しんでただけだよ」

その言葉を聞いて、リョータの目から険しさが取れた。ホッと息を吐く。

「なんだ、そうだったんだ」

「妬いてたんだ?」

リョータはバツが悪そうに目線を逸らした。

「だって……昔からモテるし。心配にもなる」

なんて可愛い事を言う。

「あ、悪い。今、上からどくから」

と、リョータが俺の身体から降りようとするので、ネクタイを掴んで引っ張る。

「え、ちょっと!?」

酔いの回っていたリョータは呆気なくバランスを崩し、俺の頭の横に手を突いた。

俺はネクタイを掴んでない方の手でリョータの後頭部を掴み顔を近づけると、唇を割って強引に舌を滑り込ませた。

「っンンン!!」

数分後、顔を離すとアルコールと羞恥ですっかりリョータは真っ赤に仕上がっていた。

俺はそんなリョータの顔から彼のメガネを丁寧に外して、床の邪魔にならない所に置く。

リョータの潤んだ瞳が露わになった。


「折角やる気になったんだ。続き、しよっか」

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二人暮らし dede @dede2

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