第26話 エアリーの異常さ

 エアリーの異常さが改めて認識された。まあ確かに、誰も理解できない領域にいるんだろうなというのは、なんとなく理解していたのだが。

 それにしても、根本的な所から異質だったとはな……。自作魔術もポンポンポンポン出てるらしいし……。


「……もう、私疲れた。テーナ、ごめん、後お願い。もう戦闘もないだろうし」

「え?う、うん。いいよ?あそこで休もう」


 見兼ねたテーナさんは、ソプラさんを崖下の日陰に連れて行き、丁度いい大きさの岩に腰掛けさせ、一息つかせていた。


「エアリー、お前本当規格外なんだな」

「らしいなぁ……。にしても、弟子の大半が理解できてへんかったんはちょっと辛いな。もしかしてエルフのあいつも理解してへんかったんかな……」


 少し頭を抱えて考え込むあたり、流石にショックを受けたらしい。

 進みすぎた技術は魔法に見えるなんて言われるが、魔術の世界でも似たような事は起こるらしい。エアリーの場合はそれだろう。きっと、技術が追いついていないんだ。


「――――」

「んうぉあ!?」


 さっきまで別の事に意識を割かれていたから、飛竜――クラリスの事を蔑ろにしていた。

 寂しかったのかはわからないが、“構ってくれ”とでも言うような仕草でこちらに寄ってきて、その大きな頭、鼻先の様な場所でエアリーの肩に触れていた。

 

「おおっ……。クラリスか、どないしたん」

「――――」

「……あー、なるほどな。よし分かった、やったるわ。でもちょっとだけ時間もらえるか」


 そう言ってエアリーはクラリスの正面に立ち、そのまま目を瞑ったり、空を見上げたり、指で何か空中に書くような仕草をしたりと、忙しそうにしだした。


「何してんの」

「こいつ人間の姿になりたいらしいから、ちょっと魔術組んでんねん」

「………………」


 さっき自作魔術云々の話をされたばかりじゃないか。やっぱこいつおかしいって。


「……カヅキ、聞きたいことがある」

「何ですか?」

「こいつとは、いつから居るんだ。話を聞く限り、あまり長い付き合いでは無さそうだが」

「えっ、三日くらい、ですね」

「随分最近の話なんだな……。もう一つ、その変わった服装と変わった名前、君はどこから来たんだ」

「ああ、えっと……。異世界、ですかね。別次元から――」

「…………テーナ、来てくれないか。話がまるで分からない」


 ……ほんと、すみません。迷惑ばかりかけてしまいます。


「ど、どうしたの……?」

「その、カヅキなんだが……。異世界、別次元から来たと――」

「ななななな、何ですって!?」


 おおっと……。この反応はダメなパターンだろ。何がダメなのか分からないけど、とにかく良くない反応だということは嫌なほどわかる。


「きききき、君!?どうやってこっちに来たの!?別次元の存在は確かに予想されていたけど、移動の方法どころか、観測すら不可能だとされているのに!」

「ええっと……。エアリーに聞いてください……。俺、エアリーに案内してもらったので」

「……つまり、エアリーさんが、連れてきたって事?」

「そうなりますね」

「…………嘘でしょ」


 この反応はなんというか、さっきまでの“規格外すぎる”とか“意味がわからない”とかそういうのとはまた違う、どちらかといえば“あってはならない”とも言えるようなものだった。


「あの、その……。えっと何から説明したらいいのかな……」

「ど、どういうことですか、何がおかしいんですかね」

「そもそもの話として、別次元へは一方通行になる筈なんです。予想されていた世界というのは、“魔粒子が存在しない世界”ですから。つまり、帰る手段を得ることができないということです」

「……え?でも体内に残留した魔粒子で生活してたらしいですよ」


 うん、確かそんな話をしていた筈だ。エアリーはこちらに来てからも残留している魔粒子を使って、草やキノコを食べて生活していたって話だし。


「えっと……。それ、期間はどれぐらいですか」

「一年で――」

「一年!!??ますますあり得ませんよ!ど、どうや、どうやって帰って来たというんですか……」

「え、その……。空間に穴開けて……」

「やだぁ……。怖い……。ふええ……」


 テーナさんがその場で崩れて泣いてしまった。だが俺は事実を話しただけなので罪はない。悪いのはエアリーだ。全部あいつが悪いんだ。


「……カヅキ、俺たちの常識を教えよう」

「お願いします。正直どうしてそこまで引かれているのかわからなくて困ってます」

「まず第一に、残留魔粒子で生活したという話だが、正直信じられないんだ。テーナ、冒険者証を見せてあげてくれ」


 泣き崩れていたテーナさんは、しゃがんだまま冒険者証を取り出し、そのままアールさんに手渡した。


「これが、王国一の冒険者パーティ、その赤魔術師を務める彼女の保有魔粒子量だ。よく確認してくれ」


 そう言って、テーナさんの保有MPを見せてもらった。


――――――――

 冒険者名――テーナ

 役職――赤魔術師

 年齢――23

 ランク――999

 保有MP――8,800/9,999MP

――――――――


 …………んん?MP上限、あれ?もしかしてこれ、カンストしてる……?


「わかるか、今の戦闘で1,200MPは消費している。テーナ、空間を繋げるような魔術があったとして、どれだけ消費するか分かるか」

「うう……。空間に干渉するテレポート関係の魔術なら、少なくても6,000MPは消費します……」

「6,000!!?」

「つまり、行きの時点で半分以上のMPを消費。向こうでMPが回復しないのなら、仮に生き延びたとしても、こちらには二度と帰ってこられない筈なんだ。分かるか、帰ってくること自体が異常なんだ」

「えー…………あの、努力次第で保有MPって幾らでも上げられるのでは……?」

「ぐすっ……。最大値は9,999と決まってます……。それ以上はどう頑張っても無理……」


 ここで一呼吸を挟んだ。なんか、聞いていた話と違うことが多すぎる。えっと、エアリーさん、あなたちょっとおかしいを通り越して異常すぎませんか……?

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