悪役貴族に転生した僕はただ彼女が欲しくて恋愛フラグのために主人公より先回ってゲームのヒロインたちを助けた結果、まわりの人たちが病んでヤンデレになった件
リヒト
序章
プロローグ
虫や動物、木々のさざめきさえ聞こえないような静まり返った真夜中。
「世界とは実に残酷であるな。君に対して常に何かを奪うと共に過酷な選択ばかりを迫ってくる」
一人の少年の美声が響き渡る。
不気味なほどに静まり返ったこの夜に響き渡るその声はあまりにも幻想的で、それを聞く少女の脳を蕩けさせた。
「……誰、なの?」
この静かな夜に、また新たに一つの声が響く。
その声は一人の少女のものだった。
この残酷な世界の、その静かな夜の中で一人、血まみれの状態で地面に倒れ伏している少女の声だ。
「……うぅ」
地面に倒れていた少女は痛む体に鞭を打ちながら何とか頭を持ち上げて、声の主を探そうとする。
「名を名乗るほどの者じゃないさ」
そんな、少女の頬に一つの温もりが触れる。
その温もりは何時の間にか、何もないところに当然と現れた美しく、幼く、艶やかな少年の手の平であった。
「あたた、かい」
「ふふふ、ならば、良かった」
己の頬から広がる温もりを前に心からの心情を吐露した少女に対し、少年は笑みを浮かべながら頷く。
「さて、僕が告げたことであるな。この世界が残酷であると。だが、僕は世界ほど残酷じゃない。さて、問おう。我がプリセンス。君の望みは何だい?僕が叶えてやろう」
少女にとって、目の前にいる少年は名も知らぬ初めてみる子であった。
だが、だが、だが。それでもその少年の存在は確かに少女の中へと入りこみ、安心感と信頼感を与えていた。
「私の、妹を……妹の死体を弄ぶ奴らに……いや、せめて。せめて……私の妹を静かに眠らせてあげたい」
だからこそ、少女は自然と言葉を漏らす。
生まれてこの方、一度たりとも誰も頼ったことのない少女が初めて自分の願いを他人へと口にする。
「願いを聞き入れた!良かろう!それでは、僕と共に行こうではないか。その願いを果たすために!」
そして、それを聞いた少年は力強く頷くと共に、嗤いを浮かべるのだった。
■■■■■
人が、異世界に転生したと聞けば普通動揺するだろう。
だが、それが異世界ファンタジーを好むオタクたちであれば狂喜乱舞するであろう。
転生先が異世界、それもゲームの世界。自分の転生した人物が悪役貴族だと知れば人は何を思うだろうか?
自らが断罪される立場にあると恐怖するだろうか?
いや、だが冷静に考えてみれば、そんなもの恐怖せずともただ原作のように悪いことをしなければ良いだけなのであり、さほど悩むことでもないだろう。
「お、おぉ……」
ゲームの悪役貴族に転生した。
この一言は非常にインパクトの強いものであるが、されとてさほど重く受け止めないものも全然いるであろう。
「かっこいい……!」
そして、今、鏡の前でポージングを取っている一人の少年もまた、事態を重く受け止めない者の1人であった。
「二次元がリアルになるとマジでエグイな」
ノア・トアライト。
トアライト侯爵家の一人息子であり、神童と呼ばれるまでの才能を生まれながらに持った天才児。
だが、その才能に溺れてしまったのか、ゲーム『雄英の方舟』では悪に染まった外道として登場する。
そんな少年、ノアは今、三歳の誕生日を迎えた今日、前世の記憶を思い出していた。
日本で大学生まで生きていた加茂彰人の記憶を。
「ふ、ふふふ……イケメンだぁ、イケメンだぁ」
前世の記憶を思い出し、己がゲームの悪役貴族であると知ったノア。
そんな彼の頭にあるのは異世界転生したことや、己が悪役貴族であったことの不安や心配では無い。
「これなら……彼女が作れるかも!」
彼女が欲しい。
前世の頃より思い続けているそんな切なる思いが脳内を占めていた。
「イケメン、天才、貴族……か、完璧じゃないか!これなら、これなら僕はもう彼女ができないわけがない!」
ノアは思う。
これは勝ったと。
そして、それは基本的に事実であると、少しばかり未来を見て断言しよう。
これから先、ノアに好意を向ける女の子たちは数多くいることだろう。
だが、ノアは彼女を作るのに致命的な欠点を、ひとつばかりもっていた。
それは致命的なまでに鈍感であるということだった。
生まれながらに持った優れた直感により、基本的に人間関係において最善手を本能的に取り続けるが、彼は致命的なまでに相手の機敏や感情などを感じとることが出来ない鈍感野郎であった。
「ふへへ……彼女作ったるでぇー!!!」
齢3歳児。
未だ精通もしていない身で彼女を作ることへの執着を確固たるものとするノアは世界へと己が決意を叫ぶ。
それが、ノアが彼女を作るという目的が、運命に愛された少女たちを狂わせ、世界を混沌の渦にたたき落とすことになるなど、この時はまだ誰も知らなかった。
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