旅人と名無し商店街
旅人と案内屋
「やあいらっしゃい。ここはどこにでもあってどこにもにゃい商店街」
塀の上にごろりと寝転がる、人の姿を倣った猫はにやにやと笑いながらそう言った。
暗闇の中に浮かぶように、その街はあった。
前も後ろもわからないほど黒一色の中、それまでの暗闇が嘘のようにそこだけが明るく、一歩足を踏み入れれば様々な灯りに照らされ暖かみのある光が包んだ。
「商店街?」
ノーマッドは視線を上げ塀の上で毛づくろいをする猫に話し掛ける。
「そう、ここは一風変わった店が建ち並ぶ商店街。名前はにゃい、各々が好きなように呼んでいる。金銭はにゃい、見合う対価と交換にゃ」
猫はにやりと笑う。
「統一性にゃく様々にゃ外観を装う店たちで継ぎ接ぎににゃっているこの商店街、店に並ぶは他ではお目に掛かれにゃいような不思議にゃものばかり」
猫はにゃあにゃあ芝居がかった口調で語る。
「ここに住むやつらはみんにゃ不思議な力を持っている、その力を活かし店を開いてるにゃ」
あれもそう。そう言うと猫は人差し指をピンと伸ばし伸びきった爪で近くにあった灯りを指差す。
「この商店街の灯りは全部『灯り屋』の灯り。灯り屋の灯りは導きの灯り、人を導き行き先を示す。この商店街の灯りは場所も時間も関係にゃく客人をこの商店街に導くのにゃ」
猫はにやりと笑う。
「僕たちもこの灯りに導かれてやってきたんだね」
ノーマッドは灯りのほうへ視線を移す。
ひとつはランタン、ひとつはロウソク、ひとつは提灯、ひとつは行燈、様々な種類や形の照明具があちらこちらに灯っていた。その中で揺らめく光は小さいはずなのに、不思議と周囲一帯を明るく照らしている。
「こんな世界の渡り方もあるんだね」
カダルがぽつりと零した言葉に猫はまたにやりと笑う。おや気付いた?ここが君たちのいた世界とは違うことを。
「そう、この灯りは場所も時間も関係にゃく客人を導く。世界をも超えて、時空をも超えて」
猫はにやりと笑う。
「この商店街はどの場所にも存在するけどどの場所にも存在しにゃい、どの時間にも存在するけどどの時間にも存在しにゃい。有り得にゃいはずの出会いも有り得てしまうところにゃ」
有り得ないはずの出会い?ノーマッドが小首を傾げながら尋ねると、猫は伸びをしながら笑う。
さてどういうことだろうねぇ。
「さあさあ、旅人さん」
猫は塀の上からひょいと軽やかに飛ぶとノーマッドの目の前にと降り立つ。
「この商店街、紹介に与りましたミーはこの街の案内役を務めさせていただく『案内屋』。この商店街についてはご理解いただけましたかにゃ?」
猫はまた芝居掛かった口調で語り、片方の手を胸に当てると軽く頭を下げる。そしてもう片方の空いた手をノーマッドのほうへと差し出した。
「さてさてそれでは、報酬のほうを」
猫はにやりと笑う。
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