第37話 金の瞳に乾杯

 変わらず眼光鋭く俺を射抜いてくる人物に、まず明確に答える必要があるだろう。


「――無い。無いよ」


 お前は誰だ? とか余計なことを尋ねる前に、まず初めに相手の一番の懸念を解消してやる。大体、そうでもしないと訊いても教えてくれねェだろ。……名前も、本心も。


 俺が返答した瞬間、その場から嘘のようにプレッシャーが掻き消える。周囲の人間も、最初こそ「なんだ喧嘩か?」と顔を向けていたが、すぐに自分たちの会話に戻っていく。


 ……なにこいつ、俺が「人間をやっちまったことはないです」って言えば、そのまま信じてくれるのかよ!?


 ちょろいなお前……と思って小男を見る。


 そいつが名乗ろうとしたのかは不明だが、俺がそいつに誰何すいかする前に、ヒガサが声を上げる。


平等院びょうどういん、それに大生おおぶ……来てたんだ」

「知り合いかよ?」


 問うと、どうやら平等院と言うらしい栗毛の小男は、首元から服の下にあった≪ヴァリアー≫の隊員証を引っ張り出した。大柄で落ち着いた方……大生は、傍らにいた金髪に謝っている。金髪は快くそれに応じた。どうやらドローゲームとなり、金髪はここから去るらしい。あいつは≪ヴァリアー≫とは何の関係もない、知らん人なのね。


「そいつが、」


 平等院がヒガサを見る目には、様々な感情が入り混じっているように見えた。


「――四番隊にいた頃のな」


 羨望に、嫉妬。プラスの感情もあれば、マイナスの感情もあるような。


「言っても、そんなに昔のことになってないと思うんだけどね……」


 そう言うヒガサの声にも力が無い。

 なんとなく、嫌われてることに気付いているのか。いや、このひとがそうした相手の感情の機微に気づかないワケがないのか。


「俺に気付いてなかっただろ」

「平等院、その……髪、凄く切ってるから……」

「……そうだな」


 平等院はそれ以上ヒガサと話したいことはないのか、給仕に会計を申し入れた。そのまま、足早にここを去る。ならなんでこっちにちょっかいかけたんだよ?

 大生の方はというと、礼儀正しくこちらへ一礼してから鞄を担ぎ上げた。


 大方、俺の話に反応せずにはいられなかった、というところか。ヒガサに会いたくない気持ちより、吸血鬼に確認したいことが勝ったと。


「やっぱり嫌われてるね……」


 そうセンチメンタルに呟いたヒガサに、驚く。

 あんた、あんなに気を回せるのに、自分へ向けられる感情には鈍感なのか。


 平等院のヒガサに向けた言葉は一見して、確かに負の感情が強いように見える。けれどそれは、むしろ正の感情が会ったらこその裏返しと言うか、以前はその嫌っている部分すらも……その、平等院は肯定していたんだろうなって。


 今、どういう事情があってすれ違ってるのかは俺には全く分からないけど。同じ隊の仲間が出世して……一人抜け駆けされたような気分になっているのだろうか。


「ちゃんと話せばわかってくれるんじゃねェの。わからんけど」


 それか、あれだ。平等院ってヒガサに惚れてたんじゃ?

 いや、もしかしたら今も。嫌よ嫌よも好きのうちって言うじゃん。


 けど、そこまで教えてやる気にはなれなかった。


「そうだね、きっとなんとかなる」


 そう言い切ったヒガサの目は据わっていた。嫌な予感がした。


「店員さん、!」


 舌回ってないが!? それでも「かしこまりましたー」という声が返ってきて、しばらくすればが来る。酒場で働く為には、良い耳を養っておく必要がありそうだな。


「今日は飲むぞー」


 もう充分飲んでただろ……。


 見せつけるように生ビールをあおって、くはーっと一息ついたヒガサが、「レンドウ君も飲んでみる?」と、いたずらっぽくグラスを突き出してくる。


「や、いいっす」とそれを押し返しながら、俺は帰りを提案する算段を考え始めていた……。


 大体、それに口付けて飲もうものなら味とか感じてる暇ないっての。

 色んな意味でほろ苦い青春の味になるわ。


 ……いや別に、全く意識とかしてませんけど。

 異種族の女だぞ。



 * * *



 背中にずっしりとした重みを感じながら、俺は≪ヴァリアー≫の門扉を潜った。

 あ、重いとか考えちゃだめだ。失礼だよな。


「お疲れっす……」


 そう門番達に声をかけると、「おつかれさまです」と二人同時に返してくれる。俺の顔が見えていないワケじゃないだろうが、俺を番外隊のレンドウだと知って尚、ビビらないで返答してくれるのは嬉しいもんだな。


 いや、その労いの言葉に含まれた笑みというか、ニヤニヤは……俺が女性を背負っているからこそ生まれた余裕なのかもしれないが。


 別にこの状態でもお前らをぶっ飛ばすことは可能だが?

 片足があれば事足りるぞ。


 門番はちっとも眠そうじゃない。当然か。まだ午後十時を回った程度だし、大体門番も交代制でしっかり休憩は取っているだろうし。でも、ずっと突っ立ってるだけってのもつらいよな。ストレッチでもしてれば……上から怒られるのだろうか。


 高い城壁に囲まれた≪ヴァリアー≫だが、門番二人が守る門さえ越えてしまえば、基本的に手を使わずとも進める。便宜上玄関と呼んではいるが、本館の入り口で靴を履くワケでもなし。大きく口を開けた四角いそれは、深夜にならなければシャッターが閉められることはない。靴を自室に入る時に脱げばいいこのシステム、楽でいいよな。たまに建物の中まで小鳥が入ってくるのがアレだけど。


 きゅっ、と時たま靴が音を立てる、よく磨かれた廊下を歩くと、分岐が訪れる。まっすぐ進めば一階の奥地まで行けるけど、多分それは目的地足り得ない。足を階段の方へ向ける。


「ヒガサー、お前の部屋何階なの?」


 背中の女性を揺らしながら問い掛けると、「ん……三階」というか細い呟きが漏れ聞こえた。三階か。重要な会議などで使われたり、副局長アドラスが下々のものを見下ろすために使っている程度の認識だったけど。やっぱり幹部って三階で寝泊りしてるんだ。三階の住人と聞くと、違う世界の人みたいに思えてきたな。


 そう思えば、平等院の反応も解るっちゃ解るかもしれない。今まで同じ階で、もしかしたら同じ生活スペースまで共有して――同じ隊ならその可能性はかなり高いだろう――いた仲間が、一人だけ上に見初められて引き抜かれたというのは。複雑だよな。素直に喜べないのも解る。


 それでもさ、仲間だったんなら。自分には引き抜かれるだけの価値が無かった……いや、“まだない”ことぐらいは認めてしまって、切磋琢磨すればいい話なんじゃねェのか。そう思ってしまうのは、俺が大抵のことは人並み以上にできてしまうからかもしれないが。無力な自分とか、想像もしたくない。前提が変わってくるか。多分無力なレンドウ少年だったなら、幼馴染を庇って人間社会に身を置くことになったりしていないだろうから……。


 勿論、ヒガサは違う世界の住人なんかじゃない。酒を飲めば酔っぱらって失言をし、仲間と仲良くできないことにしょげ返る、一人のありふれた女性でしかない。


 こういうことを言うと喜んでくれるかは知らんけど、ヒガサの重量は俺には大したことない。言ってないけど。階段もすいすいだ。


 三階へと足を踏み入れると、なんだかいけないことをしている気分になる。怒られないだろうか。「オマエ何平隊員ごときが三階うろついてんだよ、てかヒガサをたぶらかしてんじゃねーよ」みたいなこと言われない?


 どこが居住空間なんだろう。階段を昇りきって見えたのは、左右への通路。正面はガラス張りで、なるほど、下々のものを見下ろせる。ちっ。


 とりあえず、ヒガサをこうして抱えている間は、一応俺の中には“ヒガサを部屋まで送り届ける為”という免罪符が存在するので、この機会に三階を練り歩くのもありなのかもな~、なんてね。


 なんとなく右へ進路をとる。すると、空きっぱなしの扉の奥から明かりが漏れ出ている部屋があるようで、なんだろな……と歩いていると、丁度その部屋から何者かが出てきた。ベージュっぽい色の、サラサラした長い髪を持つ女。ヒガサと同じくらいの年齢だろうか。


 その手には軽食が乗ったトレイがある。どこかに持っていく構えだ。そりゃそうだ、トレイだもの。


 軽く会釈をすると、向こうも返してくる。そのまま通り過ぎるが、後ろから「……送りオオカミ?」と言われれば、立ち止まらざるをえないだろう。


「ち、違う……違います」


 はたと気づき、途中で丁寧語に直した。

 だって、多分こいつも偉いヤツなんだろうから。


「あー、違うの…………にもそういう人がいるのかと思った」


 何事かをぼやく女。なんだよ、ヒガサの知り合いかよ。

 いや、三階なんていう限られた人間しか使わない場所にいて、ヒガサのことを知らない筈はないのか。


「ヒガサの部屋ってどこっすか」


 尋ねると、女性は俺の隣を通り過ぎて、「付いてきて」と言った。

 急いでそのトレイをどこかへと運ばなきゃならんワケでもないのか。


「助かり……ます」


 慣れない丁寧語オンリーに挑戦するしかない。

 レンドウ、これは練習ではない。実戦なのだ……。


 しばらく無言で歩いているのだが、前を行く女がちらちらと時折俺達の方を見る。その眼は好奇に彩られ……というか、をしてるのか。俺と似ているようで違う色だ。なんだか鈍く、輝いている。窓から入ってくる月明かりのせいか?


「……何すかね」


「君……」一度気づかれたらどうでもよくなったのか、遠慮なく俺を上から下まで眺める女。「劫火の子……王命を受け……いや、」何事かを飲み込んだ様子だ。


 だが、俺サマの優秀な耳は微かな呟きすら逃さない。


 まぁもっとも、ゴウカとかオウメイとか、たとえ聴きとれたとしてもどういう字面なのかは分からないんだが……。


「――噂のレンドウ、だね」


 と、女はただそれだけ言った。


「……そうっすね」


 特にうまい返しがあるわけでもなく、短く肯定するに留まる。

 レンドウですが何か?


「…………」

「…………」


 ――何もねェのかよ!!


 一分ほど歩いただろうか。ある扉の前で女は立ち止まる。


「ここだから」


 と、その扉を顎でしゃくる女。


「ありがとうございました」


 そう言ってヒガサを一旦壁に立てかけるように(モノかよ)降ろすと、未だこちらを見つめる瞳があることに気付いた。


 無論、ベージュ髪の女である。


「まだ何か?」あんのかよ、と後半は口に出さずに問うと、女は塞がった両手を……トレイを少し上に動かした後、「鍵はどうする気?」と言った。肩をすくめてみせたかったのか。


 言われて、ハッとする。言われてみれば当たり前だが、ヒガサの部屋の入り口には当然、鍵がかかっている。


 それを解除するには彼女の隊員証を使う必要があるワケで、御多分に漏れず彼女も首から下げたそれを、上着の下に収納しているのだろう。


 つまりそれは、眠っている彼女の上着をまさぐる必要があるワケで……。


 どうやら、その様子を女は観察するつもりらしい。「私、両手塞がってるから」とでもいいたげな動作しやがって。持っててやろうかああン!?


 ――どういうキレ方だよ、俺。


 よし、できるだけ上着には触れないで、引っ張り出す方式で行こう。それがいい。すぅすぅと寝息を立てるヒガサに「失礼……」と消え入りそうな声で宣言してから、その首に掛けられた紐を引っ張る。「んぅ」とか悩まし気な声が聴こえたけど、大丈夫、大丈夫、無問題……。


 途中で引っかかってしまったので、やむを得ず一番上のボタンだけ外してやると、ようやく隊員証を手に入れることができた。


「フゥ」安堵のため息。


 それを持って、扉の横に付いている機械にシュッと通してやると、ピッという音と共に扉のロックが解除される。その扉を手前に引くと、さっそく中に入っていく人間が一人。「ありがとね」という言葉が俺の耳を打った。


 ――は?


 ……………………待て。


 考えろレンドウ。今俺の横をフワッと通ったのは、勿論ヒガサではない。彼女は今も眠りこけている。


 つまり、そういうことか。


 ――ここ、オマエの部屋かよ!


 両手塞がってっけど、扉開ける人員確保できた~ラッキ~! みたいな感じだったのかよ!!


 ……ヒガサを起こしたくないので、大声は堪えなければ。


「て、てめェ……」


 やべ、丁寧語を忘れた。


 部屋の中にトレイを置いたらしい女が、再び顔を出す。俺の言葉遣いには気にした風も無く、「はい、早くヒガサ入れちゃって」と言った。


 ……ちゃんとヒガサの部屋でもあるんだな。そりゃそうか、ヒガサの隊員証で開けたんだから……。


 つまり、こいつはヒガサのルームメイトだったのか。


「私はピーア。よろしくね」

「あ、ハイ、よろしく……」


 どうせ名乗るならもっと早く名乗ったら良かったんじゃねェの。ベージュ髪の女……改めピーアに恨みがましい目を向けつつ、再びヒガサを背負って共同生活スペースへと足を踏み入れる。


「うおっ……」


 玄関の傘掛けは、おびただしい数の日傘で埋まっていた。

 いや、猟奇的の域なんですけど。


 大量のカラスを頭から突っ込んだみてェな光景だな。俺の発想の方がやばいですか、そうですか。


「それ、やばいよね。大量のカラスが突っ込んであるみたいっていうか。きもいよね」


 ……階級の高い人物も案外、俺と同じようなことを考えるんだな。


 玄関にヒガサを降ろし、ブーツを脱がせにかかった……のは幸いにもピーアだった。


 どうやらヒガサと同室だということをギリギリまで隠していた非協力的な対応は、一重に俺を驚かせたいという欲求から来るものだったらしく、バレた今となっては普通に助けてくれるつもりらしい。なんなのその人間味。いや、人間だろうけどさ。余りにも庶民臭すぎない? イタズラの程度がさ。


 部屋の中まで進むが、そこは案外平隊員のもの、というか俺の部屋と変わらない。遊びが無いと言うか、「まぁどうせ帰って寝るだけの空間だし」といった割り切り様だ。いや、もしかしたら、共同空間を自分色に染めることに抵抗があるのかもしれない。この空間を使うのが何人なのかは知らないけど。


 部屋の壁には個室へと繋がるであろう扉が四つあって、ピーアが開けてくれた部屋へとお邪魔する。


 真っ先に目に入ったベッドに、ヒガサを寝かせる。ベッド派か。女性の部屋に入ったにしては特に何の感慨も抱かなかったのは、ここにもそれほど物が無かったからだ。いや、物が無いというのは語弊がある。正しくは、女性的なものが無い。


 そりゃ、壁際のクローゼットやタンスを開ければ服やら下着やらは出てくるだろうが。それ以外、戸棚や床に置いてあるものは、むしろ男性的と言うか。


「工具が散らばってるんですがこれは……」


 俺の呆れ声が聴こえたのか、部屋から出るとピーアが、


「凄いよね。傘とか、結構面白いギミック仕込まれてたりするよ。変形武器が好きなんだ」


 ――変形だと!?


 ……コホン。俺の中の何かが反応しかけた。いかんいかん。


 言われてみれば、技術者っぽい部屋だな。なんかかっこいい。とりあえず、心の中で「おやすみ」と言ってからヒガサの部屋の扉を閉める。


 ピーアは玄関から一本持ってきたのか、その手に漆黒の傘を手にしている。


「見てみなよ」


 言うが早いか、ピーアは傘を広げると、その持ち手のボタンを押しこんだまま、傘の内側の上の方まで手をやり(黒い傘の内側で何をしているのかは正直なところ見えない)……何やら動かしたかと思うと、傘がガコッ、と音を立てた。


 そして次の瞬間、ピーアは傘の中から何かを引き抜いた!


 その左手には傘の頭(傘の本体と言えばいいのか?)が残り、右手には……鋭い刺突剣のようなものが残った。


「仕込み剣、か……? カッコ良すぎだろ……」

「でしょう。凄いよね、ヒガサ。傘愛しすぎ」


 その傘愛しすぎ、という台詞がツボで、声を潜めて笑っていると、一番左のヒガサの部屋より二つ隣の部屋の扉が開いた。そこから現れたのは……褐色肌のメガネ男。


「副、局長……っ!?」


 狼狽した俺を見て相手も多少驚いたのか、何故――? と説明を求めるように、副局長アドラスはピーアを見た。その手には空のトレイ。あれ、それってさっきの……。


「いや、酔っぱらったヒガサを、レンドウ君が運搬してきてくれたんだけど」


 ヒガサの部屋を指し示すピーア。副局長は「そうですか」と短く返すが、ヒガサの部屋を見た彼はやはり、とても意外でならない……という表情を浮かべていた。


 その青いまなこが、こちらを真っ直ぐに見つめる。

 帝国人の色をした瞳が。


「あの子が……酔っぱらった、ですか」


 そう言って、ふっと笑う。


「ね、すっごい意外じゃない? は、あんなに自分の殻にこもってたのにね」ピーアはそれに同意した。


 ……なんだって?


「連れてこられた時?」


 それは最近、昇格した時という意味か? 一朝一夕にあの“なんでも余裕のヒガサお姉さん”が完成するとは思えないんだが。


 俺が訊くと、その予想は正しかったのか、


「アドラスがヒガサを拾った時って意味ね」


 ピーアがそう補足した。連れてきたんだ。何歳の時に……どうして? アドラスの方を見る。疑問は尽きなかったが、それをこいつに訊いて、答えてもらうような間柄じゃない。というか、なんでそんなにヒガサのこと知りたいんだよ、と返されるのが嫌なので黙るしかない。


 アドラスはというと、瞑目めいもくしている。ピーアは副局長のことを名前で呼び捨てにしているな。どういう関係なんだろう。結構、年齢差があるように見えるが。なんというか、副局長アドラスは外見的にも精神年齢的にも、俺たちと気さくにつるむような人間に見えない。達観しているというか、大人特有の完成された、揺るがないオーラがある。二十五歳は越えてそうだよな。


「彼女にもようやく、仕事を忘れされてくれるような存在ができたのでしょうかね」

「いや……いいことなのか、それ」


 仕事を忘れちゃダメだろ。


「……いずれにせよ、彼女に……そしてレンドウ君に友人が増えるというのは喜ばしい」


 本当にそう思っているのかは疑わしい、抑揚のない声を天井に向けて言うと(天井はアドラスを無視した……ザマミロ)、アドラスは再び俺へと視線を向ける。


「レンドウ君、明日は定期健診ですか?」

「あァ、そうだけど?」


 定期健診。体のいい言葉だが、俺とリバイアは密かに“針の日”なんて呼んでる。人間達に体を弄繰り回される日だ。忌々しい。


「明日は健診は無しとします。その代わり、あなたには魔人込みでの戦闘訓練に参加していただきます」


 はぁ? ほう。え、それって同じことじゃないの。結局俺の動きを見てデータ取るんだろ?


 まぁ、身体から何も抜かれないならまだマシと喜んでおくか。


「あのステージで魔法をぶっ放すのか?」

「いえ、地下訓練場で行います」


 へえ。


 ……地下訓練場なんて言われても、分からねェぞ……。


「うわぁ、楽しみー!」


 ピーアが呑気な声を上げる。

 見世物なのかよ。ちっ。


 てっきり、あのステージをまた使うものだと疑っていなかったのにな。


 あのイベントのためだけにステージを組まされ、そしてまた撤収に追われるであろう隊員たちを思って、はい、黙祷……。

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