第22話 国王の報復

 ブルーレットの街が魔族により占領されたニュースはナトリウム王国内でも広まり、ナトリウム王国ではすぐに魔族への対策会議が開かれていた。


「皆も知っての通りブルーレットの街が魔族により陥落した。集めた情報によると敵は謎の疫病を流行らせて街の戦力をを弱体化させた後、恐るべき魔獣を放ったという。さらに敵は糞便を操り兵士たちを混乱に陥れ、寄生虫を植え付けたそうだ」

「糞便を操る……? まさか、いやそんな馬鹿な」


 ナトリウム王国の会議室で国王がブルーレット陥落について説明を始めた。すると糞便と寄生虫という単語に憶えのあったピコスルがハッとする。


「どうしたピコスルよ。何か知っているのか?」


 そして思わず呟いた独り言を国王は聞き逃さなかった。父である国王に聞かれるとピコスルは血の気を失い目眩すら覚える。


「そういえば兄さん。確か召喚した中に到底使えない奴がいたから追放した奴がいたそうじゃないか。それ、どんな奴だったんだい?」


 ここぞとばかりに第二王子たるシンラックが追求する。もちろんシンラックは全て知っていた。わかっていて言っているのである。


「その、まぁ、大したやつじゃなかったからな。ここで語るほどのもんじゃないさ。それよりもブルーレットの街には聖教会に属する騎士団がいたはずだ。彼らが敗北するほどの軍勢なのだから対策をしっかりしないといけない」


 内心歯噛みしつつも無理矢理誤魔化そうと話題のすり替えを試みる。が、恰好の攻撃材料を見つけた弟がそんなことを許すはずがなかった。


「うんうん、そうだよね。対策は大事だと思うよ。それには相手がどんな奴なのかを知らないと。確か兄さんが追放した奴って糞便と寄生虫を操るっていう珍しいスキルを持ってたそうじゃない。なんで追放したの?」


 嘲笑うかのような嫌らしい笑みをたたえシンラックが兄に問う。今一番触れられたくない話を暴露され、ピコスルはあからさまに動揺した。


「な、お、お前どこでそれを!?」

「どこで、って兄さんがみんなに吹聴してたじゃないか。グランドマスターの召喚に成功して浮かれてたんだよね?」


 グランドマスターの召喚は国にとっても非常に益のある話であり、莫大な労力を伴う勇者召喚の成果としては大成功であった。だからこそそれは召喚を行ったピコスルの功績なのである。


 しかし同時に使えないと追放した異世界人が人類に牙を向き、ブルーレットの街陥落に大きく関わっていたのだ。これは次期王太子を競う点において大きな失点と言える。


「なんで試しもせずに使えないと思ったのか知らないけどさ、ブルーレットの街陥落に絶対そいつ関わっているよね?」

「そうなのか? ピコスルよ」

「そ、それはその……。げ、現在調査中なので確かなことは何も!」


 国王に鋭い目で睨まれ、それでもピコスルはなんとかやり過ごそうと足掻く。やってることは問題の先送りなのだが。


「確かソロモンだっけ? ブルーレットの街を占拠している魔族に混じってそんな名前の人間がいるそうだよ。兄さんが追放した人間は草井ソロモンっていう人だったよね?」


 だがシンラックはその先送りさえ許さなかった。既に情報は集まっており、トドメを刺しにいく。


「なんと! つまりピコスル殿下は人類の希望だけでなく人類の敵を召喚してしまったということですかな?」


 白い髭を蓄えた如何にもな魔法使いに見えるこの老人は見たまんま魔導士である。彼こそはこのナトリウム王国随一の知恵者であり、偉大なる魔法の師父と呼ばれる男でもあった。


 人は彼を畏敬の念を込めてこう呼ぶ。


 師父マスターベーションと。


「大魔導士ベーションよ、それは違う、違うんだ!」

「言い訳は見苦しいよ兄さん。この罪はハッキリ言って大きいよ? 守りに関しては奴隷魔族を肉の壁にすることで人間が敗北することはなかった。それなのに今回はそれが通じなかったんだ。まともな力と力の勝負じゃ人間は不利だからこそ卑怯な行為を正当化してきたのに。カッコ悪いったらないね」


 シンラックは散々ピコスルをこき下ろすた駄目だこいつとばかりに両手のひらを上に向け、肩をすくめた。


「よしなさいシンラックよ。余はブルーレットの街を解放する気はないのだ。だが魔族どもの好きにさせるわけにもいくまい?」


 国王はニヤリと口を歪ませる。その笑みは余りにも殘酷な笑みであり、見るものを怯えさせた。


「陛下、どうされるおつもりで?」


 恐る恐る将軍が意見を伺う。人間至上主義の国王である。なんかもう嫌な予感しかしなかった。


「殲滅するのだよ。ブルーレットの街に陣取る魔族どもをな。街に残る臣民には尊い犠牲になっていただこう。ピコスルよ、グランドマスターはどの程度力を付けてきている?」

「あれは才能の塊と言えましょう。今や剣技においては騎士団長とも互角に渡り合っており、魔法も師父マスターに迫る勢いだそうです」


 グランドマスターの強さを聞かれ、ピコピコは自慢するかのように語りだす。グランドマスターが凄ければソロモン追放の失点も軽くなることを期待してのことであった。浅はかではあるが。


「どうするおつもりで?」

師父マスターベーションとそのグランドマスターであれば使えるのではないか? 伝説の儀式魔法メテオスウォームを」


 それは街の壊滅を意味していた。

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