第12話 人類との決別
「スカウト? なんで俺?」
うーん、理由がわからん。まぁとりあえず話を聞いてみることにしよう。
「フッフッフ、俺にはわかる。貴様を鑑定したからな。貴様の持つクソ魔法は魔物相手よりも人間相手に真価を発揮する魔法なのだろう?」
「まぁ、確かにそうだな。ゴブリンとか羞恥心ねえから便意覚えても垂れ流すだけだし」
そうなのだ。強制便意なぞ魔物相手にはなんの役にも立たない。奴らは糞尿に対する忌避感がないんだな。だから怯むこともない。使えるのはせいぜい寄生虫召喚だが、攻撃力自体は皆無だ。
「ならば我らに付くべきだな。お前が異世界から来たことも知っている。お前にはこの世界の人間どもに恩義なぞあるのか? 元いた世界から無理矢理連れて来られてムカついてるのではないか?」
恩義ねぇ……。うーん、別にねぇな。無理矢理連れてこられたことに関してはどうでもいいが、散々馬鹿にされて追い出されたのを何とも思ってないわけじゃあない。
「で、お前ら側に付くメリットは?」
だがそれだけじゃ弱いんだよな。やっぱり一応同じ人間なわけだし、そいつ等を見限れと言うなら相応のメリットはあって然るべきだろう。
「フッフッフ、乗ってきたな。俺達に付くなら好き勝手できるぞ。人間どもから奪おうが犯そうが誰も咎めん。それどころかお前の力を存分に発揮すれば名声だって得られる。我々魔族にも美女は多いからな。きっとモテモテになることだろう」
モテモテ……。しかも好き勝手に暴れていいだと?
ヤバイ、心が動きそうだ。
「それと、お前そのマイカードちょっと更新してみろ」
「え? マイカードをか。なんでだ」
「いいからやってみろ」
俺は言われるままマイカードの更新を行った。
「ボットンブーリボットンブーリ、偉大なる神よ我が証は更新された。新しき証をここに刻みたまえ」
更新を終え、俺はマイカードを覗き込んだ。すると……。
「ぜ、前科が付いているだと?」
そう、俺にはどういうわけか前科のところに1の数字が刻まれていたのだ。
「当たり前だろ。お前のやっていたことは脅迫だ。自覚がなかったようだな。その前科をつけたままギルドの人間に見られてみろ。何をしたのか吐かされ、罰を受けることになる。お前のしたことがギルドにバレれば危険人物として扱われるのは当然だろうし、下手すりゃ強制的に奴隷落ちさせられるぞ。それだけお前の能力ってのは人間にとっちゃ脅威なんだよ。つまり、俺はむしろお前を救いに来たと言ってもいい」
た、確かに俺のやったことは実際には脅迫だ。ならあのおっさんのしたことだって前科がつくはずだ。恐らく罰則は軽いものなのだろう。だが俺の場合は寄生虫を植え付け地獄を見せての脅迫だ。その実態を知れば普通の人間は俺を恐怖の対象として見るだろう。犯した罪の重さよりも手段が問題視されるのは明白。
そして前科がついた以上このことが露顕するのは時間の問題だ。俺には誤魔化す自信がない。
「つまり選択の余地無しかよ。いいぜ、だったらなってやろうじゃねぇか。本物のクソ野郎ってやつによ!」
このまま人間社会に戻れば俺のお先は真っ暗だ。俺は自分が可愛い。それは当たり前のことだ。
「いい判断だ。お前は賢い選択をした。お前を迎え入れよう、ソロモンよ」
ホルヌスがフードを取り、素顔を見せる。額に短い角があり、顔に赤い紋様が施された美丈夫といった具合か。あのおっさんより体格いいもんな。
ホルヌス俺に向かって右手を差し出した。この手を取れ、ってことか。取ってやろうじゃないか。俺は俺のためにこの世界を生き抜いてやる。
そう、たとえモノホンのクソ野郎になって人類の敵になったとしてもな。まぁそれが魔族にとっての名声になるんだから問題ないか。
「よろしく頼む」
俺はガッチリとホルヌスの手を取り握手を交わす。そしてニヤリとほくそ笑むと、ホルヌスもニヤリとほほえみ返した。
「ようこそ魔王軍へ。早速お前を俺様の城へ連れて行ってやろう。先ずはこのまま南門を出て真っ直ぐ行ってくれ。そしたら森に着くからな。そこで落ち合おう」
「わかった。その森は今日行ったばかりだから大丈夫だ」
「よし、なら待っているぞ!」
ホルヌスは高く舞い上がると、南の森の方へ飛んでいった。よし、それじゃあ俺も南のモリへと行きますかね。
俺は気分上々で鼻歌混じりに歩き出した。そして南の門を出て少し歩いた所で振り向く。
「じゃあな人間ども」
俺は決別の意思を固め、森に向かって歩き出す。森は歩いて10分ほどだ。そして森に入るとすぐの場所にホルヌスが待っていた。
「フッフッフッ、ちゃんと来てくれて嬉しいぞ。さぁ、案内しよう我が城へ」
「うおおおっ!?」
ふわりと俺の身体が浮いた。念動力でも持ってんのかこいつ。そしてそのまま空へ浮かぶと、ホルヌスの後ろを飛んでいる俺がいた。
「おおおおお、空飛んでるわ~!」
結構な高さだが風が気持ちいい。そしてどれだけ跳んでいただろう、やがて大きな西洋風の城が見えてきた。あれがホルヌスの城か。四天王ということはこいつがここの王様ってことになるな。そんな奴にスカウトされたんだ、俺は間違いなく幹部候補生というエリートだろう。
俺はこの魔王軍の中で成り上がってやると心に誓うのだった。
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