第1話厄災in逃避行

 その時は突然訪れた。

 封印がとけるまであと何百年かかるんだろうなあなんて惰性的に考えていたその時に、足を支えていたはずの感覚がなくなって僕は下に落ちていた。


「いや封印とけるならもっとこう……神々しくやるだろ!」


 あまりに間抜けな封印解除に文句をぶー垂れながら周りを見渡した。


見渡す限りの陰気な洞窟…。


背後では今まで僕が封印されていた青い水晶が光り輝いていた。


今までもここに訪れていたのは教皇様と呼ばれるヤツらだけだった。


そのため、人との遭遇は諦め、僕は出口と思われる方向へ向け歩いていった。


(しっかしまた、なんで封印解除されたんだ?)


思いつく限りの理由をあげてみるがそのどれも、僕が消滅ないしは封印したものばかりだ。


(まあ、考えても仕方ないしもし理由がなくてもこの現代を漫遊するってのもありじゃん!?)


そんなことを考えながらしばらく歩いていたが、どうにも出口にたどり着く気配がない。


1時間ほどさまよったのでさすがに怪しいと感じたが、封印から解けた直後で鈍っているのか何かの罠だったりを感知することが難しくなってしまっている。


(どうしようもないなあ…。さっきと似たような景色が続いているし、何かループする結界かなにかに囚われてるのか?物理的に壊してみるか?)


ためしに 僕は体内に少し残っていたを凝縮して、拳にのせると同時にその拳を振り抜いた。


その直後、ガラスが割れたような綺麗な破砕音が響き、壊された結界とおぼしきものの魔力の破片がそこら中に散った。


「ビンゴ!あれ?」


周りを見渡すともうそこは洞窟ではなく……厳かな雰囲気の祭壇と倒れ伏す黒いローブを着た人間たちの姿があった。


「ま……まずい。厄災が……!厄災がこの世に解き放たれたっ!?」


祭壇の1番奥で祈りを捧げていたっぽい1番偉そうな人が焦ったように声を上げた。


「しゅ……主教様……。お逃げ下さい……。我々が命をかけて厄災を止めます……。」


その傍に控えていたどこぞの聖職者のような姿の男がそう言った。


(厄災ってもしかして僕のこと??)


あんまりな言われように愕然とする僕。


だけどその誤解を解こうと動きだした瞬間。


「動くなっ!!!世界の大厄災!!!」


「いや違うんですけど……厄災ではないんですけども」


「そんな甘言に惑わされるか阿呆!教皇が封印を解こうとしたせいだ全て!お前は司祭の私が今ここで再封印してくれる!!」


鬼気迫った表情で叫ぶ司祭。


(こりゃ殺さんと止まらんやつやな。だけど殺したくないし逃げるか)


1秒にも満たない時間で思考をまとめた俺は逃げにかかった。


「ちょっとよく分からんけど殺されそうなので逃げます!一応言っとくと僕厄災なんかじゃないから!!!」


一応主張だけした僕は逃走した。


逃げおおせる瞬間に後ろを見てみたら、司教と目が合った。気がした。たぶん……。



「まてえええええええええええええ!!」


なおも追いすがろうとした司祭の根性に内心賞賛をあげながらも祭壇の扉を壊して天然のバリケードを作って逃げた。





その日、世界は震撼した。


神話時代の超越者。『ダルシアの悲劇』の英雄で厄災。


それが解き放たれたと『メルシア教』の『4大司教』のひとり、【慈海】のポルティア司教から発表された。


あるものは嘆き、あるものは恐れおののき、あるものは嗤い、あるものは涙した。


その誰もがこれから激動の時代がくることを感じ取っていた。




しかし


(あっ、やべ。服着てねえ恥ずかしい///)


当の本人だけは呑気だった。

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