16.成長期と旅立ち
ある朝ガストンは、リリスの身長が急に大きくなっていることに気付いた。
「5cmくらいは伸びたんじゃないか?」と、リリスの横に立って背比べをする。
翌日、さらに大きくなっている。「10cmはデカくなってるぞ!?」
ついに『その時が来たのね』と目をギラつかせるリリス。
ギルドハウスでは冒険者たちが不安げに話し合っていた。「リリス、大丈夫なのか?」「何かの呪いか病気じゃないのか?」「いい~♡」と、ざわつく声が飛び交う。
リリスは冒険者たちの不安を一蹴するように言い放つ。
「大丈夫よ! 何の問題もないわ! この時のために準備していたものがあるの」
そう言って、リリスは自分の部屋に戻り、しばらくして現れた時には、ちょっと大き目の軽装備を身に着けていた。その装備には古代の紋様が描かれており、高級品のように見えた。
「どうかしら?」クルリと回って魅せるリリス。
ガストンはその装備に目を見張りながら言った。「‥準備していたものって‥それか?」
リリスは満足げに頷いた。「ええ、まだ少し大きいけど、明日にはピッタリよ!」
ガストンは戸惑いながらも興味深げに尋ねた。「あの‥リリス‥さん? 聞いてもいいかな? この急成長っぷりは一体どういうことなんだ?」
リリスは微笑みながら答えた。
「今まで黙っていたけど、実は私、エルフなの」特徴的な尖った耳を指さす。
ざわつくギルドハウス。
「エルフには出会ったこたぁねぇけど‥耳、尖ってるな‥。今まで普通だったのに?」
「幼少期が不規則なのよ。ある日突然、急激に成長することは知っていたから、この装備を準備していたの。‥今まで黙ってて、ごめんね」リリスはペロっと舌をだして笑った。
騒ぎを聞きつけたギルドが、奥のギルドマスターの部屋から顔をだす。
「朝っぱらから随分と賑やかじゃねーか。んん?‥見ねぇ顔だな‥いや、リリスそっくりな姉ちゃんだな。ぁあ?あんた、エルフか?」
「ニッシッシッ、ギルド、あたし、リリスだよ」クルリと回って魅せるリリス。
「ぁああ~!? んなバカなこたぁ‥」事情を説明されて、ひとまず大人しくなるギルド。
「マジかよぉー‥今まで何にも気付かなかったとは‥‥。でも考えてみりゃ、子どもにしちゃしっかりしてるし、腕っぷしも魔法も‥な~。そうかそうか‥。んん?てこたぁ、リリス、お前、歳はいくつになるんだ?」
「あら、レディーに年齢を聞くなんて、失礼ではなくて? ギ・ル・ドさん?」
「ガーッハッハッ! レディーときたか! ハッハッハッ! こりゃ~参った」
その日、ギルドハウスは朝から大いに盛り上がった。
翌日───
リリスは宣言どおり、軽装備にピッタリはまる大きさまで成長していた。
すらりと伸びる長い脚。
豊満‥とまでいかないが、ほど良く膨らんだ胸。
自信に満ちた大きな瞳。
朝日を浴びて輝く金髪。
ギルドハウス前に集まっていた男たちはみな見惚れていた。
ただ一人、違った意味で目を凝らす冒険者がいた。
ギルド随一の魔法知識を誇り『賢者』と呼ばれているアークだ。
「リリス、君の魔力量、一体どうなっているんだ?」アークは驚愕の声を上げながら彼女に近づいた。
リリスは振り返り、優雅に微笑んだ。「流石は『賢者』ね。エルフがみんなこうなのかはわからないけど、成長期で大きくなったのは体だけじゃなかったみたい」
「なんということだ‥君は一体どれだけの潜在能力を秘めているんだ‥‥」アークはリリスの周りに漂う強力な魔力の波動にアテらて、その場に立ち尽くした。
「正直、自分でもちょっと怖いの。正しく制御できるかどうか不安で‥。でも、それ以上に、どこまで強くなれるのか。もっと高みを目指すわ」リリスは真剣な表情で答えた。
アークは微笑みながらリリスを見つめた。「君ならきっとできる。未だ誰も到達したことのない領域まで‥。私はただ見守ろう」
リリスは街の外へ出て、急激に成長した体を慣らすように駆け回り、獣を狩った。
数日後───
ギルドマスターの部屋には、ギルドとガストン、それにリリスが居た。
やや重苦しい空気が漂う中、ギルドが口を開いた。「やっぱり、行くのか」
「‥うん。いい‥よね?」リリスは緊張した面持ちでギルドとガストンの顔色をうかがう。
「こんな展開は予想してなかったが、『その時が来た』ってことか」ギルドは諦めたように力ない笑顔を見せる。
「まぁ、いつかはこういう日がくるだろうとは‥思っていたがな」ガストンは上を向いて目頭を押さえている。
───数年前、まだリリスが幼い体の頃、彼女はエイジを追うと言って、町を飛び出しかけたことがあった。ちょっと魔法や弓が使えるからといっても、子ども一人で行けるワケがないと、しこたま怒られた。
それからリリスは、いつかエイジを探す旅に出るときのためにと、修行を怠った日は無かった。
ギルドもガストンも、その努力する姿を黙って見守っていた。
「だが、一つだけ約束してくれ。エイジに会えても会えなくても、必ず帰って来いよ」ギルドは我が娘を嫁に出すような心境だった。必死に涙を堪えて、笑顔を作ってみせた。
「お前がエイジを連れて帰ってくるまで、ここは俺たちが守るから‥‥行ってこぃ‥」ガストンは堪えきれずに涙を流しながら言葉を詰まらせた。
「ありがとう、ギルド、ガストン。きっと、きっとエイジを見つけて、一緒に帰ってくるね!ここがあたしの家だもの」
三人は肩を寄せ合い、しばしの間、別れの言葉を交わした。
翌日───
「気をつけてな、リリス。旅を、楽しんでこい」ギルドはリリスの頭を優しく撫でた。
「無理はするなよ。お前が無事に帰ってくることが一番大事なんだからな」ガストンは涙を拭いながら微笑んだ。
リリスは深く頷き、力強く言った。「分かってる。絶対に帰ってくるから。それまで、ここを守ってね」
リリスはギルドハウス内を目に焼き付けるように見渡し「行ってきます!!!」と言って外に出た。
ギルドハウス前には多くの冒険者たちが見送りに集まっていた。
みんなリリスを普通の子どもだと思って面倒を見て、可愛がってくれた家族のような仲間たちだ。
冒険者の他にも、仲良くしていた街の子ども達や、商店街の人たちにも盛大に見送られながら、リリスは街をあとにした。
街を出てすぐに馬をとめて、森の中を覗き込む。
草の陰から大きなウサギが顔を出す。ガルボだ。
「ガルボー!!」優しく撫でながら、旅に出ることを告げる。
リリスの周りには、いつの間にか森の小動物たちが集まっていた。
ウサギ、リス、キツネ、小鳥たち。
「みんなも、見送りに来てくれたの? ありがとうー! 行ってきまーす!」
こうしてリリスは、街の人たちと森の動物たちに見送られて、エイジを探す旅に出たのだった。
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