2.スタート
窓から差し込む柔らかな光。
豪華なキングサイズのベッドに横たわる少年は、静かに目を覚ます。
ムクリと起き上がり大きく伸びをした後、ベッドを抜け出しリビングへと走る。
「おや、主殿。お目覚めですか」ダンディな執事が少年を迎える。
「おはようございます。主様」執事の隣にいたメイドが軽くお辞儀をする。
「おはよー!新世界はどんな具合だい?」少年は目を輝かせながら執事に詰め寄る。
「そうですねぇー、まだ1万年ほどですが、人族が集落を作り狩猟、採集、農耕社会を築くレベルにまでは発展しております」
「よし、よし! それじゃ早速、冒険の旅に出よう!」
「主殿‥、そのお姿で外へ?」
少年の容姿は、10歳くらいの男の子になっていた。
「ふふっ。そうさ。こんな子どもが執事とメイドを従えて世界を回っている設定で行こうと思う」
「なるほど‥、では私は初老の執事でお供させて頂きましょう」そういうとダンディな執事の容姿は白い髭が特徴的な初老の執事へと変貌した。
「良いじゃないか。メイはー‥そのままで良いか」
「はい。このままでお供いたします」
3人が建物から外へ出ると、そこは深い森の中だった。
「そうだ! 異世界のお約束‥『ステータス!』」少年は手の平を前方に付きだすと、そう叫んだ。
・・・・・。
「ステータス、オープン!!」少年は両手で窓を作るような仕草で、そう叫んだ。
・・・・・。
「ジー、ステータスはどうやって見るんだ?」
「『ステータス』‥ですか?」
「異世界モノと言えばほら、定番だろ?レベルとか能力値とかさ、スキルなんかがこうズラ―っと見れるやつ...。え?」
「は?」
しばし無言で見つめ合う二人...。
「は?」「え?」
「無いの? ステータス‥」
「ございません。ゲームじゃあるまいし、そんな都合の良いモノなど‥」
「おまっ‥完璧にって‥ぁ‥‥」
少年の脳裏には、過去何度も裏切られた『完璧』が浮かんでは消えた。
「ジー、またしても‥‥」少年はガクリと膝をついた。
「能力値が可視化されずとも、この新世界には数々の冒険が待ってますぞ!ささ、気を取り直して、いざ!!」
「‥今更どーしよーもないしなー‥‥」少年は諦めて歩き出す。
やがて森を抜け、見渡す限りの平原に出た。
「あちらの方角に集落があるようですな」執事が指さした方に目を凝らすと確かに、建物らしき影が見えた。
「行ってみよう! 門番に呼び止められたりするだろうか。ボクたちは旅の行商人って事にしよう。森でモンスターに襲われて、、ボクたちだけ命からがら逃げてきた‥みたいな」
「承知いたしました。我々、執事とメイドがお坊ちゃんを命に代えてお守りしている体でいきましょう。メイ殿もよろしいか?」
「承知」メイドは表情を変える事なく、最低限の言葉を発した。
やがて一行は村に辿り着き‥‥。
「門番っていうか‥‥門が無いね? 村を囲う柵とかもさ‥‥」
村の周辺には見渡す限り畑が広がっており、どこからが『村』なのかわからない。
「不用心な村だなぁ‥。モンスターとか盗賊に襲撃されたら、ひとたまりもないじゃないか‥」
一行が村の中央広場へ向かおうとすると、すれ違った村人が声を掛けてきた。
「あんたら、ここいらじゃ見慣れない顔だね?子連れで旅の人かい?」
すかさず執事が応える。
「ええ、ええ、私共は旅をしながら行商を営んでいたのですが、森でモンスターに襲われてしまい‥‥」
村人は不思議そうな顔をした。
「『モンスタ』って、なんだべな? まぁ、何もない村だけども、ゆっくりしてきんしゃい。外れの方に空き家があるから、好きに使ってな」
そう言うと村人は畑仕事に戻っていった。
「なんだか‥平和な村だなぁ‥。宿屋とか、酒場とか、何にも無いんだな」
見渡してみても、普通の民家ぽい小屋しか見当たらない。
「冒険するには、まだ世界が若過ぎたのかもしれませんね...」
「まぁ、せっかくだし、もうちょっと大きな街まで行ってみよう。それでダメなら『二度寝』するよ」
その夜、村の中央では焚火を囲みながら男たちが酒を酌み交わしていた。
メイを小屋に残し、少年と執事は男たちに混ざる事にした。
「あら~? ちっこい子は早く寝なば、な~」酔っぱらった男が絡んできた。
「ボクは旅をしている者です。幼く見えるでしょうが、見聞を広めるために色々な人達と触れ合う必要があるのです」
少年は毅然とした態度で応えたが、酔いが回った村人には何を言っているのか伝わらなかったようだ。
「旅!? そんじゃー飲まなきゃ、だなぁ~? ほれ、飲め飲め~。あははははっ」
「こりゃ~ブンちゃん、ちっこい子に酒すすめちゃダメらっしょ~。こっち寄越しなさいってーのっ! わはははっ」
「主殿、この様子では情報収集は無理なようですな。我々も休みましょうか...」
翌朝───
朝早くから畑仕事をしている村人に、大きな街が無いか尋ねてみた。
村から南東へ伸びる道を3日ほど行くと町があるらしい。
一行は冒険を求めて歩き始めた。
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