173.情と私情
「集計が完了しました。それでは、結果発表をします」
決選投票の結果発表に関して、候補者は舞台袖で聞いてから、勝利した候補が、勝利演説を行う事になっている。
会場内の空気は、ピリピリしている。
「それでは、発表します」
舞台の白壁に、星川先輩と僕の名前が写し出された。そして、一次投票と同じく数字が回転しだした。
星川愛理 153票
白村詩季 755票
無効 52票
「ご覧の結果から白村詩季候補が、次期生徒会長に選出されました」
僕の圧勝だった。
星川先輩に、602票差をつけた。藤宮高校生徒会の有隅さん効果は、僕の予想以上だったようだ。
恐らく、橋渡陣営にあった票と星川陣営にあった浮動票を取り込んだ結果だろう。
「やったね、しきやん!」
奈々さんが、ハイタッチを求めてきたので、僕はそれに答える。
「あれ、何か、浮かない顔してる?」
生徒会長選挙に勝った時に、僕・春乃さん・松本先輩は、冷静に状況を見守っていた。それは、決選投票で争った星川陣営も驚く位に冷静だったのだ。
「あくまで、勝利は通過点ですから。これから、早期に新生徒会を組閣して10月の体育祭の準備をしないといけませんからね」
「……な、なんか、大変そうだね」
「奈々さんにも、生徒会入りを要請しますよ?」
「え、私?」
「では、新生徒会長となる白村詩季さんの挨拶です」
奈々さんが驚いていると、勝利者の挨拶をするように呼ばれたので、有隅さんを含めた白村陣営は、舞台に上がっていく。
敗れた星川先輩は、眼に涙を浮かべながらも「おめでとう」と口ずさみ拍手をして送り出してくれた。
僕が、舞台に上がった瞬間、後方から「グスッ」と言う声が聞こえた。
あぁ、これが勝つという事か。
負けた人の事を背負っていかないといけない。自分の都合の為に生徒会長を目指した者としては、少々の心苦しさはある。
だけど、前に進みますか。
「にしても、君。我々の生徒会長様と同じ戦略使うねぇ〜〜」
マイクの前にたってスイッチを入れようとした瞬間に、有隅さんからそう言われた。聞き返したいのは、山々だが、今はそれを出来ない。
本当に、ずる賢い。
「この度、皆様からの貴重な一票によりご信託頂いて、生徒会長になりました――」
「これにて、今年度の生徒会長選挙は終了しました」
生徒会長選挙が、終了した。
一般生徒は、この後、帰宅する事になっている。一方、生徒会選挙に出ていた人物は、残って先生の話を聞かないといけない。
陽葵さんには、春乃さんに送って貰う旨の連絡を既に入れている。
「それじゃ、話は以上だ。遅くまで、悪かった」
橋渡先輩と古河先輩は、あの一件の影響もあり、今も生徒指導室にてお話中だそうだ。
「ねぇ、しきやん。陽葵ちゃんは、もちろん新生徒会に入れるんだよね?」
帰宅している最中に、奈々さんからそう言われた。
正直な所、ギリギリまで悩んでいた。選挙戦の結果が出るまで。だけど、圧勝した以上、陽葵さんを生徒会に入れるかどうかは決めている。
「入れません。その上で、奈々さんには生徒会入りを要請します」
「何でよ。……もしかして、前の約束破ったとか――」
「それは、ありません。しっかりと伝えました」
「なら、なんで入れないの!陽葵ちゃんは、ずっとしきやんのサポートしてくれたじゃん!」
サポートをしてくれているから、新生徒会にも役員として入れるとなると話は別だと思う。
もしかしたら、奈々さんは、色々とごっちゃになっているのではないだろうか。
「奈々さん。情と私情は全く別ですよ。今回、新生徒会には春乃さんと奈々さんには、生徒会入りを要請します。これは、情です。陽葵さんに、要請を出すのは、完全な私情です」
「何が、違うのさ!」
友人のためならしっかりとものをいう。姉御肌な奈々さんらしい行動だ。
「陽葵さんは短期間ですが、生徒会活動において能力不足を露呈しました。だから、能力不足の人間を生徒会に入れる事自体が私情です」
「……能力?」
「そうです。だから、生徒会運営を考えた時に、陽葵さんには、要請しない方向で考ました」
「育てたらいいじゃない!」
育てる。
確かに、育てる事も大事だろう。
しかし、今はそんな状況ではないのだ。
「育てる余裕が無いんですよ」
「何で」
余程、陽葵さんを生徒会に入れない事に不満があるのだろう。
「僕は、選挙で圧勝しました。つまりは、注目度が高いと言えます」
「支持率が高いんだから、同級生を育てる余裕あるでしょ?」
「僕は、実績を評価されて生徒会長に選ばれた訳ではありません。結果を出す事を求められて生徒会長に選ばれました。そんな、生徒会長が友人と仲良く生徒会運営したいので、育てます!で、納得しますか?」
「……許さない」
実績を買われて生徒会長になったなら、後輩を育てる分には、投票してくれた生徒は納得するだろう。しかし、同級生を育てると言えば、?を浮かべる生徒は一定数居る。
そして、同級生を育てる目的での生徒会入りは、最悪の懸念もある。
「それに、生徒が陽葵さんが足を引っ張っていると判断すればどうなりますか?」
「……ひまりんへの批判が集中する」
「そうです。僕たちの年頃は、批判と誹謗中傷の認識が曖昧な段階です」
僕は、大事だ事なので間を作ってからはなす。
「陽葵さんを本当に守りたいなら能力が備わっていない状態での生徒会入り非常に危険です。陽葵さんが足を引っ張っていると分かれば、陽葵さんが集中砲火にあう恐れもあります」
「……そうだね」
「逆を言うなら、春乃さんに奈々さんは、この選挙戦で非常によく働いてくれました。その人に情を込めて生徒会入りを要請した訳です」
僕は、改めて春乃さんと奈々さんに生徒会入り要請した。
「私は、生徒会に入るよ」
春乃さんからは、了承の返事を貰った。
「私は、少し考えさせて」
「わかりました」
奈々さんは、部活の関係もあるのだろう。少しばかり、時間がかかりそうだ。
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