170.お互いがお互いに
休憩時間という事もあり、客席側に居る生徒は弱冠減ってはいるものの、教師の声に反応して、舞台に注目が集まっている。
舞台には、敗れた橋渡先輩が呆然と座ったままだった。
恐らく、色んな人が何度も何度も退場するように促していたが、言うことを聞かずに立ち尽くしていたので、教師の堪忍袋の緒が切れたのだろう。
教師からの注意が強くなったことで、古河先輩も不味いと思ったのか舞台袖に退場するように促した。すると、橋渡先輩は、唇を噛みしめて舞台袖に移動していった。
「春乃さん、奈々さん、松本先輩。マズいかもしれません」
「えっ……?」
「「そうだね」」
僕の言葉に奈々さんは不思議がっていたが、春乃さんと松本先輩は、何かを感じとったようだ。流石、色んな人を見てきた黒宮家と関わる人間だ。
「白村くんと1年生ガールズは、少し下がろうか」
「春乃さんと奈々さんは、僕と松本先輩の後ろに移動してください」
松本先輩の言うことを少しばかり無視した。
春乃さんと奈々さんを後方に移動させて、僕と松本先輩が、前で状況を注視する事にする。
ガタン!
舞台袖に、鈍い音が響いた。かろうじて、客席には聞こえていないだろう。
「お前のせいで、負けたんだぁ~~!!お前のせいで……お前のせいで負けたんだよ。どうしてくれるんだぁ!!」
この声は、確実に客席の前方には聞こえているだろうな。そして、聞こえた生徒から他人に伝わって野次馬が増える流れだろう。
「く、苦しいぃ~~」
「お前の常に俺が正しいって態度には、前々からウンザリしてたんだよ。ただ、お前の推薦があれば生徒会長になれると思って、我慢して来たんだ。だけどよ。お前が松本先輩を手なずけていないせいで負けたんだぁ~~」
「コラッ!辞めないか」
反対側の舞台袖(生徒会選挙本部)に移動していた教師がやっと止めに入って来た。もっと、早くに停めに来るべきだとも思うが、決選投票以降の運営会議をしていて、対応が後手に回ったのだろう。
「お前のせいでぇ~~お前のせいでぇ~~」
本当に醜いな。
類は友を呼ぶとも言うが、まさにその通りだろう。
自分の実力では無く他人の知名度に頼っての選挙戦で勝とうとしたツケだ。古河先輩は、背後に松本先輩が居たことで実績のある対立候補に勝てたに過ぎない。
橋渡陣営は、お互いにお互いが自己評価をはき違えたのだ。いわば、自分の評価を過大評価してしまっていただけなのだ。
自分には能力があり、それは、全校生徒に認められている。だから、古河先輩が応援してくれれば、確実に生徒会長になれると算段を持っていたのだろう。
実質的には、橋渡陣営に付いていた票数はただ、古河先輩に付いてきただけに過ぎなかった。
だからこそ、僕がそこを突いた途端に、支持率が下がって行ったのだ。
「いい加減にしないか!」
2人を止めている教師の中には、守谷先生も居た。
橋渡先輩は、尚も八つ当たりの如く古河先輩に掴みかかろうとしていた。これはもう、警告不可避だな。
「哀れですね」
これ以上騒がれては、ゆっくり休めないので、頭に血が上っているであろ2人に声をかける。
「何だよ!」
予想通りに、橋渡先輩が反応してきた。
「自分の事を過大評価して、選挙戦で負けたら応援してくれた人のせいにする。そんな人が、生徒会長選挙に勝てるはずもないでしょう」
「違う!俺じゃなくてコイツの――」
「同じではありませんか」
僕は、笑いそうになるのを必死に堪える。
「お互いにお互いが、油断したんですよ。橋渡先輩。あなた、古河先輩から推薦を貰えるとわかってから、仲間集めを辞めましたね。だから、松本先輩が僕の事を推薦するってなった際に、自身の応援は、1人になった。古河先輩に推薦貰えたからこそ、更に仲間を増やしておけば、たった1つ出来事でここまで崩れなかったでしょう」
僕の指摘に対して、橋渡先輩は何も言い返せないと言った表情になっていた。
「古河先輩もそうですよ」
「……俺もか」
「自分に能力があると思い込んで、隣でサポートしてくれていた人の郎を労わなかった。だから、大事な場面で隣から居なくなってしまったんですよ」
2人は、既に戦意を喪失してしまったのだろう。下を向いて、何も発さない。
教師陣が、2人を別室に連行する事になった。
「はくむらぁ〜〜危険な橋を渡るなよぉ〜〜〜危うく、お前にも被害が出るかもしれなかったろ?」
「そうなっ他場合は、守谷先生が守ってくれるでしょう?」
「ははっ、いい性格してるよ」
守谷先生も、反対側の舞台袖に移動して行った。
「やっと、静かに休めますね」
舞台袖に用意された、椅子に腰掛けるとスマホにメッセージが届いた。
それを確認してから返事を送信した。
最後の仕上げと行きましょうか。
「後、10分で決選投票前の演説に入ります!」
選挙を運営する生徒からそう告げられた。最後の勝負と行きますか。
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