163.第1の矢

「では、よろしくお願い致します」

「う、承りました」


 立候補期間の最終日。


 僕は、春乃さんと奈々さんと共に、生徒会長選挙の立候補届を提出した。


 受付担当の選挙管理委員会の生徒は、最終日に立候補届を出しに来るとは予想していなかったようで、じどろもどろしていた。


 まぁ、それも提出期限ギリギリに提出したのも影響しているだろうが。


 放課後の生徒会活動に行く前に提出した。本当のギリギリだ。


 生徒会室に移動する前に、立候補者のポスターを貼る看板の前に移動して、ポスターを貼る。


 生徒会カツ丼開始の時間は過ぎているが、生徒会長選挙における選挙活動の一環で遅れるのだ。文句は言わせない。


 ポスターは、もう1枚ある。


 それは、生徒会室に貼る用だ。


「奈々さんにも生徒会室に来て頂きます」


 生徒会に入っていない者でも生徒会役員の許可があれば、生徒会室に入る事が出来る。


 仕事に関しては、役員ではないので出来ないが雰囲気を見てもらう。


 生徒会室に入ると、古河先輩が僕と春乃さんの顔を見て顔を抑えた。


「2人とも、遅刻だぞ。同じ1年の西原は時間通りに来ていたぞ。それに、生徒会役員じゃない生徒も居るが?」

「遅れて申し訳ありません。理由は、星川先輩と橋渡先輩が、最近、多用する事と同じです。こちは、桜井奈々さんと言います。僕が、許可を出してこの場に居ます」

「点々点々は?」


 古河先輩は、訳が分からないと言う表情をしていた。


 生徒会において、生徒会長選挙に立候補した者は、選挙活動の際は仕事から抜けても良いとされている。


 僕もそれを行使したまでだ。


「奈々さん。よろしくお願いします。番号は、3番です」


 ポスターを貼る掲示板の番号は、立候補順だ。


 3番のコーナーに、僕を中心に左に春乃さん右に奈々さんが映っているポスターを貼った。


「んな!?」


 古河先輩に、橋渡先輩に、星川先輩は、僕の立候補に驚いたようだ。


 作戦成功かな。


 最終日まで動かなかった事で今回の選挙戦は、1体1の構図になったと踏んで、選挙戦略を練っていたに違いない。


「私は、住吉春乃と桜井奈々より推薦を頂きました。立候補に必要な推薦人2人が揃いましたので、生徒会長選挙に立候補させて頂きます」

「そ、そうか。なら、何で、ここまで立候補が遅くなったのかな?」

「別口に応援依頼をしていまして、それに時間を取られてしまいまして点々」

「も、もしかして点々」


 先程と同じ3人は、冷や汗をかいているように見える。


 僕が立候補する事で、起こり得る可能性を危惧しているのだろう。


「まぁ、藤宮の生徒会に応援依頼しましたけど、断られましたね!」


 その言葉を知った途端に、3人は安堵の表情を見せた。


 そう、1年とは言え、兵庫県内1番の名門校である藤宮の生徒会が味方に付いたとなれば、一気に情勢が変わってしまうのだ。


 それが、無くなって安心しているのだろう。そして、僕は、賑やかし程度の立候補だと結論付けたのかもしれない。


 まぁ、何とも浅はかだ。


 敵対候補の口を信じてしまう辺り、付け入る隙だらけだ。


 生徒会室に居る中の3人が面白いように、表情を変えている中で、陽葵さんは状況を判断できていないようで固まっている。

 一方の松本先輩は表情は変えていないが、顎に置いている手とは片方の手でスカートを握っているのを見ると必死に笑いを堪えているように見える。


「まぁ、賑やか死程度の出馬だと思ってください!」


 推薦人に、同じ1年生の生徒会役員の陽葵さんではなく奈々さんにしている事には、喰いついてこない。それどころか、3人は、決選投票に進んだ際の作戦を考えていそうだ。


 この時点で、僕は確信した。


(ミスのしなければ、最終的に圧勝できる)






「では、本日の作戦会議を始めます」


 学校から帰宅して予定時刻になったので、生徒会長選挙の作戦会議を始めた。松本先輩も参加している。


「それにしても、松本先輩。よく、バレませんね」

「そりゃぁ~~詩季くんの立候補を賑やかしって思っている時点で、勝ち目は無いよね……多分、この中で詩季くんの最初のターゲットを予測出来ているのは、奈々ちゃん以外だね」

「……え?」


 松本先輩の発言に、奈々さんが目を見開いて固まった。一瞬、アプリがフリーズしたかと思ったが違ったようだ。


「ねぇ、詩季くん。ターゲットって?」

「奈々ちゃん。知らない方が、心の安全になると思う。特に、瑛太くんとラブラブな状態な2人はね。詩季くんの作戦に身を任せた方がいいかもね」


 春乃さんが、奈々さんに選択しない方がいいと宥めていた。その言葉に、奈々さんは、またも、アプリがフリーズしたと思う位に固まった。


「まぁ、奈々さんにアドバイスを上げましょう」


 応援をしてくれるという事で、作戦のヒントだけでも教えても良いだろうと思った。


「奈々さん。票は集めるだけじゃないのですよ。相手の票を崩すことだって出来るのですよ」


 まずは、2人に集まっている固定票を浮動票にすること事から始めていく。


 第1の矢は、放った。


 僕の立候補が、表明された事で少なからず、学校で膠着していた選挙戦が動き出すだろう。


 明日からの選挙戦において主導権争いが、始まる。

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