138.話すべきか

「ただいまぁ〜〜」


 家に着いた。


 奈々さんとは、彼女の最寄り駅まで一緒に帰った。春乃さんは、僕を家まで送り届けてくれた。


「春乃ちゃん。ありがとうねぇ」

「静子様、詩季様の従者として当然の務めです」

「春乃ちゃん。ここでは、普段、詩季と接している感じでいいよ」


 春乃さんは、僕の顔を見てきたので肯定の意味を込めて頷く。


 僕と春乃さんが、困っている所は、ここなのだ。どこからどこまでが、黒宮スタイルで居ないといけないかだ。


 長年、主人と従者の関係性なら阿吽の呼吸だが、主人と従者の関係になってから日が浅すぎる僕らには、距離感を測っている最中だ。


「では、また」

「うん!」


 春乃さんは、帰って行った。


 リビングに移動すると、羽衣が、ボケェ〜〜と僕の顔を見てから吹き出した。


「ぶっあははは!何、マフィアみたいぃ〜〜」

「うるさいですね。髪切ったんですよ。どう?」

「うん、見慣れた詩季にぃだ。ちなみに、マフィア姿も似合ってるよぉ~~ん」

「うっさい」


 羽衣は、平常運転だ。


 ある意味、羽衣の事が凄いと思える。僕は、環境の変化にまだ慣れていないと言うのにだ。まぁ、自分が決めて行動した手前、自分勝手な不慣れなのだが。


「私たち、ちょっと買い物に行ってくるね」

「「はぁ~~い」」


 祖父母は、買い物に出掛けて行った。


「ねぇ、羽衣」

「なに?」


 玄関の鍵が閉められた音を聞いて、僕は、話を切り出す。


 正直な所、抱えきれないのだ。


 好きな人が居る。だけど、実家の関係で、他の異性と行動を共にした。それまで、好きな人の役割を別の異性に任せてしまった。自分が、母さんに楽をさせたいと思って決めた行動のリターンが帰ってきているだけなのにだ。


 今日の電車移動で、春乃さんに指摘されて約束しなければ、陽葵さんの心情を考えずに、物事を進めていただろう。奈々さんに、念押しされなかれば、適当な説明で流していただろう。


「羽衣は、黒宮と復縁した事……ケニーくんに話した?」

「オブラートに包んで、復縁した事は話した。流石に、日本に戻りました。日本有数の名家の子どもでした。なんて、言えないよ。情報過多だよ」

「そうだよな」

「あぁ、詩季にぃの場合は、友人とは言え異性の従者が付いたもんね。陽葵ちゃんに説明しにくいよね」


 羽衣は、事情を察してくれたようだ。羽衣は、こうすると決めた際には、きっぱりと動くタイプの人間だ。そんな、羽衣が全てを話せていない時点で、羽衣も混乱しているのだろう。


「詩季にぃ。春乃ちゃんのグループ内での立ち位置もあるかもだし……詩季にぃの友人間では、オブラートに包んで話しても良いんじゃないかな?今後、サポートに関しては、学校内では陽葵ちゃん。プライベートでは春乃ちゃん」

「僕は、陽葵さんをサポート役にしたい訳ではないんだよな」

「でも、陽葵ちゃんは、詩季にぃのサポート=愛情表現みたいなもんだけどねぇ~~むしろ、詩季にぃの脚の事があるから外出のデートが出来ない分、サポートする事で、詩季にぃとの時間を確保してアピールしているんだと思うよ。つまりは、サポート役を何も言わずに春乃ちゃんに変えたら、心が自分から離れたと思うかもね」

「難しいなぁ~~」

「告白すればいいじゃん?」

「告白するにしてもさぁ~~実家の事を理解して貰わないうちに付き合ったら、後々、大変なことになると思うんだけど」

「あっ確かに……」


 あぁ、自分で自分の首を絞めるという事はこう言う事か。まぁ、自分が招いた種は、自分で摘むしかない。


『 (白村詩季) 春乃さん、僕たちの家の事、陽葵さんと陽翔くんに話しましょう』


 僕は、黒宮のスマホを取り出して、春乃さんにメッセージを送った。直ぐに、既読が付いて返事が返って来た。


『 (住吉春乃) 確かにね。スケジュール調整は、私がする』

『 (白村詩季) 僕がします』


 そう返信して、プライベート用のスマホを取り出す。


『(白村詩季) 陽葵さん。明後日とかに、お会いしてお話出来ませんか?陽翔くんもご一緒に』


 陽葵さんに、明後日、話せないかという旨のメッセージを送った。明後日と言うのは、陽翔くんのスケジュールもあるだろうからだ。


『(陽葵) ごめん、明後日は、家族で用事があるの。ごめん!』

『(白村詩季) そうですか。仕方ありませんね』

『(陽葵) 陽翔も一緒がいいんだよね?』

『(白村詩季) はい』

『(陽葵) 陽翔にも予定聞いて、また、送るね!』


 そう言った後に、陽葵さんは、猫のスタンプを送って会話を終了した。


 明後日は、無理となった。あぁ、春乃さんも同席する事言うの忘れた。


 すると、黒宮用のスマホが鳴った。


 メッセージではなく電話だったので、羽衣に電話に出る事を伝えて出た。


「どうしまたか、春乃さん」


 相手は、春乃さんだった。


『清孝様から、今度、黒宮の系列企業の見学に詩季くんと羽衣ちゃんをどうかなぁと』

「僕と羽衣ですか?」


 羽衣は、自分の名前が呼ばれた事でスマホをスピーカーフォンにするようにジェスチャーしてきた。


 僕は、春乃さんに許可を得てスピーカーにした。


『明後日ね、黒宮系列の会社が行うパーティーがあってね、それへの出席で、2人の社交界デビューとその前座で、企業見学はどうかって、清孝様が』


 なるほど。


 清孝さんの思惑は、これから関わる事になる黒宮家の事を今から見ていてもいいだろうという事か。


 丁度、明後日は予定も無いことだし、パーティーと言う事は、美味しいご飯も味わえるだろう。羽衣も乗り気みたいなので、了承する事とする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る