135.約束
「では、行きましょうか」
「春乃ちゃん、よろしく頼むね」
「かしこまりました」
今日は、瑛太くんと奈々さんとランチを食べに行く日だ。普段なら同行者として陽葵さんだが、今日は、春乃さんにお願した。
これは、普通の判断だろう。
自分の実家に関わる人間に、サポートをお願いする。春乃さんは、僕の従者だ。僕のサポートを仕事としている。友人の陽葵さんに、僕の都合に合わせさせる必要は無い。それに、今日のお話に、陽葵さんは立ち会う必要が無い。
静ばぁは、初めてのペアでの外出に少々不安そうにしていたが、外出を了承してくれた。
電車に乗って、三宮に移動する。
ランチは、運動部に所属する瑛太くんに嬉しいであろ、ハンバーグの食べ放題のお店を春乃さんに調べてもらって予約して貰った。
「詩季くん、ちょっと顔見せて。私の目に合わせる感じで」
春乃さんに、お願いされたので春乃さんの目を見る。なんだか、こしょばい感覚を覚えてしまう。
「ありがとう」
お礼を言われたので、春乃さんから顔を逸らす。
「これが、陽葵ちゃんだったらもっとドキドキしてた?」
「……考えてる事を言わないで欲しいです」
確かに、陽葵さんと目を見つめあったらドキドキするんだろうなと思う。羽衣の言う通り、陽葵さんは、僕にとって特別な存在なんだと思う。
でも、今は、その気持ちを捨てないと行けないのかもしれない。父親にやり返す術を見つけた。それを遂行するためには、捨てる物は捨てないといけない。
でも、陽葵さんとの縁は捨てたくないなぁ〜〜
だけど、僕がする事に陽葵さんを巻き込みたくない。これが、〖好き〗という感情なのだろうか。
「それで、僕の目に何かありましたか?」
「う〜んとねぇ、目に、どす黒いハート型のハイライトが浮かんでいたよ」
「何ですか、それ?」
「鏡で、わかるかな?」
春乃さんは、自身のお化粧ポーチから手鏡を見せてきた。春乃さんの言う通り、僕の目には、どす黒いハート型のハイライトが浮かんでいるように見える。
「確かに、そうですね。確か、清孝さんにも同じでしたよね。これ、消せますかね?」
「精神を安定させる事じゃないかな?清孝様は、奥様と居られる時は、目のハイライトは、見えませんし。それに、あんまり気にしないで良いかと思います」
「どうして?」
私は、清孝様のハイライトを認識出来ますが、清孝様のご友人は、認識出来ていないようです。見える人と見えない人が居るのでしょう」
「だったら、陽葵さんは、見えるのでしょうか?」
いち早く気になったのは、陽葵さんが、僕の目に浮かんでいるハイライトが見えるかどうかだ。
「確証はないけどね、詩季くんが石川くんに怒った時に止めに入った時あるじゃない?」
「うん」
「その時に、詩季くんの目を見て、驚いた表情していたから、可能性は高いかもしれない」
あの時の陽葵さんの目は、何か危機を感じているような目をしていたが、僕の目が原因だったのか。
「詩季くん、陽葵ちゃんの事、好きでしょ?羽衣ちゃんは、詩季くんが、好きって気持ちが解らないって言っていたけど、もうわかったんじゃない?」
〖好き〗と言う感情。
羽衣にケニーくんの事を聞いて、僕が陽葵さんと一緒に居て感じる感情と照らし合わせてやっと、陽葵さんの事が好きだと解った。
「確かに、陽葵さんの事、好きですね。出会えた奇跡に感謝ですよ」
「ならさ、その奇跡は大事にしないとダメじゃないかな?今の詩季くんは、羽衣ちゃんも感じてたけど、聡様への復讐心が、心の半分以上を占めてる。だから、陽葵ちゃんが必要ないと判断したら切り捨てかねないと言ってた」
「そんな事は――」
「――本当に?」
春乃さんからの指摘には、何も言い返せなかった。
「んまぁ〜〜私も、同じ様な物だよ」
「春乃さんも?」
「私にとって、陽翔くんに出会えたのは奇跡。その奇跡を与えてくれたのは、詩季くん。まぁ、詩季くんへは恋する間も無く陽葵ちゃんの事しか眼中に無いのはわかったけど……」
春乃さんは、何を言いたいのだろうか。
「私さぁ、従者の仕事として詩季くんの事を調べるために、陽翔くんの事利用した。私からデートに誘っといて、デート中は、詩季くんの事を聞きまくった。恋愛感情より家業を優先した。今、めっちゃ後悔してる。だから、忠告。1度、壊れた関係を戻すのは難しいよ」
春乃さんは、陽翔くんが、今も自分と関わってくれているのは他の友人関係があるからで、もう、自分の事は恋人候補として見て貰えてないかもしれない。
そういう不安と後悔だ。
「だから、詩季くん。目的のために陽葵ちゃんを切り捨てないといけないとしても……説明はしっかりして、向き合って。これは、従者と主人ではなく、友人としての約束」
「分かりました」
「それと、これは、私だからこそ言える事だけどね……」
春乃さんは、僕の肩に手を置いてきた。
「陽葵ちゃんが納得する説明をしないまま、聡様への復讐をするなら、やり方は違えど、聡様と同じ事をしていることになります。そこは、ご注意を。これは、従者としての助言です」
本当に、友人モードと従者モードで話し方が変わっている。すごいと思う。どれだけの厳しい努力をしていた事か。
「……今思ったんですけど、図書館で僕の事故の事話した時には、既に知っていたでしょう」
「うん。お父さんとお母さんからは、知らないフリをするように言われていたから」
「女優にでもなれるんじゃないですか?」
「ご命令とあらば、なりますよ?」
「やめてください。命令で、1人の女の子人生を決めたくありません」
お互いの本来の家の事が見えたからなのか、以前より信頼関係は、強くなっているように思う。
そして、僕が陽葵さんとの関係に関して、しっかりと向き合うと言うなら……
「じゃ、僕という主人からのお願いです。春乃さんも陽翔くんとしっかり向き合ってください」
「あはは、わかったよ。約束する」
それにしても、お互いが、お互いに好意を持っている者同士だが、お互いが抱えている秘密をどのようにして打ち明けるかは、要相談だ。
4人の友人の事を信頼していない訳では無いが、かなり重たい内容だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます