121.〖好き〗

「羽衣は、ケニーくんのどういう所が好きになったのさぁ?」


 我が最愛の兄様より、彼氏のケニーの何処が好きかを聞かれた。


 詩季にぃさんが、友人達とプールに行ったそうだ。そこには、陽葵ちゃんを初めとして、春乃さんと奈々さん(彼氏持ち)と2人の女性がいるらしい。


 女の子達の水着を拝見して来るであろうエロ兄に、私の水着も見せてやろうと思って見せた後に、こんな話になるとは思わなかった。


 詩季にぃさんの本命は、陽葵ちゃんで間違いないだろう。


 何故なら、私と似ているからだ。


 何だかんだで、私の事が大好きなシスコンにぃちゃんなので、私に似ている陽葵ちゃんに恋していると思う。


 そして、陽葵ちゃんは、詩季にぃさんに好意を伝えたそうだが、返事は保留したそうだ。

 傍から見たら、「何勿体無いことしてんだ!」とか、「何様のつもりだ!」と言う意見も出てくる行為だ。


 だけど、詩季にぃさんは、恋愛に対して臆病だ。


 祖父母は鈍感と言うが、詩季にぃさんは、鈍感なのではなく怖いのだ。

 高梨さん所の娘さんとの恋愛で失敗してしまった経験がかなりのボディーブローのように効いてしまっている。


 具体的には、〖好き〗と言う感情が解らなくなってしまっている。


 そして、詩季にぃさんは、〖好き〗と言う感情を知りたいと思って、私に聞いてきている。


 だから、私は、ケニーとの出会いを話そうと思った。




●●●




 イギリスと言う土地は、私には合わないのかもしれない。

 日本という国で、日本語中心の生活を送ってきた私にとって環境が、180度変わった。


 英語自体はこっちに来るまでに、詩季にぃさんと猛練習したから問題無い。何処ぞの英会話教室より覚えやすかった。


 だけど、英語を聞き取って日本語に脳内変換しながら話すという事は、私にとって物凄いストレスだった。

 最愛の兄は、日本に残されて私だけこっちに来たのも相まっている。


 基本的に、外出をするにしてもお母さんと一緒に出ていた。でないと、迷子になった時が怖かったからだ。


 ただ、何時までもお母さんが着いて来てくれる訳では無い。


 学校には、1人で行かないといけない。


 最初に登校する時は、お母さんと一緒に行ったが、帰りは1人だった。


 案の定、私は帰りに迷子になってしまった。


 帰り道が分からない。


 誰かに聞こうにも、怖くて聞けない。


 外国には、アジア人差別をする所もあると聞く。帰り道を聞いた時に、危害を加えられたらと思うと怖い。


 怖い。


 怖い。


 何で、詩季にぃさんが居ないの。初めての土地だからこそ、1番信頼出来る人と一緒が良かった。


 どうしたらいいの?


 助けてよ、詩季にぃさん。


 そう思っていた時に、ケニーが、声を掛けてくれた。


 その時の私は恐怖心のせいか、知らない間に過呼吸になっていた。


 ケニーは、そんな私をまずは落ち着かせてくれた。私が、落ち着いたタイミングを見計らって、事情を聞いてくれた。


 ケニーは、同じ制服+日本人と言うことで、同じクラスに転校してきた人が困っていると認識して助けに来てくれたようだ。


 私は、ケニーに家の住所を何とか片言の英語で伝えて家まで送って貰った。


 そこからは、私が道を覚えられるまでと言うか、イギリスの生活に慣れるまでは、ケニーとそのお友達が、私を送り迎えしてくれた。


 ケニーのおかげで、同性・異性の友達も沢山出来た。


 イギリスでの生活に慣れる事が出来たのは、間違いなくケニーのお陰だ。


 好きにならない方がおかしい位に、良くしてくれた。もちろん、1番が詩季にぃさんなのは変わりないけども。


 私から告白するつもりだったある日に、彼から告白された。


 もちろん、OKして男女交際が始まった。


 中学1年生の秋頃の出来事だった。


 そこから、ケニーとの交際は、順調だった。彼氏が出来た事を、詩季にぃさんに電話で報告した。


 イギリスでの生活が順調になり、中学2年の時に、私の心が脅かされる出来事が起こった。


 詩季にぃさんとの連絡が取れなくなったのだ。


『 (羽衣) 詩季にぃさん誕生日おめでとう!』 既読

『 (白村詩季) ありがとう!』

『 (羽衣) 誕生日プレゼントは、私だ!』


 最後に送ったメッセージに、既読がつかないのだ。


 詩季にぃさんに、何かあったに違いない。連絡がつかない事は、何か事情がある。


 私は、お母さんに、詩季にぃさんと連絡が取れない事を相談した。


「事故に遭って、短期間入院したみたい。すぐに、返信来るよ」


 その言葉を信じた。


 けど、いくら待っても返事は来ない。


 私の変化に気がついた、ケニーから心配されるが、八つ当たりをしてしまう。


 それも、仕方がない。クズだと思われても仕方がない。


 私にとって唯一不動の1番好きな人である兄と連絡がつかないのだ。


 しかし、そんな中でもケニーは、優しく傍に居てくれたのだった。




●●●




「ケニーを好きになったのは、こんな感じだったかな?」

「辛い時に、傍に居てくれた事で好意を持ったんだね」

「詩季にぃさんも、同じ経験を持ったんじゃないかな?」


 詩季にぃさんにとっての辛い時は、事故に遭って家族から見放されたと思った時だろう。その時に、傍に居てくれた人は陽葵ちゃんじゃないか。


 多分、これは詩季にぃちゃんが、〖好き〗という感情を理解すれば、一瞬で、発展すると思うんだけどな。

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