113.設立資金
「そうだ、詩季に、お願いしたい事があるんだけど……」
「何でしょうか?」
母親からのお願いは、何だろうか。
帰国早々のお願いという事もあって身構えてしまう。
「これは、羽衣にも関わる事なんだけど……」
「うえぇ、私も?」
羽衣の反応を見るに、羽衣も初耳なのだろう。
一体、何の事だろうと思う。帰国してきて早々に、兄妹に対してのお願いだ。よっぽどの事情があるに違いない。
「2人が、お父さんにいい思いをしていないのは理解しているんだけどね」
父親関係?
だったら、気まずい雰囲気を出しているのも理解出来る。
「父方の祖父母に、会って貰いたいんだよね」
「「しずか!!」」
母さんの発言に、祖父母がものすごい勢いで反応していた。
「大丈夫、向こうは、お父さんとお母さんと同じように、孫の顔を観たいだけだから」
「母さん、父方の祖父母は、どんな人なのですか?」
父方の祖父母は、一度も顔を見たことがない。どんな人物なのか一切わからない。
「…………黒宮家って言ったらわかるよね」
「「!!!!」」
僕と羽衣は、驚いた表情をお互いに見せあった。
黒宮家
兵庫に住んでいて知らない存在は居ないと言える程の、元華族の旧家だ。
兵庫県だけではなく、日本全体にも大きな影響力を持っている。
それに、黒宮家が経営している会社は、世界規模の大きな会社だ。
黒宮家が経営している会社が倒産でもすれば、日本各地で、失業者が溢れてしまう程だとも聞く。
そして、黒宮家内では、基本的に長男が家を継いで次男以降は、政界や色んな所で働いて黒宮家自体が、かなり顔が広い家となっている噂も聞く。
「えっ、まさか…………」
「そのまさか。お父さんの実家は、黒宮家。しかも、長男だから本来は、黒宮家を継がないといけなかったの」
なるほど。
だから、祖父母は、声を上げたのか。
僕と羽衣を父方の祖父母に合わせる = 黒宮家に戻す
と捉えたのかもしれない。
「では、あの人は、何で黒宮を継いでいないのでしょうか?」
「私とは、半分駆け落ちみたいに結婚したんだよ。お父さんには、実家が用意した婚約者も居たの」
母さんから聞かされた話は、衝撃的だった。
父親は、学生時代に出会った友人たちと一緒に起業したかった。だけど、そのためには、黒宮家の長男という肩書きが邪魔だった。
それに、母さんと結婚したかったが、政略的意味合いの強い婚約者も用意されていて、それも邪魔だった。
だから、父親は実家の縁を切って駆け落ちで母さんと結婚したと。
「だったら、私たちの苗字が白村なのなんで?」
羽衣が、母さんに質問を投げかけた。これは、僕も純粋に思った。
父親が黒宮の人間なら黒宮姓のはずだが、僕らは白村姓だ。母方の祖父母は、丹羽姓だ。何処にも、白村姓の要素がない。
いや、白村性の要素は、1つだけある。
「母方の旧姓が、白村なのですか?」
「やっぱり、詩季は、頭の回転が早いね。白村は、父方の祖父母の母方の姓なの」
父親が、黒宮から縁を切る際に、父方の祖父母も離婚した。そして、父親は母方の姓を名乗ることになったのだ。
「では、父親が縁を切っている父方の祖父母に合わないといけない理由はなんですか?」
「簡潔に言うと、会いたがっているんだよ。孫と孫娘にね」
「今までの口振りを見ると、母さんは、父親が縁を切ったはずの父方の祖父母と関わりがあったとも捉えられますけど?」
「…………詩季、理詰めやめてくれないかな?」
「そうじゃろ、詩季の理詰めは、かなり精神に――」
「お父さんは、黙ってて」
こんな話を持ってきている時点で、父親が縁を切った人物も関わりがあるのは確実だ。それにしても、健じぃの立場の弱さは、相変わらずだ。
「簡潔に言うとね、私たちが設立した会社の設立資金を出して貰ったの」
母さんから、会社設立の裏側を聞かせて貰った。
父親たちは、大学卒業と同時に会社を起業させた。大学時代から起業の準備をしていたそうだ。母さんは、起業に必要な資金集めを担当したそうだ。
ただ、何の実績の無い人物が設立する会社に資金を出してくれる銀行や会社は無かった。貸してくれるとしても足元を見られた法律ぎりぎりで、母さん側からしたら不利な条件を提示された。
そんな中だったそうだ。
「やっぱり、黒宮は凄いよね。広い人脈を駆使して、私の連絡先を調べて連絡してくるんだもん。そして、私が陥っている状況も把握して魅力的な内容を提案してくるんだから」
母さんが、黒宮から得た条件は、返還の必要ない資金、2000万円。それ以上は、3500万円までは、無利子・無期限で返還。それ以上の金額は、低金利・無期限で返還。そして、会社設立後は、主要な取引先となってもいい。
「それで、父方の祖父に会ったんですか?」
「うん。何か裏があるのは、解っていたけどね……もう、設立資金を出してくれる所は無いから……」
母さんは、1人で黒宮本家に足を運んだそうだ。
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