105.頬っぺた

 翌朝。


 スマホの時計を見ると、朝の6時を過ぎた辺りだった。


 僕は、目覚めてしまった。


 二度寝をしようにも、普段から1度起きてしまうとその後、中々寝付けなくなる。

 だから、夜中に目覚めようものなら、翌日は、睡眠不足に悩まされる事になる。


 僕が寝ているベットの隣では、陽葵さんが、規則正しい寝息を立てて寝ている。


 昨日は、あの後、軽く雑談をしてから、一緒に眠りについた。


 赤い箱に関しては、僕は、健じぃから貰った、陽葵さんは、おばさんから貰った物だと発覚してお互いに、お腹を抱えて笑いあった。


 と言うか、お泊まりのタイミングで、赤い箱を親が渡してきた意味。

 何となくだが、検討がついている。あまり、くえない事をしたものだと思う。


 まぁ、これもある種の試練と言うものなのだろう。


 ただだ。


 隣で、規則正しい寝息を立てている陽葵さん。


 僕に向かって横になっているので、顔が見える。


 もっとよく見たいので、何とかして、身体を陽葵さん側になるように寝返りを打って、寝顔を眺める。


 可愛い


 陽葵さんの寝顔を見て、思った感想だ。普段は、あんなに、テンションが高い女の子が、寝るとこんなにも可愛らしい表情になっているのだ。


 ここで、僕は、1つの欲求に駆られてしまう。


 陽葵さんの頬っぺを抓って伸ばしたい。いわゆる、イタズラ心が出てきている。


 熟睡している陽葵さんをイタズラして起こせば、面白い表情が見られる事は間違いない。

 でも、この可愛い寝顔をもっと見ていたいとも思ってしまう。


 あぁ、何とも、贅沢な悩みだろうか。


 ここは、イタズラ心の方が勝ってしまった。


 そ〜と、陽葵さんの頬を親指と人差し指で優しくつまんで、引っ張る。


 陽葵さんの寝ている向き的に、片方だけど頬を引っ張る形になったが、さっきまで可愛いかった表情だったのが、少し、面白い表情になっているのが可愛い。


「むふぇ〜〜ふぁにぃ〜〜」


 当然と言えば当然だが、陽葵さんは、目を覚ました。


 僕に、頬を引っ張られている影響で、上手に喋れずにいる。


「おはようございます。陽葵さん」

「ふぉはぁよぉ〜〜てふぁ、ふぁなしてぇ〜〜」


 面白いのと、強く抵抗する素振りを見せないので、陽葵さんの頬を握り続けると陽葵さんも、僕の頬を抓って伸ばして来た。


「ふぉうだぁ〜〜ふぁなせぇ〜〜」


 そこから、僕と陽葵さんは、頬をどっちが先に離すかで、押し問答を続けた結果、同じタイミングで離した。


「「うはははははぁぁぁぁぁぁ〜〜」」


 僕と陽葵さんは、ベットの上で、大きな声を出して笑いあった。


「お互い、変な顔だったよね」

「そうですね」


 先に、僕が起き上がってベットに座ると、陽葵さんも起きて、隣に座ってきた。


「改めて、おはよ!」

「おはようございます」


 僕は、陽葵さんと朝の挨拶をした。


「じゃ、着替えよっか」

「もちろん、別々ですよね?」

「えっ、一緒に着替えるよ。荷物持ってきてるし」


 多分だけど、僕も、陽葵さんに対するハードルは、かなり下がっているのだろう。


 無意識に、タメ口で話すことが出来ているのが、いい証拠だろう。


 今回も、陽葵さんが引かなさそうなので、一緒に着替える事を良しとしてしまった。






(陽葵さんの下着の色、青だったな)


 そんな感想を、僕は、抱いていた。


 一緒に着替えたのだから、お互いの下着は、見てしまった。


 朝食を食べ終えて、僕と陽葵さんは、遊ぶのではなく、勉強をしていた。


 僕は、一昨日と同じく藤ノ宮大学の入試問題を解き、陽葵さんは、夏休みの課題を進めていた。


 祖父母は、今日の夕方頃に帰宅してくる予定だ。


 祖父母の帰宅と入れ替わりで、陽葵さんは、お家に帰る予定だ。


 遊ぶという選択肢もあったが、昨日に、色々と刺激的な事がありすぎて、お互に、頭を冷やす意味でも勉強をしようとなった。


 お昼も陽葵さんが用意してくれた。


 この3日は、陽葵さんのご飯を食べたが、本当に美味しかった。


 言っちゃ悪いが、普段の言動を見ていると、料理上手なイメージが無いので、予想外だった。


 絶対に、調理実習では、食材を炭化させる常習犯だと思っていた。


 多分、この3日で胃袋は掴まれたと思う。


 昼食を食べ終えて、陽葵さんが片付けを始めようとした時、家のインターフォンが鳴った。


 僕と陽葵さんは、顔を見合せて、玄関まで移動すると、扉の鍵が解錠されて、祖父母が入ってきた。


「おぉ〜〜詩季。元気そうじゃの」

「どうしたのですか。健じぃがやらかして、強制的に帰宅させられたのですか?」

「おぉ……いきなりの毒舌じゃの」

「まだ、許していませんよ~~陽葵さんを――」

「わわぁ~~それは、いまはぁ~~」


 健じぃの肩に手が置かれた。健じぃは、後方に立っている静ばぁに、睨みを効かされて、大量の汗をかいている。


「詩季から報告受けてたけど……よそ様の女の子をそんな目で見てたのねぇ~~」

「違うんじゃい。これには、訳があって……」


 すると、祖父母の後ろからおばさんとおじさんが。姿を現した。


「お父さんとお母さん?」

「おはよう。詩季くん、陽葵が迷惑を掛けなかったかい?」

「いぇ、普段の言動からは想像出来ない位に、良くしてくれましたよ」

「詩季くん?」


 僕は、陽葵さんに肩を掴まれた。

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