97.お迎え

 目が覚めた。


 スマホの時計で、時刻を確認すると6時を過ぎていた。


 夏休みに入っても生活リズムは狂う事は無く正常運転だ。


 隣には、陽菜ちゃんが規則正しい寝息を立てて寝ていた。床の方に目を向けると、陽葵さんも規則正しい寝息を立てていた。


 しかし、その瞼がピクっと動いた。


 そして、瞼が開いて僕と目が合った。


 陽葵さんは、起き上がったので、僕も身体を起こした。


 ベットで隣り合って座った。


「8月31日が、誕生日なんだね」


 そうだ、昨日は、陽葵さんに僕の誕生日を教えた後に、直ぐに寝落ちしてしまったのだ。


「そうですね」

「えっ、でも、詩季くん。事故に遭ったのは誕生日会のドタキャンの件で、幼馴染達と喧嘩したからなんだよね?」


 そう、陽葵さんが知っている時系列と違うのだ。


7月下旬に事故に遭って、入院した。その前に、自分の誕生日会の事で、幼馴染と喧嘩した事を話していた。そう言えば、7月下旬に、僕に対して誕生日プレゼントとしてクッキーをくれたけど、勘違いしていたのか。


 そりゃ、この話を聞けば、僕の誕生日が7月だと勘違いするのも仕方が無い。


 ただ、あの時は、陽葵さんのおふざけだと思ってしまったのだ。


「んまぁ~~石川くんの誕生日が7月の下旬なんですよ。もちろん、家族では8月にお祝いしていましたけど、幼馴染間では、7月の石川くんの誕生日にまとめて祝っていたんですよ」


 中学生にとって、1人の誕生日をお祝いするにしても、アルバイトが出来ない中のお小遣いでやり繰りする中でのお祝いには、金銭面的に余裕がない事は、重々承知していたので、不満はない。


「それで、事故に遭った年は、僕の為に特別だぁ~~って高梨さんが言っていましたけど……すっぽかしましたね」


 僕は、舌をだして答えた。


「それで、別日に呼び出されて、喧嘩して~~まぁ、そんな事がありましたねぇ~~もう、1年ですかぁ~~」

「早いね」

「陽菜ちゃんも可愛く寝ていますし……人生は、どう転ぶか解りませんね」


 陽葵さんは、陽菜ちゃんの頭を撫でていた。


「可愛い寝顔ですね。まぁ、この事は、羽衣には内緒にしないと大変な予感がしますね」

「そうなの?」

「陽菜ちゃんにした事と同じことを要求されかねないなぁ~~と思いまして」

「あはは、羽衣ちゃんならしかねないね……」


 すると、陽菜ちゃんは、起き上がった。


「おはよぉ~~」

「陽菜ちゃん、おはようございます」

「陽菜、おはよ」




〇〇〇


 私は、陽菜を連れて客間に移動して着替えを済ませて、リビングに移動して朝食を作った。


 詩季くんは、身支度を終えるとリビングに来てくれたので、3人で朝食を食べる。


 陽菜は、今日のお昼にお母さんが迎えに来てくれて、お家に帰ることになっている。


「陽菜ちゃん。今日は、お昼まで、沢山遊びましょうね」

「うん!」


 この3人で、遊ぶ時には、必ずと言っていいほど、私は、精神的なダメージを負うことになる。


 主に、私の羞恥心を陽菜が、狙ったかのようについてくるのだ。


 朝食を食べ終えて、後片付けを終えると、お昼ご飯の時間まで、3人で遊ぶ。


 案の定、私のライフは、陽菜による無自覚攻撃によってかなり削られてしまった。


 昼食は、昨日のハンバーグの残りを使ってロコモコ丼を作った。


 私と陽菜で、詩季くんが成形したハンバーグの取り合いをしたのは、言うまでもなく、詩季くんのロコモコ丼には、私と陽菜が成形したハンバーグが乗っていた。


 あまりの量に、詩季くんは、食べきれるか不安の様子だったが、静子さんに確認を取ったら、OKサインが出たので、何とか食べきってもらった。


「陽菜、忘れ物ない?」

「大丈夫!」


 もうすぐで、お母さんが迎えに来る。


 本音を言えば、陽菜の帰る準備は、私がして陽菜は、詩季くんと遊ばせたいが、お母さんが、自分の事は、自分でさせなさいという事だ。


 特に、今回のように、自分の我儘でお泊まりに行ったのだからだそうだ。


 これに、関しては、私も含まれているだろう。


 元々は、私のお家に詩季くんがお邪魔する予定だったのだ。


 今回のお泊まりは、私と詩季くんの我儘から始まっている。


(うん。大丈夫かな)


 陽菜の荷物を確認すると、忘れ物は無さそうだ。


 後は、詩季くんのご好意で、洗濯機を貸してくれたのでその服が乾いたら明日、帰るタイミングで一緒に持って帰ればいい。


 ピンポーン♪


 詩季くんのお家のインターフォンがなった。


 現在の家主である詩季くんが、モニターで訪問者を確認して、私に合図をくれたので、3人で出迎える。


「こんにちはです。おばさん」

「こんにちは。陽菜が、お世話になったね」


 詩季くんが、お母さんに挨拶をした。


「ママ、おはよ!」

「おはよう、陽菜。いい子にしてた?」

「うん!」


 お母さんは、詩季くんに視線で確認して、詩季くんも頷いていた。


「それと、詩季くんの様子も変わりないね」

「はい。元気ですよ」


 お母さんは、静子さんとの約束通り詩季くんの様子を確認して、陽菜を車に乗せて、私を玄関前に呼んだ。


「どう、楽しい?」

「うん。楽しいよ」

「そっか。静子さんと健三さんに感謝しないとね。まぁ、陽葵が積み上げた信頼があるから許してもらってるんだからね」

「うん」


 お母さんは、何か、私に理解させたいかのような言動に見える。


「これ以上言わなくてもわかると思うけど……これ持っておきな。受け取ったらすぐポッケに入れてカバンに隠すこと」


 お母さんは、私に、0.01と描かれた赤箱を渡してきた。


 私は、恥ずかしさのあまり受け取って直ぐに、ポッケに入れた。


「水着見せるんなら、最終的にはそうなる可能性あるでしょ?」


 全てを見透かしたようなお母さんは、不敵な笑みを浮かべて、車に乗り込んで陽菜を連れて家に帰って行った。


 詩季くんと、そういう事をする。


 嫌ではない。


 むしろ、嬉しいと思う。


 私は、詩季くんにバレないように、客間に置いてるカバンに、赤箱を入れた。

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