75.ハイライト

「その事に、対しての謝罪は、受け入れましょう」

「じゃ……」

「ですが、先日も言いましたが、君たちとは、もう行動を共にしません」


 石川くんは、ある程度覚悟していたのだろう。顔を上げたが、表情は、何一つ変えていない。


「もう、会社とか学校での事で手助けは、求めない。だから、友人として……」


 この言葉を聞いて、僕の心は、ものすごく渦巻いた。


 何と言っていいのか、これは、表に出してはいけない感情だ。


「何を言っているのですか。僕が、君達に怒っているのは、その事じゃないですよ。でなきゃ、文化祭でクラスが崩壊した時に、建て直すなんて面倒な事しな――」

「詩季くん、これ以上は、ダメ!」


 陽葵さんが、僕の前に立った。


「――――」

「ダメだよ」


 陽葵さんは、僕の肩を力強く握って僕の目を強く見ていた。


「分かりました」


 僕は、矛を収める事にした。


「そう言う事だから、石川くん。今は、帰って」


 陽葵さんに言われた石川くんは、2人の元に行ってから素早く教室から出て行った。




○○○




「そう言う事だから、石川くん。今は、帰って」


 私は、石川くんに向かってそう言った。


 石川くんは、大人しく教室から出て行ってくれた。


 守谷先生も、教室から出たあとで助かった。


 今の詩季くんを見られたら警告を貰っていてもおかしくなかった。


 生徒会に呼ばれているメンバーは、交流会館に向かい、呼ばれてない・拒否した2人に、教室の戸締りを任せた。


 はっきり言うと。


 ヤバいと思った。


 普段、穏やかな人間程、怒ると怖いと聞くがそれを体現していた。


 止めないとヤバいと思った。


 石川くんは、どんな罵詈雑言を受け入れる覚悟だっただろう。

 その覚悟を持っていたとしても、あの状態の詩季くんなら、石川くんに、生きている意味を失わせる位の事を口にすると思った。


 陽菜に、今の詩季くんを見せたらガン泣きするだろうなと思った。

 もしかしたら、泣く暇もなく気絶していたかもしれない。


 あの時、詩季くんの雰囲気は、ヤバかった。


 味方である私たちでさえ雰囲気にやられそうになった。

 本当に、動けた私を褒めて欲しいくらいだよ。


 あの時の詩季くん。


 怒りのオーラがあったのは間違いない。


 詩季くんを止めるために、彼の前に立った時に、驚いた。


 詩季くんの綺麗な瞳は、どす黒くなっていて……眼には、ハートの線状のハイライトが浮き出ていて、線もどす黒かった。


 このまま放置すれば、詩季くんは、物語的に言う闇落ちしかねないと思った。


 だから止めた。


 詩季くんは、前を見ている。


 過去の事で、闇落ちしてしまったらダメだ。


 ブー♪


『 (陽翔) 詩季の隣に立つためには、何が必要かな?』


 陽翔からメッセージを受信した。


 詩季くんの隣に立つために、必要な事。


 詩季くんは、人が能力を発揮するには、人の支えが必要だと。これは、つまり、詩季くんは、自分を支えてくれる人が欲しいことではないのか。

 そして、その支えと言うのは、身体的な支えだけでは無い気がする。


 そうだ、駄目な事は駄目と言える人が欲しいのではないか。


 文化委員の2人の岡さんのイエスマンを駄目とした。


 なら、私のするべき事はなにか。


 皆、友情と言う建前で、詩季くんに対して指摘しなかった。陽翔に関しては、気が付いていたようだが、どう言う意味か私に、バトンを投げて来た。


 言わないといけない。


 本当の友情を手に入れて、そして、その先に進むためにも。


 躊躇しては、ダメだ。


 やり方は、どうであれ、詩季くんは、躊躇なく動いていたんだ。


「ねぇ、詩季くん」


 生徒会室に向かう途中で、皆に聞こえる声で、詩季くんを呼んだ。


 皆、私の方を向いた。


「詩季くん。文化祭の準備の事だけど……あれは、良くないよ。クラスが崩壊する前でも良かったよね」


 文化祭は、1ヶ月も前に終わっている。


 そんな事を、何を今更蒸し返しているだと言う話だが、私は何か引っかかっていた。


 だから、2人でご飯を食べた時に、石川くんの事を聞いた。


 詩季くんの事情は理解している。


 石川くんに、彼自身に、リーダーとしての側近選びについて学ばせたかったというのもわかる。


 挫折を経験していない彼に、小さな挫折から大きな挫折を味わせていた事もわかっている。


 最初は、グループ内の春乃ちゃんの目標を利用していたが、今回は、規模が大きすぎた。知らずのうちに巻き込まれた人が多すぎる。


 今の関係を維持するために合わせるんじゃなくて、友情のために言うべきことは言わないといけない。


 そして、石川くんに学ばせたかった背後には、詩季くん自身も同じような人が近くに居て欲しいと思っているからだろう。


「詩季くんの私怨があったと思うけど、クラスメイトまで巻き込む必要は無かった。今回は、上手くいったけど、次もいく保証もないよね」


 本当なら、文化祭準備の時に、しっかりと言わないといけなかった。


 詩季くんから、作戦を聞いた時に異論を言わないといけなかった。


 だけど、言えなかった。


 だからこそ、次、同じことをしないためにも、言わないと行けない。


「結果的に、石川くん達のクラス内の発言力は下がった。けど、クラス崩壊させる必要は無かった」


 詩季くんは、私の目を見続けながら、私の言うことを聞き続けている。


「そうですね。陽葵さんの言う通りだと思います」


 詩季くんは、私に向かってそう言ってきた。


 そして、詩季くんは、この場にいる4人に頭を下げた。


「皆さんを巻き込む形になって申し訳ありませんでした」


 詩季くんは、私達に、謝罪をしてきた。


「全然、いいよ。俺らも詩季に任せっきりだったからな」

「うん。陽葵ちゃんが、声を上げるまで何も言えなかったから」

「ありがとうございます」


 詩季くんは、瑛太くんと春乃ちゃんの笑いあった後に、私の方を見てきた。


「私は、怒ってないよ。ただ、注意しただけだから。安心して」

「ありがとう…………ございます」


 私の時だけ、少しの間があったのは気になるが、詩季くんに対して、私は、悪いことは止めると意思表示がしっかりと出来たと思う。


「じゃ、いこう!」


 私達は、生徒会室がある交流会館へ足を運ぶのだった。


 これで、良かったと思う。


 でないと、今度は、詩季くんが同じことを繰り返していたかもしれないから。


 〖 【歴史は、繰り返す】 〗


 という言葉もある訳だし。




○○○




「よかったな。本当の意味でのパートナーを手に入れられたな、白村。西原陽葵との縁は、大事にしろよ。おっと、この件は、涼森先生に報告しないとな。次は、アイツらだな」



――― 後書き ―――


75話で、第2章終了です。地話より、第3章のスタートです。


そろそろ、章のタイトルを付けたい所ですが、タイトル無しでも良いかもしれませんね!


引き続き、『事故に遭いそうな幼女を助けたら新たな出会いがありました』よろしくお願いいたします(*'ω'*)」

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