54.文化祭!

「では、ハメを外し過ぎないように楽しめよ~~」


 1年1組は、展示会場の空きスペースに集合して守谷先生からの注意事項を聞いていた。


 今日は、文化祭2日目で保護者を始めとする生徒が招待した人が、学校に来る日だ。1年生は展示なので、自分の当番や委員会の仕事の時以外は、自由時間だ。


 僕達6人は、最初の当番なので展示会場に残っている。


 当番ではない人達は、おしり部分についた汚れを落としながら教室を後にしていく。


「んじゃ、お前らもハメ外しすぎんなよぉ〜〜」


 そう言いながら、気だるそうに守谷先生は、展示会場を後にして行った。


 今日に関しては校内の見回りなど、休憩時間も無いほどに働きずめだと何処かの授業で言っていたな。


 本当に、影で動いてくださる先生方には、感謝だ。






「交代するねぇ〜〜」


 次の当番の子が来たので、引き継ぎを済まして、僕たちも文化祭を回りに行くとする。


「なぁ、よかったら部活の先輩がやってる屋台に、一緒に行かないか?」


 特に、ルートとかは決めていなかったので、僕たちは、瑛太くんの提案に賛成して彼の仲の良い先輩のクラスの屋台に行くことにする。


 瑛太くんの先輩がしていた屋台は、焼きそば屋さんだった。


 定番中の定番の屋台を開いているという事は、他クラスの競争に勝ったという事だろう。


「焼きそばは、競争率高くなかったですか?」


 僕は、商品を受け取った先輩に聞いた。


「高かったみたいよ。でも、うちのクラスにはねぇ〜〜」


 話してくれている女子生徒が指差した方向を見て僕は、納得した。


 古河こが裕大ゆうだい先輩


 高等部の生徒会長だ。


 高等部1年の頃から、生徒会に所属していて、僕が、中等部2年の頃に顔を合わせたのを最初に、1回か2回顔を合わせている。


 理由に、納得したので、一言お礼をして屋台を後にして人の流れが緩やかな場所に移動して焼きそばを食べる。






 焼きそばを食べ終えて、容器をゴミ箱に捨ててから、体育館に移動して気になっていた有志のステージを視聴し終えたので体育館から出た。


「詩季、こっから陽葵と2人で回ってあげて欲しい」

「陽翔くん、良いんですか?」


 文化祭の前に、2人で回る約束をしていて4人も了承してくれていたが、こんなには早く2人になるとは思わなかった。


「詩季くん?」


 陽葵さんは、皆の提案に乗り気なようで、僕の事を上目遣いで見てきた。


「皆がいいなら、一緒に行きましょうか」


 僕は、皆と別れて陽葵さんと2人で文化祭を回りだす。


「陽葵さんは、何処に行きたいですか?」

「う〜ん、屋台にクレープに出してある所あるんだけど、そこにでいい?」

「では、行きましょうか」


 屋台が広がっている中庭に移動した。


 やはり、人が多いと杖をついて歩くのは大変だ。隣に、陽葵さんが居てくれるから歩けていると思う。


 陽葵さんや皆が、居なければ人気のない場所で時間が過ぎるのを待つか、クラス展示の担当をずっとしていたかもしれない。


 屋台で、陽葵さんはチョコバナナのクレープを僕は、イチゴのクレープを注文して受け取り空いていたベンチに腰かけて食べる。


「美味しいぃ~~」


 陽葵さんは、頬を緩めて目は蕩けている非常にだらしない表情になっている。美味しいと言う感情を全身を使って表しているように見える。


「陽葵さん、だらしなさ過ぎですよ」

「いいもん。周り、少ないし、詩季くんと2人だもん」


 何かイベントでもあるのだろうか、模擬店周辺の人気が、急に少なくなっている。


 やっぱり、陽葵さんは羽衣に似ている部分が多い。


 羽衣と陽葵さんは、自分が気を許した人の前だと普段とは、違う一面を見せる。羽衣も日本に居た頃は、家族の前ではふざけて、外では真面目に振る舞っていた。


「ねぇ、詩季くんの食べて良い?」


 そう言いながら、僕の返事を聞くまでもなく、僕のクレープを一口食べた。


 躊躇なく食べた辺り間接キスとかは、気にして――


「んふふ~~詩季くんと間接キスだぁ~~」


 前言撤回だ。


 前のめりに、僕との間接キスを堪能していやがった。


 普通ならここで、ドン引きしてから優しく注意する所だ。しかし、今日に限っては違ってしまった。


「極楽浄土じゃぁ~~詩季くんも私のを食べて間接――いだぁ!」


 僕は、一口クレープを貰いつつ陽葵さんに、手刀をお見舞いした。しかも、普段、羽衣に喰らわすような少々強めの威力でしてしまった。


「詩季くん、痛いよぉ~~どうしたの?怒っちゃった?」


 言い方が、子どもをあやすような言い方なのは、気になるが、陽葵さんに手加減を忘れてしまった事は、申し訳ないと思う。


 と言うのも、昨日の羽衣の暴走を止めていた名残かもしれない。いや、絶対にそうだ。


 昨日の羽衣の暴走に比べると、陽葵さんの暴走は、優しい方だ。本当に、過剰ツッコミをしてしまったと思う。


「ごめんなさい、陽葵さん。遂、羽衣にやるようにしてしまいました……」

「やったぁ~~詩季くんに、ぶたれたぁ~~羽衣ちゃんと同格だぁ~~」


 前言撤回します。


 陽葵さんに関しては、何度目か解らない前言撤回します。


「……陽葵さん。やはり、マゾ――」

「違うよ!?私、ノーマルだよ!!」

「今までの言論で、そう見えますか?」

「見えないのは確かだけど、ノーマルだからね!」


 すると、陽葵さんのスマホにメッセージが届いたみたいだ。内容を確認した陽葵さんが、スマホの画面を僕に見せて来た。


『 (陽翔) 母さんと陽菜来た。どこにいる?陽菜が、詩季に会わせろと仰せ』

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