42.砕けた

――― 前書き ―――


今日は、朝8時に41話を投稿していますので、まだ読んでいない方は、そちらから読むことをオススメします!


――― 本編 ―――



「詩季くん、終わった?」

「はい。すみません、待ってもらって」

「ううん。大丈夫だよ」


 放課後に、僕は、返却された解答用紙の採点チェックをしていた。


 同じく、放課後にチェックをすると言っていた、瑛太くんと春乃ちゃんは、既に、それぞれの用事のため、教室を後にしている。


 今、教室には、僕と陽葵さんの2人だけだ。陽翔くんも、先に、帰って行った。


 最近、陽翔くんと一緒に居る時間が減っている気がする。


 まぁ、今日に、関しては、僕の私的な事で、残ってもらう事になったので、先に帰ると言われたら止められない。

 それに、陽葵さんが残ってくれたで、良かったと思う。


「どう、採点ミスあった?」

「ありませんでしたね。まぁ、殆どが、○ですけどね」

「うわぁ〜〜、シレッと自慢してるよぉ〜〜」


 陽葵さんは、そう言いながら、脇腹を突ついてきた。


 残念ながら、脇腹は、弱点では無いので、陽葵さんの目論見は失敗に終わるだろう。


「むぅ〜〜脇腹、苦手じゃないかぁ〜〜陽菜は、弱点なんだけどなぁ〜〜」

「残念でしたね。思惑が外れて」


 僕は、リュックを背負いながら、陽葵さんに答える。


 リュックを背負い終えて、陽葵さんの顔を見ると、何処か嬉しそうな雰囲気をしている。


 教室を施錠して、エレベーターに乗ると、2階で、守谷先生が乗ってきたので、丁度良いタイミングだったので、教室の鍵を預けた。


 守谷先生は、渋い顔をしながらも受け取ってくれた。


 下駄箱で、外靴に履き替えて、学校を後にする。


「何だか、嬉しそうですね」


 ずっと、ご機嫌だと理由を聞きたくなる物だろう。

 理由を聞いた途端に、怒りだしたら、その人の精神面を心配してしまう。


「だって、詩季くん。私と居る時、大分、砕けてくれてるもん♪」


 僕自身は、自覚が無かった。


 陽葵さんにとって、態度が砕けた = 自分との時間を楽しでくれていると実感する事なのだろう。

 

 まぁ、実際に、楽しいのは事実だ。


 鼻歌を歌いながら、「口調は、まだだけどねぇ〜」と言っていた。


 それに関しては、いつか、砕けたらいいと思う。だけど、今は、この口調は、自分を守る一種の盾のような存在なので、捨てられない。


(ただ、今、1番信頼と信用しているのは、陽葵さんですよ)


 口に出すと、陽葵さんが調子に乗ることは、確実なので心の中で、感謝の気持ちを伝えておく。


「あっ、ごめん。1つ訂正」

「どうしましたか?」

「私の前だけじゃなくって、皆の前で、砕けてる。そして、私が、1番砕けてる!」


 自分が1番というのは、変わらないみたいだ。


 すると、陽葵さんは、僕の前に出て来た。


「ねぇ、詩季くん。私に、何かして欲しい事ある?」

「どうしてですか?」

「だって、テストで、私、負けたし」


 そう言えば、陽葵さんが、中間テストで主席になれたら、何か1つ言う事を聞くと言う約束をしていた気がした。


「もしかして、僕が勝っても有効なんですか?」

「有効だよ!私だけが、得する勝負事なんてしないよ」


 これは、陽葵さんが。僕に勝った時が有効で、逆は、無効だと思っていた。だけど、陽葵さん的には、逆も有効だったようだ。


「詩季くんのお願いなら、出来る範囲で何でもしてあげるよ?あっ、スカートの中見る?」

「陽翔くんに電話しますよ」


 この人は、何故、そう言う発想になるのか。と言うか、陽葵さんのスカートの中には、夢が無いのは知っている。


「むぅ~~直ぐに、陽翔を出すぅ~~」

「直ぐに、スカート捲ろうとしないで下さい。どうせ、体操ズボンでしょ?」

「もしかしたらぁ~~パン――」

「もしもし、陽翔くんですか?」

「あわわぁ、そうです。体操ズボンです。揶揄ってごめんなさいぃ~~」


 校外と言えど、暴走モードに入った、陽葵さんなら校外でもやりかねない。


「ねぇ、何かして欲しい事ある?」


 陽葵さんにして欲しい事か。


 何時も、至れり尽くせりのサポートをしてくれているので、これ以上は勿体ない気がする。でも、陽葵さんは、何かしてあげたいという表情をしている。


「では、頭を撫でて下さい」


 毎日、髪を結って貰うときの気持ちよさが、病み付きなのだ。だったら、その時以外でも味わいたいと思ったのだ。


「えぇ~~それは、毎日、やってるでしょ?」

「思いついたのが、これなんですよ」


 陽葵さんは、少し考えこんだが、何か思いついた表情になった。


「ねぇ、詩季くん。今から、お家にお邪魔して良い?」

「いいですけど……一応、今日、祖父母は、町内会の用事で留守にしていますよ?」

「そうなんだ。尚のこと、都合が良いよ!あっ、ご飯も――」

「ご飯は、作ってくれていますよ?」


 静ばぁと健じぃは、普段からお世話になっているので、町内会のイベントとかには、我慢せずに参加して欲しいとお願いした。


 僕のために、2人が自分たちの人生を犠牲にして欲しくなかったのだ。


 それにしても、陽葵さん。僕に対する警戒心が無さ過ぎないか?


 祖父母が、不在にしていて、性欲のある思春期男子と2人で家に上がるという事に、抵抗は無いのだろうか。


 既に、陽葵さんが、家に来ることが決定している。


 どうしようか、陽翔くんに来てもらうように、要請するか。


「陽翔には、詩季くんの家に遊びに行くって言っといた」


 既に、西原一家には、根回しを終わらせていた。腹をくくって、2人での時間を楽しむとするか。

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