26.休憩
「これで、良しとしましょうか」
今日は、土曜日。
西原さんのお家に、お邪魔して陽菜ちゃんと遊ぶ日だ。
事故から助けた時が、幼稚園の年長さんだったから、今は小学1年生になっているはずだ。
昨日分の復習は、昨日のうちに終わらせて、来週以降の予習を行っていた。
「時間もいい頃合いですねぇ。着替えましょうか」
10時に、陽葵さんが迎えに来てくれるそうだ。
最初は、車を用意してくれる予定だったが、距離的にも歩いて行ける距離だったので歩きにする事にした。
今から、しっかり歩いて歩行距離を伸ばさないと2年次にある修学旅行が大変な事になるのが予想される。
衣装タンスから今日着る服を選ぶ。陽菜ちゃんと遊ぶのだから動きやすい服装の方がいいだろう。
ピンポーン♪
インターフォンが鳴った。
時間を確認すると、9時45分を過ぎた頃だった。
陽葵さんがもう来たのだろうと予想して1階の自室から出てリビングに向かうと、静ばぁが、陽葵さんをリビングに案内している途中だった。
「あ、詩季くん。おはよぉ〜〜!」
「――――!!」
陽葵さんに、見とれてしまった。
ベージュのスウェットに、白色のスカート。シンプルな格好だが、陽葵さんの可愛さを引き立てている服装に目を奪われた。
「どうしたの、詩季くん?」
何も言葉を発さないでいると、陽葵さんが不思議に思ったようだ。
「いや、あの……」
「ねぇねぇ、どうしたのぉ〜〜?」
大変だ、陽葵さんに見惚れていたら、陽葵さんの僕をイジるスイッチが入ってしまったようだ。
何とかして、話しを逸らさないと、陽葵さんを調子付かせてしまい、僕のHPが大きく削られてしまう。
「陽葵さん、今日の服、陽葵さんの可愛さを引き立てていてお似合いです」
「うぇ?!」
してやったりだ。
陽葵さんは、僕をイジるモードだったが、僕が素直に褒めた事が、カウンターパンチのように入ったようだ。
陽葵さんは、頬を真っ赤にしていた。これは、これで可愛いかもしれない。
これで、僕のHPが削られる事は、阻止出来た。
「どうしたんですか、陽葵さん?」
「だって、詩季くんが、素直に褒めてくると思ってなくって」
「僕だって、素直に褒める時は褒めますよ」
陽葵さんは、頬を赤らめたまま慌てふためいている。
攻めるのは平気でも急に責められのは、ダメなのだろう。
「あらら、詩季ったらぁ〜〜」
「うむうむ。女たらしの才能あるかもな」
僕と陽葵さんのやり取りを遠目で見ている祖父母から、生暖かい視線と感想が聞こえてきた。
静ばぁはともかく、健じぃよ。
僕は、女たらしになるつもりはないですよ。それに、なったつもりもないですよ。陽葵さんが可愛いと思ったら可愛いと言ったまでなのですが。
と、心の中で思っておく。
「そ、その――ありがとう。詩季くんも、今日の服、かっこいいよ」
「ありがとうございます」
何で、こんなに見惚れたのか考えてみたが、ゆっくりとお互いの私服を見るのが、初めてだからだろう。
「とりあえず、リビングで休みましょう」
「う、うん」
お互い、慣れない感情を落ち着かせるために、リビングで、休むことにした。
「じゃ、行ってきますね」
「行ってらっしゃい。車とかに気をつけるんよ。何かあったら直ぐに連絡――」
「静ばぁ、心配し過ぎですよ。僕なら大丈夫です」
退院してから、学校行事を除くと、初めての外出だ。
祖父母は、かなり心配そうな様子を浮かべていた。
祖父母に、手を振りながら陽葵さんと西原さんの家に向かうべく歩みを進める。
「ねぇ、詩季くん。もし疲れたら途中に、公園あるからそこで休もうね」
「あはは、陽葵さん。ご心配ありがとうございます。大丈夫と言いたい所ですが、確信が持てないので、とりあえず公園で休む方向でお願いします」
「了解!」
校外学習の時も、所々に休憩を挟んで貰っていたので、恐らく、今回も公園で休憩を取ることになるだろう。
校外学習の時にも思ったが、少々、スタミナを付けるべきだと思う。
「詩季くん、そろそろ公園だけど休む?」
「――少し疲れましたが、大丈夫です。そのまま、行きましょう」
公園に差し掛かったが、僕は、休憩を取らずに行く事を選択した。校外学習の時なら休んでいただろうが、今日は、休まずに行きたかった。
「大丈夫?」
「陽菜ちゃんに会えると思うと、身体が元気になりますよ」
「うふふ、陽菜たら、絶対に喜ぶよ!」
普段のハイテンションな陽葵さんもいいが、妹の事を考えている姉の顔をしている陽葵さんも良い顔をしている。
「あ、今日は、陽翔は、出かけてるからゆっくり出来るよ」
「え、陽翔くん居ないんですか?」
陽翔くんが、居ないと知った事で、少々の不安を覚えてしまう。陽葵さんの暴走のストッパー役がいなくなるのだ。
まぁ、西原母は居るだろうから、大丈夫だと思いたい。
「うん、小学校時代からの付き合いがあるお友達と遊ぶんだって」
「なるほど、だから、陽翔くんは、何も言って来なかったんですね。――ん、もしかして、陽翔くん……僕が来ること知っていますか?」
陽葵さんにお家に誘われてから昨日まで、学校で陽翔くんとも会っていたが、今日の事は何も言って来なかった。てっきり、陽葵さんが仕切っている物だと思っていたのだが……
陽葵さんの方を見ると――
「フ~~♪フ~~♪フ~~♪」
吹けていない口笛を吹いていた。
これは、色々なお約束の展開だ。何かを隠しているに違いない。
「知らないんですか?」
「いやぁ~~陽翔が、居たら詩季くんは、陽翔とばっかり居るもん!今日ぐらい、詩季くん独占したいじゃんか!」
さっきまでの妹想いな、陽葵さんは何処へやら。いつも通りな、陽葵さんになっていた。
と言うか、同性の友人と一緒に行動を共にする確立の方が高いと思うのだが、何故に、自身の兄に嫉妬しているのだ?
「多分、今日は陽菜ちゃんに独占されますよ?」
「んぐっ、陽菜が壁になるとは――あぁ~~でも、陽菜が楽しんでる姿も見たいしぃ~~陽菜は追い出せない――あっ、詩季くん、今度、2人で遊びに行きましょう!」
僕と2人になるために、強行突破を取ろうとしてきたか。
確かに、陽葵さんと2人なら楽しく遊べると思う。だけど、陽葵さんと2人で遊ぶにしても障害になるのは――
僕は、右足を見てから陽葵さんの顔を見る。陽葵さんも僕の視線を追っていたようだ。
「右脚?気にしないよ」
「僕が気にしてしまうんですよ。陽葵さんと2人で遊ぶにしても体力つけて沢山遊べたらいいなぁと思います。だから、僕の体力が付くまで待ってもらえますか?」
「うん、待ってる!」
とびっきりの笑顔で陽葵さんは、受け入れてくれた。陽葵さんの笑顔は、本当に見ていて癒されると思う。
「詩季くん、ここ私の家!」
陽葵さんと話していると時間の経過は、あっという間だった。
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