魔鉱戦機 -パトリオット ペンタグラム-
狐狗狸
第1話 この世界は
揺れる木々。湖面に揺蕩う木の葉。
無機質なビル群。忙しなく動き続ける人々。
それを予期出来たのは動物達と地震測定を生業としている人間だった。
小さな地震を含めれば、世界には何千何万という振動が起こっている。
だが、時間にして二時間。
地球が身を守るかのように、世界から振動が無くなった。
「なにが、何が起きている?」
スーツを着た大人が慌てふためき、声を上げる。
「分かりません!ですが、日本だけではなく世界ともなると……」
「……世界規模の災害の前触れか」
彼らは知らない。
すぐそれが傍まで来ていることを知らずに。
ある母娘がショッピングモールを出る。
「こら結衣!ちゃんと手を繋がないとダメでしょ!」
「もうお姉さんだからいいんだもん!」
小走りで前に出た少女に向かって、母親が静止する。
その言葉に振り返った少女はすまし顔でそう言った。
「ハハハ、お姉さんはクマのぬいぐるみなんて抱っこしないんじゃないかあ?」
「お父さんうるさい!」
「結衣!だめでしょ!そんな言い方!」
ふくれっ面の少女に向かって、母親が再度窘める。
しょんぼりとした父親の背はすごく小さく見えた。
子供が親の言うことを聞かずに、40cm程のクマのぬいぐるみを抱きながら逃げる。そんな在り来りのような微笑ましい光景に、周りの人間は頬を緩ませた。
その直後、空に球状のエネルギー体が現れた。
微弱な振動を続けるエネルギー体は周囲の視線を集めると同時にパンッと弾けとんだ。
青空に花火のように弾けたそれは、空に染みを作り出した。太陽を遮り、アスファルトが影に染められた瞬間。影からナニカが這い出る。
「は? 何これ、なんかの撮影?」
影から這い出たモノにスマホを向けながら若者が近づく。顔に若干の怯えを残しながらもおどけながら、一歩また一歩と足を踏み出し、そして若者の視界がズレる。
「え?」
滑るように落ちていくそれは斜めに断たれた若者の顔の一部だった。
一瞬の静寂。
そして我に返った者から蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
ただ、一人の例外もなく。全ての人間が死んだ。
■
倒壊するマンション。阿鼻叫喚の様子。
地面に落ちた血濡れのテディベア。
目の前に映し出された映像は、正にこの世の地獄だった。
映像が途切れ、暗転した講義室の部屋に明るさが戻る。三百人を超える若者の視点が教壇に立つ軍服を纏った女性に向いた。
「この映像は日本が誇る佩刀機関の現人神。神眼の権能を持つミコト様より念写されたものだ。我々、佩刀機関の、否。諸君ら
しん、とした空気の中で女は話を続ける。
「我々佩刀機関は怨敵と戦わなければならない。
勝ち続けなければならない。
負ければ国民が死ぬ。
愛しき隣人が死ぬ。
友が死ぬ。
家族が死ぬ。
あったであろう明日が手から零れ落ちる。だが、我々はあまりにも少ない。その両手に届く限りの命を守っても、尚足りない。故に、諸君らの力を貸して欲しい。君達は検査で適合者であることが判明し、突然ここに連れてこられた。死ぬかもしれない戦場の手前だ。困惑や恐怖があるのは当然のことだろう。だが、どうか我々と共に戦って欲しい」
誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。俺の口の中も乾き切っている。目の前に用意されていた飲み物を手に取ることも出来ない。懇願にも取れるその言葉は確かに胸に染み込んだ。
「この国を共に護ってほしい」
佩刀機関 少尉 竜胆シグレと名乗った軍人は最後に礼をして、教壇を後にした。
先程の竜胆少将の言葉に、周りに誰も彼も熱に浮かされている。俺も実際浮かされかけていた。
目の前のペットボトルを手に取り、深々とため息を着く。
どうしてこうなった。
大きなため息のせいで、周りにいる百人程の訓練生である女生徒達の好奇の目が自分に突き刺さるのを感じる。
男は俺一人。
「本当に、どうして、こうなったんだ……」
次の案内の人間が来るまで、俺を見ながら遠巻きに話す女生徒達は止まることはなかった。
男は俺一人。
「本当に、どうして、こうなったんだ……」
次の案内の人間が来るまで、俺を見ながら遠巻きに話す女生徒達は止まることはなかった。
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