スキルアップでステップアップ
少年
第1話 ダンジョンで冒険者
この世界において、当たり前となったモンスターの巣窟。
空高く聳え立つ塔を、人々はその場所を総じてダンジョンと呼ぶ。
ダンジョンは日本、韓国、ロシア、アメリカ...と世界各国が所有し、今も尚ダンジョンを攻略しようと世界中の冒険者が切羽琢磨し、最上階を目指している。
だが、中には生活費を稼ぐために冒険者を渋々続ける者や小遣い稼ぎでダンジョンに潜る冒険者が大半だ。
その中の一人でもある
「っぐ...」
モンスターから受ける攻撃は迅の体力を損なわせ、動きを鈍化させる。
「兄ちゃん、コボルト如きに膝をつかされてどうするよ!?もっと良いように動いてくれ!」
「すみません...」
モンスターであるコボルトは横から参戦した中年冒険者によって絶命させられ、その場にはコボルトの死体が残った。
「ったく。なんだってこんなへぼっちいのとパーティを組まなきゃならねーんだ」
「仕方ないっすよ、飯塚さん。所詮、人数合わせで集まってもらいましたから」
「俺一人でもボスの一体や二体、余裕で倒せるっていうのによ」
「まあ。クエストの制約上、仕方ないっすよ」
飯塚と呼ばれた冒険者は愛剣を剣帯にかけ、愚痴をこぼす。
それに付き合うように、佐伯という冒険者が口を出す。
迅たちがいるダンジョンの階層は六層で、十層ごとにボスが存在し、クエストと呼ばれる冒険者に与えられる依頼書が冒険者ギルドを通して受け取れるシステム。
クエストをクリアすれば、報酬が支給される。
今回はボス討伐というクエストの元、パーティーが編成されている。
計八名が今回加わり、ボスを討伐するために集まった。
しかし、集まったメンバーの実力はバラバラで、所詮集まったのは低ランク冒険者たち。
冒険者には強さを示すランク制度が定められ、ランクによって受けられるクエストも報酬の量も違ってくる。
完全実力主義であるが為に、ランクが上がらず嘆く同業者も多々いる。
そして、自分の実力に限界を感じているのは迅もその一人だった。
「次へましたら、報酬減額な」
「気を付けます...」
これは自分の実力が足りない迅の力不足であり、責任だ。
次があろうとも、また同じことを繰り返すだろう。
それほどまでにモンスターとの実力差を感じている迅だった。
そろそろ潮時かと、既に引退を視野に入れていた。
元々稼げていたわけではない。
生活費を稼ぐだけで手一杯の日常で、精神的にも体力的にもそろそろ限界を感じていた。
なぜ冒険者を続けていたのかといえば、もしかしたらがあるかもしれないと、心のどこかで思い続けていたからだろう。
だが、所詮それは夢を見ているだけで現実は妄想で思い描くほど簡単なものではなかった。
「もし、俺にもっと強力なスキルがいくつもあったら......」
スキル。
ダンジョンに選ばれた人間は、スキルという力を覚醒させる。
個々のスキルは様々で、剣を上手に扱うことができる剣術スキルや魔法を操る魔法スキルが発現する。
そして何より、人によってはスキルを二つ、三つと覚醒させることができるのだが、シングルスキル保持者とダブルスキル保持者の違いは、身体能力の差がまず違う。
スキルを覚醒させた人間はそのスキルに応じて、身体能力が強化される。
そして、二つスキルを持つダブルスキル保持者は二つのスキルを耐えうる器、つまり体が必要になる。
故に覚醒と同時に耐えうる体が構成され、身体能力がシングルスキル保持者より上がる。
それがこの冒険者における強さの基準。
シングルスキル保持者はダブルスキル保持者を超えることはできない。
それは、過去も未来も変わらない定義だ。
本人の才能で決まるこの業界は、どこの職場よりも弱肉強食の風潮が強い。
シングルスキル保持者は低ランク冒険者としてのさばることしか許されないのだ。
「やめよう。自分の才能を恨んだって何も変わらないんだ。今日一日、生き残るために頑張って乗り切ろう」
今は死なないことが大事だ、と口に出したことを心に蓋をし、パーティの後を追った。
◇
傷を何度も負いながらもようやくたどり着くボスの階層、十層。
その場所は今までの階層とは雰囲気が一転変わった存在感を漂わせる扉が聳え立つ。
「よっしゃ、ちゃちゃっとボス倒して報酬をいただくとしよう」
「どれくらいで倒せますかねー」
「俺がいれば一瞬だっての」
そうして飯塚がボス部屋の扉を開けると、部屋の中の空気が体を撫でる。
部屋の中へ進み、中央まで進むと、ガシャンと扉が閉まる音とともに部屋の明かりが灯される。
徐々に明かりが灯す先には、この部屋のボスであるモンスターが姿を現した。
なのだが、今まで何回と十層のボスを攻略してきた飯塚の顔が曇る。
冷や汗をかいたその顔は、先ほどの余裕の表情とは打って変わって、誰の目からも明らかだった。
「ど、どうしたんすか飯塚さん。早くこんな奴倒して、ちゃちゃっと終わらせましょうよ」
「......知らない」
「え?」
ボソッと呟く言葉は誰の耳にも届かず、飯塚は更に続けていい放つ。
「俺は知らないぞ!あんなボスは!?」
「ど、どういうことっすか?」
「今まで戦ってきた十層のボスはみんな、ホブゴブリンだった。でも、あんなでけぇゴブリンは今まで戦ったことも見たこともない!」
その状況をこの場にいるみんなは察し始める。
何かがおかしい、と。
「そんなことありえないっすよ!今までダンジョンボスが変わるなんて一度もないんすから!」
「じゃあ、今目の前にいる奴をどう説明するんだよ!?」
パーティーの心理状態が困惑と不安に襲われる中、ボス部屋の主であるモンスターはしびれを切らし、巨体を動かし始める。
「クソ!今日はなんだってんだ、ついてねぇな!俺には生きて帰らなきゃならねー家族がいる!ここで死ぬつもりはないぞ、ボス野郎!」
飯塚が啖呵を切り、まず初めに迫りくるボスを足止めしようと足元を狙う。
「くらえ、『斬撃』!」
飯塚のスキル、『斬撃』。
剣を媒体として発動するスキルで、その威力は丸太一本を余裕で斬れるほどに鋭い。
だが、そんな攻撃ですらボスの足に浅傷を負わせるので精一杯だ。
「こんなんじゃ先に俺の方が倒れちまう...!」
「俺も戦います!」
「お前は...」
「足手まといでも、できるだけのことはやります!」
震える手足を隠しながらボスへ剣先を向ける迅の眼差しは、ボスを倒すという意志を感じさせた。
飯塚はそんな迅の覚悟を感じ取るや否や、迅とは裏腹に恐怖で立ち止まるパーティメンバーに向けて言い放つ。
「好きにしろってんだ。......お前らも突っ立ってねぇーで戦いやがれ!」
立ち止まっていたパーティメンバーを奮い立たせ、ようやく動き始めたと思ったが、この場にいるのは低ランク冒険者のみ。
そんな彼らに命より大切なものはない。
故に彼らの足は再び止まってしまう。
「クソが!」
「飯塚さん、俺もやるっすよ!」
「当たり前だ!早くバフをくれ!」
佐伯がスキルを発動する。
「いくっすよ、『アーマー付与』!」
スキル『アーマー付与』は本人や仲間にアーマーを付与し、防御力を上げる支援系スキル。
佐伯のスキルにより防御力が上がった飯塚は、ボスの攻撃を食らっても傷を見せない。
だが、ボスの攻撃は蓄積されるごとに徐々に飯塚を苦しめた。
「ダメだ...。俺の攻撃じゃビクともしない!」
反対に、迅はすかさずボスへと攻撃を加えるが、ボスの足枷にもならない。
「兄ちゃん!ボスの気を紛らわせろ!そのうちに俺が心臓付近を狙う!」
「気を紛らわせるったって・・・!」
攻撃が効いてない相手をどうやって気を紛らわせればいいのか。
迅は今もてるすべての力を出し切るしかないと決意し、唯一のスキルを迅は発動させるた。
『エンチャント』。
迅の唯一のスキルである『エンチャント』は、自身の武器や物を強化して性能を引き上げるスキル。
このスキルの欠点として、自分の所有物ではないとスキルが適用されないというデメリットも存在し、支援系スキルとしても欠点でしかない。
迅のスキルに関わらず、スキルを使用するに当たって【魔力】という力を消費する。
その魔力の総量は当人たちの素質で決まり、迅の魔力総量はスキル発動一回分しか持ち合わせていない。
スキルを使うだけで魔力がなくなり、またスキルを使うまで魔力を回復させなければならない。
多用はできないスキルを今、ここぞとばかりに使う。
「ッグ!」
体内の魔力がなくなれば、酷い酔いが回り立つのもやっとだ。
それを耐えしのぎ、スキルを発動させた。
強化箇所は剣。
魔力を帯びた剣は、ボスの左脚へと剣先が向かれた。
飯塚の『斬撃』よりも鋭い攻撃が加えられ、深々と傷をつけ足をつかせた。
今まで迅を気にもしていなかったボスはここでようやく迅にヘイトを向けた。
「やるじゃねーか、兄ちゃん!」
その隙を狙った飯塚の攻撃は、ボスの心臓へと攻撃を繰り出した。
しかし、心臓までは届かずに終わる。
「まだ、動ける!」
迅はボスの前方へと周り、心臓めがけて剣を投擲する。
力いっぱいに込められた剣は投げられ、ボスの防御を許すことなく心臓をえぐった。
ボスは悶えるようにその場に倒れ、血を流し死亡する。
その光景を唖然と見ているパーティメンバーと、疲労を限界に達した迅と飯塚たちがその場の勝利を収め、ボス攻略は終わりを迎えることになった。
最後にとどめを刺した迅は覚束ない足取りで歩くや否や、迅もまたその場で倒れた。
その後日、飯塚が迅にこう話したという。
酷い顔でありながらも、満足気に気絶していたと。
こうして初めてのボス攻略は幕を閉じ、冒険者としての活動も終息を迎えようとしていた。
迅はまだ知らない。
この日をきっかけに己の可能性が見え始めたことを......。
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