HAPPY

705

第1話


「お前のこと好きになっちゃったんだけど」

 いつものように二人、屋上で弁当を食べている時に、ぼそりと土屋がそう言った。

「えっ?」

 驚いて顔を上げれば、女子たちに「ちょっと怖いけどカッコいい」なんて言われてる、土屋の鋭い両目と視線がぶつかる。

「セキニン取ってつきあってよ」

 冗談めかして言ったつもりなんだろうけれど、声はうわずって震えているし笑顔も引きつっている。不器用な告白に、天野は心臓がギュッとなるのを感じた。

 吹雪の入試当日、道端で転んで足を挫いた土屋に天野が肩を貸し、校舎まで連れてきたことが二人のはじまりだった。

 入学式で再会し、あの時はありがとうと何度も頭を下げる土屋に天野は感心したものだった。

 告白を受けて妙にドキドキしている自分がいるのを、天野は不思議と心地よく感じていた。

「お前の気持ちはわかった」

「え! マジか、じゃあ…」

 天野は弁当箱を片付けて、土屋の肩を引き寄せた。鼻先が触れ合いそうなくらい顔を近づけて、天野は言った。

「でも、俺、お前に秘密にしてたことがあるんだ」

「…秘密?」

「今見せる」

 天野は立ち上がって、両腕を広げた。ばさり、と音がして、天野の背中に大きな白い翼が現れた。


「えええええええ⁉︎」


 悲鳴のような声を上げる土屋へにっこりと笑いかけて、天野はズボンのポケットから取り出した輪っかを頭の上に載せた。天野の全身が逆光もあってきらきら光って見え、土屋は息が苦しくなった。


「俺、天使なんだ」

 天野はさらりと言った。

「人間に紛れて、この地区の人間たちを観察し、上に報告するのが仕事でね。でも、人間とそーいう関係になってもいいのかどうかわからないから、上に聞いてくる。待ってて」

「ちょ」

 土屋は呼び止めようと手を伸ばしたが、ばさりと羽ばたいた次の瞬間、もう天野の姿は消えていた。

 足元に数枚、白い羽根が散らばっている。それを手に取って、土屋は力なく空を見上げた。



 三日経っても、天野は帰って来なかった。

 土屋は自室のベッドの中で、天野の言葉、天野の本当の姿を頭の中で何度も何度も反芻してみたが、現実感がない。

「全部俺の夢だったんかな…」

 そう呟いた時だった。

 部屋の窓をコンコンと叩く音がして、「土屋ぁ」と聞き覚えのある声が聞こえた。土屋は飛び起きた。天野の声だ。

「天野⁉︎」

 カーテンを開けると、庭の柿の木の上に天野がいた。

「土屋、ただいまー」

「天野! お前そんなとこで何して」

「手、貸して」

 天野は土屋の方へ手を伸ばした。土屋はその手を取り、思い切り引っ張る。

 どうにか窓から部屋の中へ引っ張り込むと、天野は土屋の首に両腕を回して抱きついた。

「言い忘れてた。俺もお前のこと好きだよ」

「え、え」

 状況がよく飲み込めないでいる土屋。天野はくすりと笑って、両腕をほどいた。土屋の涙で潤んだ目を見つめて言う。

「天使、クビになっちゃった。セキニン取ってつきあってよ」




 終わり

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HAPPY 705 @58nn

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