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 1分前に言ったことを訂正させて頂きたい。武器を持った集団に対して、時間を稼ぐなんて不可能です。


 手前に立っていた2人が急に息を合わせて走ってきたので、下を滑り込む形で避けたまでは良かった。問題は後に控えながら迷惑客をガッチリと守っていた2人だ。


 滑り込んで寝転がった体勢になった所へ目掛けて、1人の主婦は持っていたフライパンを振り下ろす。それをなんとか地に着いた手と足を使い横に避けるが、そこをお爺さんに箒で何回も叩かれる。


「痛!箒でも力一杯、何回も叩かれば痛い!ていうか最初の奴は包丁とバットだったのに、武器の差ありすぎ」


 足を蹴り上げ、爺さんが持っていた箒を狙って落とす。相手は一般人なので、出来る限り傷つけないかつ武器を簡単に落とせる。


 馬鹿が即興で考えた割には良い作戦ではあっただろう。これが一対一のタイマンだったらの話だが。


 鈍い音と共に、頭へ強い衝撃が加わる。一瞬、気を失いそうになるが、全身に走る痛みがそれを許さない。とはいえ、頭に与えられた衝撃は相当な物で、完全に地べたへ這いつくばった形となった。


 この頭に響く鈍痛では、暫くは起き上がることは出来ない。幾ら体が永遠に治ると言っても、意識が飛びそうになっているこの状況は変えられない。


「その様子だと、フライパンで頭を殴られて立ち上がらないんだろう。どうだ諦めて降伏したらどうだ?今ならまだ土下座をして許しを乞えば、これ以上傷つけずにあの方へ引き渡してやるぞ」


「誰がするか。俺はお前にもお前のボスにも謝るつもりも会うつもりもない」


「そうかそうか。だが、後ろの嬢ちゃんを見てもまだ同じ事が言っていられるかな?」


 男が指を指す方向には、幾つもの切り傷を負って出血しているアハトの姿があった。その周りには血のついた武器を構えた年配者が3人、アハトを取り囲む形で立っていた。


 いつも罵倒してきている付き合いの浅い相手とは言え、流石に少女が徐に傷ついている姿を見て、驚きの声を上げずにいられる程、心は死んでいない。


「お、おい!大丈夫か?」


 アハトは答えない。失血で気を失っている可能性も考えたが、呻き声を上げて体を少し動かしているので傷を負いすぎて声を挙げられないのだろう。


 言葉の通りここで彼女に対して抱いたのは心配、そして自分達をここまで傷つけた迷惑客への怒り。


 しかし、それ以上に生まれたのは彼女へのだ。彼女が流している綺麗な血を飲みたい。今すぐにアハトの元へと駆け寄りたい。


 吸血鬼特有の衝動が心配や怒りを塗り潰していく。いつのまにか息遣いも激しくなっており、血の事以外が考えられなくなってくる。


「駄目だ、一気に傷を負いすぎた。俺の中にある吸血鬼部分が暴走してしまう。早くそのオンナを治しテやってクレ」


「何を厨二病みたいなことを言っているんだ?自分に力がなさすぎて現実逃避でも始めたか。そうやって壊れていくのを見ているのも復讐になるなぁ!」


 男は注意を逸らす為にわざとやっていると思っているのか、高笑いをするだけでそこから一歩も動こうとしない。何をしようと逆転はないという確信からだろう。


 それを尻目に体は勝手にアハトの元へと這いながらも動き出す。もう体の制御は効かない。こうなったからには自分の吸血鬼部分に全てを託し、後は被害が最小限に収まる事を祈るしかない。


 這いつくばりながらなんとかアハトの元まで辿り着き、自身の衝動に従い血を舐める。すると、一気に自分の中の何かが塗り替えられていくのがわかる。


「すマない、アハト。おマエを巻き込ンダ事、モウシワケナク思ってル」


 言い切ったが最後、その場で体の制御権を失った。


『根源への接続を確認』

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