居酒屋探偵・サムライ 

居石入魚

第1話 くたばれ!モリアーティ教授

 名探偵が犯罪者と知的なゲームを楽しむという事に関して全国のお巡りさんはきっといい感情を持ち合わせていない筈だ。そもそも警察が相手にする犯罪というのは基本的に短絡的であり衝動的な犯行である場合が殆どであるし、元々普通の人間が犯罪者というモンスターに変化をするという実態が現実の殺人事件における背景である。其処に頭脳明晰な名探偵が入り込む余地は無いし、そもそも探偵には捜査権がない。そしてまず間違いなく知能犯は個人を傷付けるというような実入りが皆無なわりにリスクばかりが高い犯罪行為を犯さない。基本的に犯罪を犯すのは感情値が閾値を振り切った一般人である。それが恋愛感情のもつれなのか劣等感に苛まれているのかは知らんが、結局はそんな個人的な事情、身勝手な理由で起こるのが現実の殺人である為に探偵の活躍の機会というか活躍の場がそもそも無い。犯人を特定して潔く私がやりましたなんて言う犯人もまた存在しないのも危険だ。往生際悪く暴れるなんて事は珍しいどころかそれが当たり前であるし、どれほど論理的に問い詰めたところで非論理的に取り乱して自己弁護に終始する。犯人は罪を否認する。無罪を主張する。何故ならば、彼等は元々が一般人であるから。何をするか解からず、何をされるのかも解からない。故に捜査現場が死屍累々とまではいわなくとも喧々囂々なのは違いあるまい。だから名探偵がしたり顔で語るトリックの解明や犯罪解決における哲学なんぞは全く意味を為さない。普通に考えて邪魔でさえある。

 悪党を捕まえる事なんか警察に任せろと思う。

 その為に、刑事である先輩は国民の皆さまから血税を頂いてご飯食ってるんだし。

「だからお前のような名探偵枠に存在する人間は普通の犯罪を相手にする機会がねえんだろ。金融経済界における巨額詐欺事件でも良いし、教育界における助成金の不正受給でも良い。この国じゃ知能犯は其処にしか居ねえ。いつも曇り空で霧が濃いあの国じゃホームズは何かにつけてモリアーティ教授と知恵比べをしていたが、日本というジメジメしてて暑くてベトベトした雨が降る国じゃモリアーティ教授は金が絡む現場にしか居ねえんだ。そりゃそうだよな。あんな暑苦しそうなコート姿で登場したら教授死ぬモン。名探偵と戦う前に高温多湿で死ぬモン」

「別に俺は名探偵でも何でもないです。ただ『末期の眼』を持つだけですし…」

 真実しか映さない、そんな眼が世の中には存在する。古くは芥川龍之介や川端康成、そして太宰治が宿した、自ら死を望む精神姿勢から産まれる眼の事だ。確かに真実や本質ばかりを映し出すので犯罪捜査に便利な眼であったが、社会には不要な眼でもあった。どんなに取り繕った人間でも本質や本音がすぐに視えてしまうのでメチャクチャ経済活動に不向きなのである。其処で私は警察機構の補助機関としてのみ動く探偵事務所を開いた。この眼が有効に働くのは法執行機関に身を寄せるしかないとお偉方が判断したからでもあった。ちなみに当事務所。探偵事務所でありながら、居酒屋でもあるので。最近じゃ警察官しか利用できない、激ウマの料理を出す小料理屋として有名になりつつあった。

 私は常連の先輩に良く冷えた小鉢を差し出した。まだまだ残暑厳しい初秋の夜。冷たい酒のアテがまだまだ現役で頑張れる気温だからである。

「此方、サムライ流・ガルシア風タコのタパスになります。これをそのままガーリックオイルと鷹の爪で煮込めばアヒージョにもなります。本日、先輩が呑んでいるのが白ワインという事でアテもアチラさんの国の物で揃えようかと」

「俺、お前から料理作って貰うようになってから確実に肥ったんだけど…?」

「良い事でしょ。世の中には食べても吐いてしまうサムライだっているんだから」

「お前の身体は既に戦闘に耐えれるものじゃねえからな。先輩としてはお前が世界各国の紛争地に居る事は心配事のタネだったわけだし安心してはいるんだが_。」

「俺、世界中をグルグル巡ってた元・軍人だからこそ思うんですよね。生きる為に必死なのは何処の国でも一緒なんですけど、より多くを得る為に犯罪行為を犯したり個人を貶める為だけに犯罪行為をするこの国のモラルって相当ヤバいですよ?特にいい年齢してるオッサンが才能ある若者を見つけると全力で叩き潰しにかかるでしょ?それ、この国だけですからね?」

「常に保身を考えてるだろうからな。その辺、公務員で良かったと思うわ。俺等は年功序列の文化が色濃く残るから職場の上司が父親みたいな感覚だし。それこそ大きな組織の中じゃ警察だけじゃねえのか?先輩が後輩を潰さないのって」

 正義の味方は少数派である為に絆が強いのだったか。それは決して内輪だけ仲良しグループのような脆弱な絆ではなく、まるで騎士の誓いみたいなものに近いと聞いた事がある。

 先輩視てるとこんな騎士が居て堪るかとも思ったが。

「若者が爪を隠すを覚えなくちゃならないのも可哀想なんだよなあ…」

「自分には無い何かを持ってる人間に脅えるってもんだろ年寄なんかは。容姿端麗なヤツに脅える事もあれば交渉術に秀でるヤツに脅える事もある。俺みたいな柔道畑出身の現場組の連中に脅えるのはキャリアとか準キャリのインテリ組だろうし。自分に無い物を持つだけで殺したいと思うモンだ。年寄は今ほど価値観が多様化してる時代に適応してねえんだから」

 価値観の多様化なんてのは結局のところそれを受け取る側の器の大きさに依るんだが。確かに勉強やって良い大学に入って仕事に就けば将来安泰というような時代を経験していれば、現代の若者に理解が及ばないのも当然かもしれない。だからといって才能の芽を摘む事を容赦し許容するわけではないが。まあ沢山勉強して良い大学入って、それで何にも出来ないエリートが多く産まれているのも社会問題になっているわけだし若者側にも問題はある。最近の大卒は英語すら話せないとも聞くし。

「なんとも難しい話ですね。正義の味方に成る為だけに身体を鍛えて、色んな知識を詰め込んで、様々な技術を養ってた俺の大学時代が懐かしいってもんです。その成果なのかどうか、俺は資格が十以上ありますし不況の世の中に強くはなりましたけど」

「俺等世代がギリギリゆとり世代の一歩手前だしな。俺は柔道の先生になれるし接骨院も開けるし一応はプログラミングも出来るからSEにもなれる。お前の場合は通訳になれるしナースになれるしボイラー技士にもなれるし寺の坊主にもなれるんだろ?」

「まあ、僧侶としての教師免許は失効しちゃってますが」

「不思議な時代だとは思わねえか?頑張れ頑張れと大人に言われて学生時代を真面目にひたすら頑張ってた世代の俺等がだぜ?今の時代の大人から煙たがられ、そして危険視されてるんだ。正義の味方の俺等がだぞ?」

「それ、正義の味方に憧れる子供が居なくなったという事でしょうか?」

「事実、アンパンマンよりバイキンマンの方が人気だ。ま、俺はハンバーガーキッド枠の人間である事を譲る気は無いがね」

「先輩は完全にカレーパンマンでしょう?」

「止めろって…。お巡りさんを落ち着きの無いカレーパンマンにすんなって…」

 しかしながら先輩はイケメン枠ではないのでハンバーガーキッドではない。まずクマより大きな身体をしたハンバーガーキッドなんぞ子供が泣くだろう。乗ってる馬が潰れるかもしれん。

 まず自分が悪人から何かを奪われるような経験をしなくては正義を志す事は無いというものだ。初めが悪に対する個人的な怒りであるとしても、その怒りはやがて正義に形作っていく。

 というか、大人が悪人で良いのかとも思うが。

 お子さんが産まれたとして、親が悪党のままなのはお子さんがきついと思うのだが。

「そんなカレーパンマンには此方を。牡蠣フライをカレー風味にしてみました。溶き卵に麺つゆとカレー粉を入れるだけでどんなフライも美味しいカレー味になります。牡蠣貝は栄養価が高いので出来るだけ子供に食べて貰いたいんですが独特の風味がありますから敬遠しちゃう子も多いんですよね。ですが、これなら子供でも食べ易いんですよ?」

「いや、カレーパンマン扱いすんなって話なんだけどさ…。まあ、お前のその料理の腕もまた年寄が危険視する才能の一つなのかもな。何かを持っている人間は常に狙われる。何かを持てと言われて育った俺等が理不尽な事にな?」

 私は黙ったまま先に低温で揚げていた手羽先の竜田揚げの二度揚げを開始。ジュージューという音だった手羽先からはカラカラカラと乾いた音を発するようになる。揚げ物は二度揚げすることだけが奥義。低温で中にジックリ火を通し柔らかくして。高温で外側をバッキバキに硬くする。

 それだけだ。

 肉も魚も野菜もそれだけで美味しくなる。

 料理は一手間が大事というが。

 私はそれを人手間と呼んでいる。

 美味しい料理を食べて貰いたいという想いが無ければ手間は掛けない。

 だから人としての想いを手間としてかける事に意味があり意義がある。

「此方は手羽先の竜田揚げになります。定番の甘い味噌もそうですが、当探偵事務所オリジナルの辛いソースでもご賞味ください。白ワインにも赤ワインにも合いますので」

「これは黒胡椒と七味唐辛子だよな?それにケチャップか?」

「ケチャップではなくタバスコです。ニンニクを漬けておいた醤油にそれ等香辛料を混ぜて最後に胡麻油を垂らしてタレにしてみました。タバスコには辛味に加えて酸味がありますので揚げ物をサッパリさせる効果があるんです。同じく当探偵事務所で提供するワインは全てがハーブで香り付けをしている薬酒ですので残暑厳しい夜にも効果があればと」

 アンダルシア地方で飲まれる白ワインにドライフルーツを漬け込んだものである。そのままドライフルーツは生薬として使える物が多い。ホワイトリカーに適当にドライフルーツを入れて冷暗所で一カ月ほど待てばそれだけで修道院が病人に振舞っていたポーションの出来上がりだ。

 先輩は手掴みでバリバリと手羽先を食べ、グビグビと薬酒を飲み干す。

 手が止まらないのは美味しい証。

 どうやら、手羽先のタバスコソースは上手に出来たらしい。

「カレーパンマンはバイキンマンと戦うけど、お前は意地悪な大学教授が敵なんだよなあ…。大丈夫か?大学には自治権って言う考え方が在る。お得意の警察も検察も入れねえ治外法権なんだぞ?」

「別にモリアーティ教授が大学教授ってワケじゃないでしょ。ジェームズ・モリアーティは悪党の親玉である本業を隠す為の隠れ蓑として大学教授として働いていただけなんですし」

 登場以降、様々な作品に影響を与えたとされる悪の総統像である。絶対に捕まらず、その正体も不明というような典型的な悪の親玉の元祖であり、それを典型にした始祖だ。

「作中でホームズはモリアーティ教授を知ってるんだったか。ホームズ枠の人間として、お前も誰がモリアーティ教授なのかを知っていると警察はやり易いんだがな?」

「ええ。助手のワトソンに対し、『彼は犯罪のナポレオンだよ、ワトソン君。この大都会の半分の悪事、ほぼ全ての迷宮入り事件が、彼の手によるものだ』と話していますね。それと俺はホームズじゃなくてワトソン役なので其処をお忘れなく。ビール、注ぎいたしましょう」

 ホームズ扱いが頭に来たのでビールをドバドバ注ぐ。

 滝のように注ぐ。

「お前!もっと丁寧に注げよビールは!泡だらけになっちゃっただろ!」

「マイリンゲンにあるライヘンバッハの滝にモリアーティ教授とホームズは共に落ちて二人とも死亡したわけですけど、ホームズは読者からの要望で実は生きていたって事になったんですよね。そのライヘンバッハの滝にちなんで滝のように注いでみました」

 ホームズの敵役として登場したモリアーティ教授ではあるが、完敗したのはアイリーン・アドラー唯独り。常識が通用しない悪女に弱いのは正義の味方の特徴だという事なのだろう。

「思えば、身勝手な女が理由で俺も色々失っているんですよね。だからこその女性嫌いですしだからこその人間嫌いなわけじゃないですか。つまり俺にとってのモリアーティ教授って遊び人気質の女性だという事になりませんか?」

「ミステリーには強い名探偵もヒステリーには弱いって事だろーよ」

「言葉遊びですけど、その通りなんだよなあ…。間違っている事を押通すのが理不尽だとするならば、俺の両親は理不尽を武器にしているような人間ですし。そもそも小学生の学友自体が間違った事を押通すような人間ばかりでしたからね。だから山形県はイジメを目的達成の為に選ぶ人間しか居ないとか言われるんだと思いますが…」

「安心しろ。お前に対するイジメはもう起こらねえよ。全員、警察に要監視対象として登録されてるからな。学校内でだけならまだ警察も大目に見たが、社会に出ても続けたのが間違いだったわけだ。偽計業務妨害に威力妨害、名誉棄損に自殺教唆。クハハ、モリアーティ教授も青褪めるような極悪人じゃねえか。もし、もう一度イジメが起こった場合を想像してみろよ。一般人が犯罪者として扱われるようになる一部始終をマスメディアは放っておかねーぞ?」

 そう、誰か一人が悪人なのではない。

 一般人は全員がモリアーティ教授に変質する。

 数を集め、責任の所在を薄めようとする。

 薄まる事など無いとは知らず、数を集めれば間違いが通ると何処かで学んでしまっている。

 学校では理不尽の押通し方なんてのは教えない筈なのに。

「…俺みたいな人間なんかはそれこそ放っておくのが一番なんですけどね」

「世の中の人間、なんでお前には自分の悪い部分を見せるんだろうな?」

「汚い部分を見せてくれるのは信頼の証なので、俺個人としては悪い気はしませんが…?」

「そういう『甘え』を言ってるんじゃねえ。何故か、お前には『悪性』で一般人が接しようとするのが不思議でな。そりゃ、お前は正義のためなら手段を選ばない。それはお前がまだ警察官志望だった学生の頃から警察が危惧していた事でもある。不要に怨まれても正義を貫く為なら恨まれるだろ。犯罪行為をしている人間を正す為に一般人を巻き込んで正義を行使してただろ、若い頃のお前は。ま、その行き過ぎた正義がカリスマとなって、今じゃ居酒屋探偵のサムライは署員から大人気となっているワケなんだが…」

 確かにそうだ。運転中に交通安全運動の案内を渡された際、「いつもお世話になってます、探偵のサムライです」と説明したら若いお巡りさんにサインをねだられた事もある。

 その際は愛犬で番犬で看板娘のハナコのイラストを描いてやったがね。

「別に人気取りの為にサムライやってるワケじゃありませんけど」

「ちなみにこの店の味がお前の人気を裏付けている事も忘れんな」

「其処は自分で自分を褒めてやりたいですよね。栄養価の高いオリーブオイルを使う事も日々の激務に追われる警察官の事を考えてですし。風味が独特で苦手だという方も多いのでニンニクとローズマリーを漬け込んでハーブオイルにしているところが当探偵事務所の拘りです」

「お前って探偵としての腕も確かなんだが、それ以上に料理の腕が確かなんだよな…。なんだよ、この激ウマの中華料理は…。さっき、スペインの料理出したばかりだろ…」

「そちらは夏限定メニューになります、『鶏肉と筍の辛子炒め』です。材料なんか鶏肉と筍とニンニクの芽と鷹の爪だけだし、作る方は助かるばかりなんです。小麦粉塗した鶏肉と食べ易く切った野菜をフライパンに入れて炒めるだけで充分に美味いですから。味付けがピーナッツバターと豆板醤と醤油だけでも充分に美味しいでしょ?」

部活帰りのお子さんに喜ばれますので、ご家庭でもどうぞ。ピーナッツバターと豆板醤をフライパンで溶かすと甜麺醤みたいなソースになりますのでね。冷蔵庫に余りがちなピーナッツバターと豆板醤を掛け合わせるとアジアンテイストなソースになると覚えておいてくださいな。

「ワインでもビールでも旨いが…」

「辛い料理は弱気を吹き飛ばしますので運動部に良いんです。実力があっても優し過ぎてその実力を発揮出来ないというのが山形県の若者が抱える可愛いマイナス面ですから。激辛を食べさせヤケクソ状態になってからサッカーの試合をさせると良い動きをするようになる。少なくとも身体の当たりで負けても心で負けなければ良い。学生は純粋な闘気の塊になれば良い。学生剣道がそもそもそうでしょ?だから当探偵事務所の激辛料理は弱小サッカーチームにも好評なんです。気持ちで負けなければそれは負けじゃない。気持ちで負けるを若いうちに経験させてしまうのは挫折を学ぶという事ですからね」

「世の中、弱小チームってのは親が熱いのが問題なんだよなあ…」

「ええ。親が熱く、実際に戦う子供が親に気後れするのも全国通じての問題です。なので激辛の料理で親に対する遠慮も相手に対する遠慮も全部吹き飛ばすのが重要で肝要なんです。熱くなり過ぎて喧嘩になったらそれこそ大人が対応するでしょうし。なんだか最近、俺はこうした活動こそが当探偵事務所の正しい在り方なのかとも思うんですよ。探偵は公務員じゃないけど正義の味方なわけですからね」

 そして何より。

 毎日登下校を愛犬と一緒に見守る、内気で優しい少年がブカブカの真新しいユニフォームに袖を通し、なけなしの勇気を振り絞って上級生に真っ直ぐぶつかっていく様子を見る事が出来るのが、オッサンの楽しみでもあるのだ。

 正義の味方は抱える正義を若者に分け与えてこそ。

 今の世の中が、バイキンマン人気だとしてもだ。

 サムライの芽は、そうしたところから増やしていく。

 それが、モリアーティ教授のような悪党を根絶やしにする一手となる。

 どうせ悪党なんか長生きは出来ないもんだが。

「モリアーティ教授みたいな悪党なんか結局大人になってから破滅するもんです。だったら俺は子供をサムライの卵に育てるをこれからの指針としたい。価値観が多様化した現代、正しさなんか溢れてるわけでしょ。だったら正しい大人にならず優しい大人を目指せと、俺はそう教えたいんです。そしたらバイキンマン人気は廃れてアンパンマン人気が再燃する」

「お前、アンパンマンかぁ?見た目、完全にチンピラなんだぞ…?」

 再度、滝のようにビールを注ぐ私。

 カウンターに広がるだけじゃなく、先輩のYシャツさえ汚すが構わない。

「コラ!だからビールをそんな風に乱暴に注ぐな!幾ら俺に意地悪してもお前の見た目がチンピラなのは事実だからな!そんな冷たい眼ぇしたアンパンマンなんか存在してたまるか!」

「お客人。どうやら貴公、アンパンは冷やしても充分美味しいと御存じないようだ。来いハナコ!このカレーパンマンの事を中身のカレー吸うだけ吸われた可哀想なナンみたいにしてやれ!ナンパンマンにしてやれ!」

 すると何処からともなく現れた愛犬で番犬で看板娘の狼犬が先輩に飛びついて、ガッシリと前足で動きを封じた。

「止めろハナコ!痛い痛い痛い!爪が肉に入ってる!重い重い重い!獣臭い獣臭い!」

 ハナコは小首を傾げて「あれ?なんか痛がってますよ御主人」と言いたげ。

「ハナコ!伏せ!体重をナンパンマンに預けてパニーニみたいにしてやれ!」

「重い重い重い!熱い熱い熱い!獣臭い獣臭い!」

 

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