第6話 救世主に手は出せない

 帰り道の間、話はしていたものの袋に入っている物が気になり内容が入って来ない。OKサインなのだろうけど、手を出してしまったら彼女との間に取り返しが付かない物が残ってしまう様な気がする。


 家につくと、時間が時間という事もあり俺はお風呂を沸かした。


「チカちゃん、先に入っていいよ?」

「え、悪いよ……」

「俺はその出しを楽しむから!」

「私は昆布じゃないからねっ!? なんなら、一緒にはいる?」

「……お、俺は後で出しを」

「今考えたよね? そのフレーズ気に入ったのかも知れないけど、ちょっと変態が顔出しているよ?」


 とりあえず耐え忍んでいると、彼女は来ていたパーカーを俺に渡し脱衣所の扉を閉めた。


「それで我慢しといてね?」

「いいんですか?」

「汚したらだめだよ!」

「ちょっと、斜め上の想像はやめて!!」


 パーカーを、抱えているとチカちゃんを抱きしめている様な気分になる。匂いを嗅ぐ位ならいいんだよな?


 そっと鼻を近づけると、嗅いだ事が無いはずなのに薄くなった香水に紛れたようなチカちゃんの匂いだと分かった。


 くぅ〜、なんか幸せな気分だ。


 俺はそのまま、何度か繰り返す。その度にどんどん抱きしめている感覚にリアリティーが湧いてきていた。


「あのさぁ……そんなに好きならあげよっか?」

「うわっ!」


 急に声がして振り返ると、コンビニで買ったTシャツに下着姿のチカちゃんが立っていた。


「ちょっと下パンツだよ!」

「え? ボクサーパンツだし気にしないよ? それよりドライヤーを借りたいのだけど?」


 気になるのは俺の方なのだが言葉を飲み込む。洗面台からドライヤーを出すと何故か流れで乾かしてあげる事となっていた。


「ふあぁ〜」

「こんな感じでいいの?」

「もっとわしゃわしゃしてしっかり乾かして!」

「こ、こう?」

「そうそう!」


 柔らかい髪、目鼻立ちがはっきりしているからかすっぴんになってもあんまり変わった感じはなく、肌が生々しくなっているくらいに思えた。


「はいっおわり!」

「ありがとっ」


 ほぼ下着姿の彼女に密着しているくらいの距離感。少し見上げている表情も可愛い。


 最近似た様な状況になった様な……


 一瞬、安暮とトイレに隠れた時の事を思い出したが、雑念を払う様に首を振った。彼女が脱衣所をでると俺は直ぐに風呂に入る。ついさっきまで入っていたという妄想だけでご飯三杯はいけそうだ。


 風呂から上がると、服を着てドライヤーを当てる。洗面台に歯ブラシのケースが置いてあるのが見え、視線を変えると洗濯籠の上に彼女の下着が畳んで置いてあるのが見えた。


「それはダメだよ?」

「ええっ!」

「さっき置いてきちゃったから……ね?」

「洗濯しとこっか? 浴室で乾かせるから朝には持って帰れるよ?」

「うーん。じゃあお願いしよっかな?」

「うん、干しとくから朝忘れないようにね!」

「忘れたら次泊まる時の着替えに置いといて?」

「う……うん」


 次、があるって思っていいんだよね?


「女の子呼ぶからやめて欲しいとかならいいけど」

「チカちゃんしか来ないよ。あ、裕二はくるかも……」

「それは見えない所に保管しといてね!」


 裕二には見られたく無いって事なのかな。特別な感じがしてちょっと嬉しい。


「それじゃあチカちゃんはベッド使っていいからね」

「それは悪いよ……」

「床で寝かすわけには行かないし」

「一緒に寝れはいいよね?」

「それは……色々と出てしまいかねないから」

「何をだすのよ!」


 結局のところ、抵抗なんてできるはずも無く同じベッドで寝るという事に落ち着いてしまった。


「ねぇ……」

「うん?」

「もしかして、何かが引っかかっているの?」

「どうして?」

「普通はさ、ここまでくれば手を出すか付き合おうとするとかあると思うんだよね」

「それは……そうだよね」

「今思えば、和くんからは好みとは聞いていたけど、好きって言われてないんだよね」


 もしかして不安に思っているのだろうか?

 いや、無理もない。彼女とは会って数日しか経っていない訳で、出会い方だって見ようによっては裕二が悪ノリしただけに見えない事は無い。


「ごめん……」

「それ、どっちのごめんかな?」


 今日だけでも充分楽しかったし、これ以上は彼女を悲しませるつもりは無い。


「俺はチカちゃんが好きだよ」

「うん……それで?」

「良かったら付き合って貰えませんか?」

「ちょっと遅い……」


「ええっ!? そんなぁ……」


「でも、いいよ? 告白としては10点だけどね」


 そう言われた俺は、それまで我慢していた感情が破裂しそうになり目の前の彼女に抱きついていた。


「もう……いきなり?」

「だって、付き合えるとは思って無かったから」

「それ私じゃなかったら一生付き合えてないとおもうよ?」


 パーカーより、鮮明な彼女の匂い。嗅ぎなれたいつも使っているはずのシャンプーの匂いが甘く彼女の匂いに染まっている。


「していい?」


 俺がそう言うと、彼女は目を逸らしてコクリと頷く。それを合図に彼女の唇を奪った。


「んんっ……」


 唇を離した瞬間、彼女は小さく呟いた。


「アレ、使お?」

「……アレ? 何の話?」

「いやいや、そのままする気?」

「だから何を……」


 そこまで言って、俺は思い出した。コンビニに下着を買いに行った時に彼女がコンドームを買っていた事を。


「いやいやいやいや、そこまではしないって!」

「えっ。じゃあさっきのしていい?って言ったのは?」

「今したけど?」

「でもコレ、臨戦態勢じゃん!?」

「そんなところさわられたら…………あっ……」


「えっと、もしかして……」

「はい。すみません……」

「とりあえず、履き替えてきたらいいと思う」


 ……大失態だ。

 俺は直ぐ様パンツを履き変え、急いでベッドに戻ってみるとチカちゃんは怒っているのか、壁側を向いて寝ていた。


「あの……すみません」


 返事は無い。


「でも、チカちゃんの事は本気で好きなんで……」

「……別にもう疑ってないよ」


 再び俺は、布団の中に入ると彼女が振り向く。頬を膨らませてはいるものの、目が怒っていない事に安心する。少し賢者になっている俺は落ち着いたまま彼女に触れた。


「何?」

「いや……好きだなぁって思って」

「もう、、、」

 

 そのまま抱きしめたものの、刺激的な彼女の身体に慣れるにはもう少し時間がかかりそうだ。


「あっ、すみません。すみません……」

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