ウサギのクウの日常日記

桃福 もも(お休み中)

ウサギのクウちゃんはおばあちゃん

 クウちゃんは9歳です。

 お兄ちゃんが大学生になる18歳の年に、家を出て行くお兄ちゃんと入れ替わりに家にやってきました。

 お兄ちゃんが28歳になるので、今年で10歳になります。

 このところ、顔立ちが少々ふてぶてしくなってきました。

 目が座ってるし、あごがでっぷり二重あご、全身だらんと床に預けている姿なんてのは、突き立てのお餅をテーブルに投げたようなダランダランぶりです。


 お気に入りのチューブの中で、今日も目を閉じて寝ています。もはや野生のかけらも残ってはおりません。


 そんなクウちゃんにも鋭敏になる瞬間があります。

 始まりは、冷蔵庫を開ける音。

 クウちゃんの耳は前後互い違いにピンっと立ちます。それはまるでレーダーのよう。

 ファンファンファンファンと、見えない音波を拾っているのでしょう。

「くるかくるか」と、クウちゃんは、第一戦闘態勢に入ります。

 お父さんが、冷蔵庫を開けて、何かを取り出す音を見分けているのです。

何かを取ると、お父さんは決まってクウちゃんの所へやってきます。

 自分が美味しいものを食べるとき、「クウにも美味しいものをあげような」と言って、クウにおやつをくれるのです。

 クウはすっかりそれを覚えていて、お父さんが、冷蔵庫を開くと、チューブから飛び出してきます。ウサギって2足歩行ができるんだっけ?と思えるほど、立ち上がっておやつをもらいに行きます。

 もらうとチューブの裏に持って行って、なんと隠れて食べるのです。

 おそわれる心配はしないのに、取られる心配をするのはどういうことでしょう?


 誰もお前のおやつ何か喰わんわ。


 お父さんは、クウちゃんにとっても甘いです。

 クウちゃんがおねだりにチューブから飛び出してくると、「しょうがないなあ、もう、クウは!おやつばっかり食べて!」と言っておやつをやります。


 ???


 あなたがやらなければ、食べれませんけど。

「もう、しょうがないなあ、おやつばかりやって」が、正しい。


 クウちゃんは、お母さんが冷蔵庫を開けても無視しています。

 微動だにせず、チューブの定位置に座って、ふんっと鼻を鳴らしているのです。

 何が違うんだろう?

 でも、クウちゃんは分かっています。

 お父さんが帰ってくると、チューブをグルグル3周回って、それこそ小躍りして喜びます。

「おお、よしよし、クウはいい子だなあ」とお父さんはご機嫌です。

 でもたぶん、クウはこう思ってるんじゃないでしょうか。


「やったーやったー!今日もおやつが帰ってきたぞ!クウちゃんにおやつ下さい!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る