第2話 祈ったけど、才能無かった
ある夜、クローバー王国の最東端の名前も無い村の助産院で、2つの産声が同時に上がる。
先生「あら、二人とも同じタイミングだね。二人ともおめでとう。」
助産院の老女の先生は、目の前のベッドに横になっている病院着をきた黒髪のショートボブでボンキュッボンなナイスバディの20代くらいの女性と、同じく病院着をきた背中まである青髪のロングヘアで、黒髪の女性より胸が一回り小さいが、スタイルの良い20代くらいの女性に向かって言った。
そう。二人は同じタイミングで赤ちゃんを出産したのだ。
黒髪の女性の名前はクレア
青髪の女性の名前はソウ
二人とも平民のため名字はない。
先生「クレアの方は男だね。ソウの方は女だね。二人とも立派な産声をあげてるじゃないか。二人とも、しばらくはゆっくり休みな。」
クレア「やっと会えた。これからよろしくね。」
クレアは生まれた赤ちゃんに笑いかける。
ソウ「可愛いわね。私もあなたを待っていたのよ。」
ソウは生まれた赤ちゃんに笑いかける。
そして、クレアとソウは見つめあうと、お互いに言った。
クレア、ソウ「ソウ(クレア)おめでとう!」
クレアとソウは笑いあいながら、祝福しあったのだった。
こうして、村に新たな命が誕生した。
クレアの生んだ男の子は、イースと名付けられ、ソウの生んだ女の子はマリンと名付けられた。
イースとマリンは、すくすく育ち、3歳を過ぎると、目を離すとどこかに走っていってしまう元気な子供に育った。
そんなある日、イースとマリンは話をしていた。
マリン「ねぇ!ねぇ!もうすぐお祈りだね!」
イース「うん!偉い人が来て、お祈りすると、才能?が分かるらしいよ!将来、何なるか分かるんだって!」
マリン「マリンね、絵本に出てくるお姫様が良いなぁ!」
イース「僕は悪い奴を倒す勇者様が良い!」
マリン「良いの貰えると良いね!」
イース「うん!」
イースとマリンがしていたお祈りとは、子供が三才になった年に神々が才能を与える儀式の事だ。
イース達の村は田舎過ぎて教会が無いため、近くの町から神官が派遣され、外に簡易な祭壇を作って儀式を行う。
儀式は神官の前で対象の子供が祈りを捧げると持ってる才能が神官を通じて分かるというものだ。
イースやマリンを始めとした村の子供5人が一週間後に迫る儀式を控えていた。
ほとんどの人の才能の大半は、下位才能と呼ばれる農民や猟師、木こり等の才能で訓練すれば、複数で魔物を倒せるレベルだ。
しかし、希に上位才能と呼ばれる剣聖や賢者等の才能があり、これらの才能は1人で1000の魔獣を相手できるくらいのレベルだった。
そして、その中でも同じ時代に1人しか授からない才能の勇者は、5000の魔獣をなぎ倒し、圧倒的な能力を最も魔王をも倒しえるレベルだった。
この世界の人々は儀式で授かった才能で生活をしており、実際イースの父親は木こりの才能、母親は裁縫士、マリンの父親は猟師、母親は料理人で、それぞれの才能に従って働いている。
イース「僕は勇者になる!」
マリン「私はお姫様!」
子供達は無邪気にはしゃいでいたが、クレアとソウは二人を微妙な笑顔で見守っていた。
今はまだ夢を壊さないために。
一週間後の昼。
神官が村に着き、祭壇を作った。
これから儀式が始まるのだ。
神官「それでは、才能の判別の儀式を始めます。子供達は前に。」
神官の合図で、村の男の子のファマ、ウズ、アック、そして、イースとマリンがそれぞれ前に出る。
神官「それでは、神々に祈りを捧げてください。才能が分かった人からお教えします。」
五人「はい!」
子供達は一斉に手を組み祈りを捧げる。
神官はファマの前に立つと、声を上げる。
神官「あなたの才能は農民です。」
次にウズの前に立つと声を上げた。
神官「あなたの才能は猟師です。」
ファマとウズは肩を落としたが、これが普通なので親達はガッカリする事は無かった。
神官がアックの前に立つ。
神官「あなたの才能はウォーリアーです。」
アックは名前の意味が分からない様子だったが、アックの両親は驚く。
ウォーリアーは上位才能ではないが、戦いに才があるため、領主の騎士団に入団する事が可能で、下位才能の農民の才能の両親に比べたら大出世だからだ。
神官は、マリンの前に立つ。
神官「あなたの才能は・・・え!これは!拳王です。上位才能ですよ!素晴らしい!」
マリンの両親は驚く。
上位才能を授かったという事は、1000の魔獣を倒すレベル、すなわち将来、国の将軍クラスになる事が約束されたのと一緒だからだ。
マリン「私はお姫様が良い!」
やっぱりマリンは子供で女の子だった。
マリンの両親は勢い良くずっこける。
神官「え!?まぁ、まだ子供ですからね。しっかり学校で教育を受ければ、大丈夫ですよ。ご両親、安心して下さい。」
プンスカ怒るマリンを放っておいて、神官はイースの前に立つ。
イースは心の中で呟く。
イース「「マリン良いな。神様!僕は勇者が良い!勇者!勇者!勇者!勇者!勇者!勇者!勇者!勇者!勇者!」」
イースは黙って心の中で叫び続ける。
神官「あなたの才能は・・・あれ?おかしいな。何も降りてこない。どういうことだ?」
イース「え!?」
神官「・・・何も降りてこない。あなたには才能が無いようです。」
神官はそう言うと、祭壇に戻っていった。
イースの両親は驚きを隠せない様子で、体を震わせていた。
イースも意味が分からなかった。
才能が無いって、どうすれば良いの?と思い、頭が真っ白になった。
神官「これで儀式を終わります。マリンさんとアックくんの才能については領主様に報告する義務があるので、報告しておきます。二人は7才になる年に首都の王立クローバー学園初等部に入学する事になるので承知下さい。そのうち使者が来るので詳しくはそちらに聞いて下さい。」
神官はそう言うと馬車に乗り、村を出ていった。
イースの父のアースと母のクレアがイースに近づくと、強く抱き締める。
アース「イース。才能無いみたいだけど大丈夫だ。父さんが狩猟を教えてやるし、母さんも裁縫を教えてやる。大丈夫だ。何とかなる。」
クレア「そうよ。大丈夫。大丈夫だからね。」
イース「才能無いと勇者になれないの?」
アース「・・・無理だな。でも、大丈夫だ。何とかなる。」
イース「えー!勇者が良かったなー。」
クレア「さ、お家に帰りましょう!お昼ご飯に食べましょ!」
イースは、まだ3才。
儀式の意味なんて分からない。
後ろの方では、マリンが逆に叫んでる。
マリン「マリン、お姫様が良い!」
マリンの父のシャクと母のソウがマリンに言う。
シャク「マリン。贅沢言う( -_・)?じゃない。」
ソウ「マリン。お家に帰りましょう。」
マリン「分かった。イース!またね!」
イース「うん!マリン!またね!」
マリンとイースは手を振り合う。
マリンの両親とイースの両親はお互いに頭を下げて、それぞれの家に帰って行った。
こうして、儀式の日は過ぎていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます