老害の軌跡~憎まれっ子世にはばかる~

44年の童貞地獄

第1話 ヤンチャな腕白坊主~我が子供時代~

私、飯藤芳三は昭和16年、すなわち1941年5月生まれ。

当年とって齢八十三となり、傘寿を超している。

我が子である一男一女はとうに独立して家庭を持ち孫は三人。

五十年前に買った世田谷区のマイホームで妻と共に余生を送っている身の上だ。


思えばこれまで色々あった。


埼玉県大宮市近郊の農家の三男二女の末っ子として生まれ、幼い頃は戦争とその後に続いた戦後の困窮の時代を生き抜いてきた。


もっとも、父も兄も兵隊に行っていないし、農家だったので空襲も経験していないから戦争の記憶はほとんどない。

だが、戦争を生き抜いたことに変わりはなかろう。


戦後も比較的豊かな農家だっただけにひもじい思いをしたことはないが、我が家に大きなリュックを背負った小汚い国民服やモンペ姿の見知らぬ男女が何度か訪ねてきたのは覚えている。

それを両親や長兄は怒鳴ったり、棒で殴ったりして追い払っていたものだ。

後に次兄から聞いた話であるが、都会からお粗末な着物や洋服を持って押しかけて来て我が家の米や作物との物々交換をねだってきた者たちらしい。

そんな厚かましい連中がうようよいた時代に幼少期を送った私に言わせれば、今の若い者たちは恵まれすぎている。


昭和22年、私は小学校に入学した。


大柄な両親の血を受けたからだろう、私は学年でも背が二番目か三番目に高く、運動神経にも恵まれた活発な少年だった。

野良猫を絞殺したり、他の生徒の弁当を全部床にぶちまけたり、仲間と一緒に嫌いな同級生に無理やり虫を食べさせたり、教室で同級生の女の子を全裸にしたりとずいぶんやんちゃなことをしたものだ。


いっしょに遊んだ中では高倉国弘が一番面白かった。

よくグランドの砂場に首まで埋めたり、画鋲を敷き詰めた椅子に座らせて膝の上に乗っかってやったり、イヌの糞を食べさせたり、肥溜めに顔を突っ込んだりしたものだ。

泣く様子があまりにも面白い奴で、今思い出しても笑みがこみあげてくるくらいだ。

実に楽しい子供時代を過ごした。


だが、中には子供だった私のやることに目くじらを立てる大人げない者もいて、ある家の井戸にふざけて仲間と小便をした時にはそこの親父と中学生くらいのせがれ二人に捕まって殴られたうえに木に縛られてしまった。

いたいけな子供だった私に何てひどいことをする奴らだろう。


だが、そんな奴らへの天罰はすぐ下された。

それをやったのは父と兄、姉たちだ。

逃げのびた仲間が私の家まで行って知らせてくれたらしい。

木刀やなぎなたを持ってさっそうと現れるや、父と兄二人は木刀でそこの親父とせがれたちに天誅の猛撃をくらわせ、姉二人は木に縛られた私を救出するとなぎなたを振り回して親父の女房と娘を追いかけ回して追い詰めるやキーキー泣くメスブタ母娘に百叩きの徹底仕置きを敢行。

身体も壮健で勇猛な精神を有した我が一家にこの悪辣な軟弱一家がかなうはずがない。

一家全員ことごとく成敗され、最後には皆裸になって我々一家の者に土下座していた。


いざとなったら助けてくれる本当に頼もしい父や兄、姉たちだった。

末っ子だった私は彼らに守られ、元気いっぱいに子供時代を過ごしたのだ。


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