スラム育ちの灰姫

@KotohaMk2

第1話、スラム少女、冒険者目指す。


 ある晴れた日 。

 暖かな日差しが世界を覆う 。

 だが、サルティア大陸の中にあるステリア王国は北に位置する 。その故か、どんなに暖かな日差しでも少し肌寒いと思ってしまう。

 そんな中、スラムで暮らす少女が1人 。

 

 灰色の髪をした9歳か8歳の少女 。

 彼女の名前はセレナ、記憶もない頃に育ての親に捨てられ、両親の顔も声すらも分からないのだ 。自分をここまで育ててくれた人の事も 。

 どうしてこの年齢まで生き延びれたのは分からない

 が、生きてるのは生きている 。

 手癖が悪い手を動かし、スリをして、盗み、生きる糧を集めていく 。

 

 

 ▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 

 

 明くる日、今日も少女はスリをする 。

 小綺麗な服を纏っている女がいる 。

 ━━━━━イラつく。

 特に用も無いくせに、不自由なく生きてるくせに

 こんな場所に来て 。…… 後悔させてやる 。

 口角が上がる 。花の入ったバスケットを持ち、前へ進む 。

 

「きゃっ」

 

 女の短い悲鳴が聞こえた 。

 ぶつかったのだ 。

 その際にポケットから財布を奪ってやった。

 あとはこのまま …… 。

 

「待ちなさい」

「!?」

 

 …… 声を掛けられた? いや、そんなわけない。

 わたしがスリを失敗するなんてありえない 。

 このまま …… 。

 逃げようとした瞬間 、がしっと腕を掴まれた 。

 

「盗んだものを返しなさい 。

 …… それと、行くところがないなら、私のところに 」

 

 その女はわたしの格好を一瞥した後 。

 そう告げた 。誘拐? 警備兵にでも突き出すのだろうか。

 払えるものは無いというのに 。

 けど、バレたからには仕方ない。

 

「…… わかった 」

 

 短くそう告げ、女に財布を返せば、手を引かれ

 見知らぬ土地、見知らぬ建物へと入っていった…… 。

 

 

 

 ▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 

 

 

 中に入って愕然とした 。

 私と同じぐらいの子と、少し下? 

 それと …… 明らかに年上の人がいっぱい居る 。

 何処なんだろう、ここは 。

 身売り場? 確かに子供は高く売れると聞いたことかあるけど。

 

「此処は孤児院

 貴女みたいな子を集めて、育てる場所よ」

 

 ……そんな慈善活動信じない。

 そんな善人がいるなんて知らない。

 でも、生きていくためだ。使えるものは使わないと 。

 

「……わかった、ここで暮らしてく。

 でも、大人になったら出てくから」

「ふふっ、大人になったら

 みんな此処を卒業……出てくのよ」

 

 そう言って、シスターたちと

 世話のかかる下の子たちと、リーダー的な立ち位置の年上に囲まれながら、成人までの6年間 …… 知識を溜め込んで、体力をつけた 。

 

 

 

 

 ▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽

 

 

 

 6年経ち、15歳。

 特に問題もなく、いい子を演じて利用した孤児院 。

 死ぬ心配や空腹の心配が無くなった 。

 とはいえこれからは自分で稼がなきゃ、本で読んだ冒険者とやらになって、わたしは生きる 。

 

「ねえ …… ここでシスターとして働かない? 

 貴女はほら……下の子たちからも人気だし …… 」

「言ったでしょ、先生 。

 わたしは成人したらここを出るって 」

「態々、冒険者なんて命が……」

「命の危険なら、何度も味わった 。

 だから、それが元の生活になるだけ 」

 

 先生 …… シスターは何かを話そうとしたが、それ以上は何も言わず、ただ微笑んだ 。

 出る時間は早朝 。お昼とかだと、下の子がぐずるから、仕方なく 。

 これからは誰にも頼らずわたしだけで生きていく 。

 …… ただ、シスターが昔言っていた人助け …… それをするのも悪くないかも 。

 

 そんなことを考えているうちに街並みが綺麗になってきた 。

 最底辺なスラムと違い、活気に溢れ、笑顔が溢れている 。

 ━━━━━ 憎い 。

 そう思っても無駄だ 。けどそう思ってしまう 。

 仕立ててくれた服に備えついてたフードをかぶり、悪目立ちする灰色の髪を隠した 。

 …… 腹ごしらえに串焼きを買う 。

 表で食べて注目を集めるのは嫌だ、そう思い辺りを見渡し丁度よさそうな路地裏へ 。

 塩っけがよく効いた肉に、程よいスパイス 。

 串に垂れる肉汁を気にせず、ぺろりと食べ終えた 。

 どこかで串を捨ててから、ギルドに行こうと踵を返したとき 。

 

「きゃっ! 誰か助けて!」

 

 背中から女の声が聞こえる 。

 はぁ …… 。気だるげに溜息をつき、背後を一瞥した 。

 

 暴漢……? 亜麻色の、目立つ髪をした女が男一人に襲われてる 。

 背負ってるのは …… 弓だろうか 。

 冒険者ならそれぐらい何とかして欲しいものだが 。

 

「冒険者見習いだかなんだか知らねぇけど、アマが1人で着いてきちゃ危ないだろぅ?」

「貴方が …… パーティを組んでくれるって……!」

「嘘に決まってんだろ、そんなの 。てめぇみたいな上玉見逃す訳にもいかないしよぉ 」

 

 …… ゲスだ 。

 スラムにもいた、女子供をさらっては慰みものにするやつ 。

 私は …… 顔を隠してたし、そういうのには狙われない立ち回りをしていたけれど …… 。反吐が出る 。

 そう思った瞬間、そちらへ歩き出した 。

 

「へへ、恨むんなら …… ぁ? 誰だテメ ッ …… !?」

 

 奴が喋り終える前に仕留める 。

 まず、さっき食べ終わった串で片方の目を潰す 。

 相手が目を抑え、怯んでる間に足払い。

 転ばせたあとに、もう片方の目を潰す 。

 姿を見られた以上視力を残しておく理由もない 。

 相手が両手で潰れた目を教えた 、隙だらけだ 。

 持っていた短剣を引き抜き喉へ突き刺した 。

 叫ばれても困る 。そして仕留めるのには1番適してる場所だ。……狙うのは難しいが、動きを停めたら楽 。

 

「ひっ、ぅ、ぉえ …… ッ 」

 

 襲われてた女が吐いた 。

 死体に慣れてないのだろうか 。

 …… まぁ、そんなことはどうでもいい 。

 わたしはつまんない寄り道をしたと思い、くるりと翻る 。

 そのまま数歩歩いたら、掠れた声で …… 。

 

「まっ、へ …… くらさい …… 」

 

 嘔吐物を口端から垂らしながら

 こちらを向いてくる亜麻色の長髪をした少女 。

 

「手慣れてる …… 強い冒険者さん …… ですよね

 私、なったばかりで……パーティ、くんでくれませんか …… 」

 

 息を整えながら喋ってくる 。

 …… そして呆れた 。あんな目にあったのに、まだパーティを申し込むなんて 。

 

「はぁ …… 貴女、冒険者なら頑張りなさい 」

「だから、私は見習いなんですって……!」

「そう、じゃあ冒険者じゃない私より弱い貴女は向いてないわ 」

 

 そう言って私は表通りへと戻った 。

 後ろで彼女が何かを言っていた気がするが

 興味無い 。

 ……生きるつもりの無いなら、勝手に死ね 。

 

 

 

 ▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 

 

 

 先程の出来事から数刻過ぎた 。

 わたしは目的であるギルドへ着いた 。

 扉を開け、中に入る 。

 …… なんだか、ファンキーな髪型の奴らがいっぱいだ 。

 こいつらが …… 女を食い物にしている …… 。……気にしていられない、収入源となる場所だから …… 。

 そう思い、受付を探してはそこへ足を向ける 。

 すると目の前へ、髪の毛が真ん中一直線しか残ってない 。

 なんでそこだけを残して伸ばした、と感想を言いたい男が立った 。

 

「ひゃひゃ …… おいおい? ここは女子供が来るような場所じゃねぇぞ……? てめぇら女子供は家でゆっくりゴロゴロ寝てろ!!!」

「ぎゃははは! その通りだ!」「かえれかえれー!!!」

 

 …… なんだこいつらは 。

 この風体でそんな擬音使うな 。いや、言ってることは正しい 。

 先生も言っていた 。女は成人したら、帰ってくる旦那のために家を温めておくものと。…… 知ったことか 。

 わたしはその男の横を通り過ぎ受付へ …… 。

 

 彼らは目を見合せ、やれやれと言った感じで肩を竦めた 。

 

「ここで冒険者登録できると聞いたのだけれど 」

「はい、登録ですね 。…… あの、本当にいいんですか?」

「いいから、進めて 」

 

 相手を睨みつける 。受付は慌てたように書類を出し、名前、育て親、年齢 …… 。勿論名前以外は必須では無い 。わたしは名前だけ書いて出した 。

 問題がなければ新人冒険者見習いと試験を受け、合格した者から冒険者としての資格が貰えるらしい 。

 

 案内された待機部屋へ行くと、わたし以外の人もいた。

 けど、わたしを含めても3人だ 。こんな危険な職業に着くぐらいなら、と、親の家業を継ぐのも多いらしい 。

 生意気そうな金髪のつんつん頭と

 弱気な眼鏡の黒髪の少年 。

 部屋に入ると真っ先にその2人が見えた。

 というか、この二人しかいない 。

 

「ん? お前も …… って、なんだ女かよ」

「なに? それの何が悪い?」

「ちょ、ちょっと …… カムイ……」

 

 カムイと呼ばれた少年とわたし、睨み合いながら

 彼の知り合いらしき黒い少年はオドオドとしている 。

 そんな時に扉が開いた 。

 

「おーおー、全員揃ってんな」

 

 おそらく今回の試験の人だろう 。

 いつもは人は少ないが、こんなに年少者が集まるなんて珍しいみたい。だから彼直々に実力を図る実践式として、戦うことに 。

 

「へっ、灰女、お前は負けて泣くんだな」

 

 喧嘩腰の彼を無視して、わたしは武器を取りだして手入れをし始めた 。なにか怒鳴ってるが、気にしない 。

 

「よし、エリオット、お前からだ、こい」

「え、ぼ、僕からですか!?」

「頑張れよ、エリオット」

 

 エリオット、そう呼ばれた黒髪の少年は杖を持って監督官の所へ向かった 。…… 2人の空気が悪い 。

 向こうは貧乏揺すりをしている 。

 わたしといえば、武器を研いでいる 。彼からしたら未知の行為らしい 。ずっと見てくるが話しかけてこない 。

 

 …… かれこれ、30分は経ったんだろうか 。

 ボロボロになったエリオットが帰ってきた 。

 次は …… 。

 

「次はカムイ、威勢がいいからな 。

 期待してるぞ」

「おう、おっさんなんかに負けるわけねぇ! 

 …… そうだ、観戦ってあり?」

「ん? ああ …… 暇だもんな、おお、いいぞ」

 

 …… 彼がわたしを見てくる 。

 観戦しろってことか。面倒くさい 。

 でも、相手の動きの参考になる 。

 重い腰を上げて広場へ 。その辺の壁に凭れかかって

 その試合の行方を見守ることにした 。

 

 

 

 

 ▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 

 

 

 2つの剣戟が弾ける 。

 砂が舞い散る 。

 片手剣と両手剣の戦い 。

 体格差は見ての通りだが …… あのカムイという少年もなかなか 。だけど …… 。

 

「くっそ …… ! なんっで、当たんねぇ!」

「はは、力任せに来てるだけじゃダメだぞ 。

 ほら、俺を殺す気で来い」

「う、ぉぁぁぁぁ!!!」

 

 …… 彼の負けだ。

 力任せに攻めている 。

 何処を狙ってるか丸わかり 。

 相手は熟練者だ、そんなのじゃ 。

 

 …… カムイの剣は弾かれ

 喉元に監督官の両手剣刃が差し掛かる 。

 わたし達に安全を保証するように、刃は潰してるようだ 。

 

「参り、ました …… 」

 

 カムイが負けを口にする 。

 対する監督官は余裕の表情、疲れてないようだ 。

 

「じゃ、最後に……」

「わたしね。

 1つ確認なのだけれど、殺す気で …… いいのよね?」

「ん? あぁ、それが出来るならな 」

 

 わたしと入れ変わったカムイは無理だろという目線を送ってくる 。…… 気にしない 。わたしは短剣を構え 、間合いを図る 。

 ━━━━━ 無風、無音、何も音は感じない 。

 ━━━━━ 視線、殺意。何も感じない 。

 ただの試験、殺す必要は無い 。

 だけど …… 。

 

「ッ━━!!」

 

 踏み込んだ 、背を低く、風の抵抗を受け流すように 。

 そして、針を投げた 。そう、先程の暴漢を殺した串だ。

 何本か捨ててある串を拝借したのだ 。

 相手はそれを大剣で弾く 、両足に力を込めてジャンプ

 落下地点は大きな体躯 。

 その肩に左手を添えて、一回転 。

 両足を彼の大胸筋に挟み込んでは、喉元に短剣の切っ先を当てた。そう、さっき研いでた為、彼の潰れてる刃と違い、殺せるものだ …… 。そのまま、わたしは押し込もうとした、瞬間に 。

 

「ま、まった! 俺の負けだ!」

 

 …… ハッとした、彼の背中から降りて、短剣をしまう 。

 カムイにも、エリオットにも …… 監督官も何か喋りかけていたが、興味無い 。答えることも無く、わたしはその場を離れた 。

 合否判定は、明日だと聞いていたから 。

 冒険者ギルドは、また明日にでも来よう 。

 

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