第9話 2人目の焼却者(インシネイター)

誰もが寝静まった深夜。

その闇夜の中に1人の少女が街にある街灯の上に立っていた。彼女の持つ青い瞳が見つめる先…そこには4人の男女が居て、フラフラと歩いている。

今夜は霧が出ている事から若干白いモヤが掛かっていた。


[居たぜ、間違いねぇ…ありゃあ死徒だ。さっきから血の匂いがプンプンしやがる。]



「……神の名において彼等を討滅します。」


高めの男性の声に対し小さく頷く。

右手の人差し指、中指を伸ばして残る3本の指を折り畳むとそれを手前に突き出す。目の前で縦と横へ十字に切ると共に叫んだ。


「遮断ッ──!!」


自身と死徒達の真下へ法術の方陣が展開され、異空間へ変貌する。中は黒い空と共に薄紅色の床が辺り一面へ拡がると彼女は街灯から飛び降りて着地する。格好は上下共に黒い修道服、足元は膝下迄の黒のブーツ、頭部にもベールと呼ばれる黒い布を被っていた。その服は動き易い様に前の方が太腿の半分程で開いている。

そしてベールから覗く金色の髪、そして白い肌と紫色の瞳は異国の者だと示すに相応しい。

彼女の足音に死徒達も振り返ると彼女を見つめては臨戦態勢へ以降した。彼等は唸り声を上げながら各々が鋭い鉤爪を突き出している。


[へへッ…奴等、喰う気だぜ?俺達をよぉ!]



「…下品ですよソア。未だ変異前であればコレで充分、殲滅出来る。」


すると彼女が何処からとも無く取り出したのは白い十字架と黒い十字架。白を右手に、黒を左手の中指へ挟み込むと彼女はポツリと呟く。


「…複製、召喚。」


すると左右の人差し指、そして薬指の合間にも同じ物が出現すると今度はまるで剣の様な刃が姿を現したのだ。刃渡りの長さは約80cm位でまるで爪の様にそれが指の合間から伸びているのが解る。

その内の右手を向けた瞬間に男性型の死徒が襲い掛かって来ると間合いが縮まり、両手の鉤爪が振り下ろされた。


「グガァアァアァァッ──!!」



「……執行。」


しかし、彼女が素早く腕を右側へ振り抜くと鉤爪が接触する前に身体がバラバラに斬り裂かれては真っ赤な血液が噴水の様に噴き出してバラバラになった。肉片が黒い塵の様になって消滅すると彼女はそれを皮切りに右足で地面を蹴って駆けて行き、女性の死徒を同じ要領で左手に持つ3本の剣で薙ぐ様に右側へ振り払って斬り裂く。


「……この様な姿に成り果てても尚、人の世に紛れ…血肉と魂を喰らう…その愚行、許し難い。」


飛び掛って来た男性型の死徒に対して彼女は身体を少し右後ろへ捻り、勢いを付けて右手の剣を左側へ薙ぐ様に一閃し胴体を真っ二つに斬り裂く。


「……よって我が手で貴様らを裁く。死を持ってその罪を償い、悔い改めるがいい!!」


残る女性型の死徒へ向けて駆け出しては左右の手をそれぞれ斬り払う様に動かすとバラバラに斬り裂いてしまった。辺りには肉片1つ残っていない上に断末魔の悲鳴すら響かぬまま戦闘が終わる。


「……途絶解除。ソア、周囲の状況は?」



[何もねぇ、お前さんが全て狩っちまったよ。]



「そうですか…それにしてもこの街の空気は何処か淀んでいる。まるで他者の干渉を拒んでいるかの様に。」


左右の手に握っていた十字架を片付けると

穏やかで透き通る様な声で少女は呟く。

その声は外見よりも少しばかり大人びている様な気がした。そしてブーツの足音を響かせながら白い霧の中へと彼女は歩いて行った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「浩介が学校に来てない?」


朝、授業が始まる前の教室で竜弘は座っている有紀へ向かって聞き返すと彼女は頷いた。


「そうなの、今日は用事が有るから休むわ!って私にメールして来てさ。典型的なサボりだよサボり。」



「珍しいな…浩介が学校休むなんて。普段なら必ず来てるのに……何か有ったのかな?」



「さぁね…私にはサッパリ。しかし、髪の毛サラサラしてるねぇ光織さん?私より凄くてビックリしちゃう。」


光織こと冴月へ問い掛けると彼女は後ろに居る有紀に髪の毛を触られていて、いつの間にか彼女の長い髪がツインテールに結ばれてしまっていた。


「……話はちゃんと聞いてる。でも髪型まで変える意味有るの?」



「んー?イメチェンだよ、イメチェン♪普通の髪型も良いけど少しはオシャレしないと。じゃーんッ、今日はツインテール!」


黒いヘアゴムでツインテールにされてしまった冴月は素材が良いのか良く似合っている。目線を逸らし恥じらう彼女を見た竜弘は納得する様に何度も頷いた。


「それよりも浩介の事…どうする?」



「うーむ…取り敢えず1日だけ様子見ようか。何かあったら宜しく!やっぱ光織さんは可愛いねぇ。」


竜弘へそう話し掛けると彼女はニィッと笑って席へ戻って行く。横目で冴月を見ると何処か恥ずかしがっていた。


「……ねぇ、笠井さんは前からこうなの?」



「ま、まぁ…そんな所。部活でも和歌奈さんといつも一緒だし…。」



「ふぅん……。それと竜弘、今日は直ぐ早退するから荷物纏めといて。出られる様にしておきなさい。」



「え?何で急に。」


彼女の口から早退という単語が出たのは珍しい。

何か訳が有るのだろうか?


「……理由は後で話すから。」


冴月は目線だけで伝えると竜弘は「解った」と頷き、教科書類を鞄へ詰め込んで行く。そして始業のチャイムが鳴り、教師が来ると事情を話して2人は午前中の2限目に早退した。

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校門を抜け、通りを左へ曲がると向かった先は住宅街の有る方面で飲食店やコンビニが所々有る場所。

スーパーの前を通り過ぎた辺りで冴月が話し出す。


「……昨日の夜、この先で死徒が出た。」



「でも、それはいつもの事だろ?」



[いや、そうではない…正確には死徒が居たという方が正しいだろう。突然反応が消えたのだ…。]


ステュクスがそう話すと彼は少し疑問を抱いた。

死徒が消えるなんて事は有り得るのだろうか。


「反応が消えた…?でも死徒は人間を襲う…けどそんな巧妙な真似出来るのか?」



「出来る訳ない。例え成代わったとしてもそこまで高度な知能なんて有る訳ないもの。考えられるとしたら……敵の罠に誘われたか、或いは…私以外の焼却者が居るかのどちらか。」



「…冴月以外にも焼却者インシネイターが?」


竜弘が聞き返すと冴月は振り返り、立ち止まる。

そして彼を見て頷くとステュクスが再び彼へ向け話始める。


[何も驚く必要は有るまい…焼却者はサツキ以外にも数多存在している。その多くは隠世の者であり、この現世の均衡を乱す輩を葬る為に動き回っているのだ。]



「均衡が乱れる…。」



「…隠世と現世には隔たりが存在して本来なら干渉が難しいの。向こうの者は此方へは来られない様になっている…異能者エクスレイター達は自身の持つ力を駆使してその隔たりをすり抜け……そして現世へ訪れる。」



「つまり異能者は異世界から来た人間って事か。」



「そして現世へ降り立った異能者は自身の存在が消えない様に何かしらの形で人間の持つ命を喰らう。」



「ッ……!!」


それを聞いた竜弘は思わず固まってしまった。

生命を喰らう点からすれば死徒と何かしら変わりがない事を目の前の彼女により認識させられたからだ。そして冴月は更に話続ける。


「奴等からしたら人の命は人間のする食事と同じ。だから平気で命を喰らう……自らの存在を現世へ刻み付ける為に…そして目的を果たす為に。」



「そんな…ッ……。」


冴月がそう話すと竜弘は少し俯いた。


「……そういった奴等も狩るのが焼却者、私の役割なの。」


彼女は背を向けると長髪を靡かせつつ歩き出し、

スタスタと前へ進んで行く。


「なぁ冴月、一体何処へ行くんだ?」



「…高橋君を探しに行く。その序に死徒や異形者が出たら狩る……別に心配している訳じゃないから。それに笠井さんが心配する。」


冴月の口から誰かを心配する言葉が出た。

それを聞いた竜弘は珍しいと思いながらもそこへ一言付け加えた。


「…変わったね、冴月。」



「はぁ!?べ、別に…何も変わってない!ほらさっさと行くわよ!グズグズしない!!」


冴月に威圧され、竜弘は彼女と共に並んで歩くと他の路地や周囲を確認しつつ歩いて行った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

そして当の本人、浩介は仲間2人と共に喫茶店に居た。その目の前にはノースリーブの白いシャツを着た金髪の女性が腰掛けている。テーブルの上には紅茶の入ったティーカップが置かれていて、持ち手をを白い肌をした美しい指先が掴むと口元へ運んでゆっくりと飲む。再びカップが白いソーサーの上へ置かれると浩介達の方を見て首を傾げていた。


「……変な輩に絡まれてたのを助けて頂いたのは有り難いのですが、もう帰って頂いても大丈夫ですよ?」



「あ、いや…えーっと…も…もう少し…俺達が居た方が良いかなーって思いまして。」



「…?それにその格好…貴方達は学生さんでしょう?学業の方は宜しいのですか?」


優しく穏やかな凛とした声と共に

彼女の持つ紫色の瞳が3人を見つめると浩介と2人は何かでグサッと胸を刺された様な気分になっていた。

それもその筈、何故なら3人は今日学校をサボっているからだ。故に指摘されると痛い。


「どうするんだよ浩介…彼女、逃しちまうぞ?良いのか?このままで。」


と浩介の右から囁いて来た銀縁の眼鏡を掛けた彼は緒方大輝おがただいき、浩介の友達で学級委員。そして左側に居るのは月島渡つきしまわたる、彼は体育会系でガタイは良いのだが異性とのコミニュケーションは苦手な方。そのせいかずっと固まってしまっていた。


「わ、解ってるよ…!コホン!実は…俺達今日、学校休みなんです…だからこの後──」



「如何なる理由があれど人を欺く事は関心しませんね。では…私はこれにて失礼致します…お代はこれで支払って下さい、お釣りは結構ですから。」


そっと彼女が席から立ち上がる。白いノースリーブのシャツの下は黒いショートパンツ、足元は膝下までが黒いブーツだった。光の束を纏めた様な金髪は腰辺りまで伸びていて、それを靡かせながら店の出口の方へと歩いて行く。ベルの音が鳴ると共にドアが閉まり、彼女は店から出て直ぐ右の通りを進んで行った。その足で向かった先は居酒屋等が立ち並ぶ方面で人通りも疎らな場所だった。


[良いのか?あんなにあっさり振っちまってよぉ?]



「他者へ嘘や偽りを述べる者とは付き合わないと決めていますので。それにあんな見え透いた嘘、引っ掛かる訳ないでしょう?」



[成程な…流石はレティシアお嬢様って所か?]


レティシアという少女が喋っている相手は首から下げた球体型で焰色をした宝石付きのペンダント。

ソアと呼ばれる者がその中に宿っている。


「……隠れていないで出て来たらどうです?もうバレてますよ。」


振り向かずに話すと建物の塀の影から浩介達が姿を現し、彼女の方へ少し歩み寄り立ち止まる。レティシアは振り返ると共に眉間に皺を寄せて3人へ近寄って来た。


「一体どういうつもりですか?仮にも女性を付け回すなんて。貴方々の程度が知れますよ?それに男の人としてどうかと思いますけど。」



「うッ…ご…ごめんなさい…別に付け回すつもりじゃ─!!」


浩介が何かを言い掛けた時、彼女はピッと右手の親指を立てて人差し指を彼の胸元へ向けて呟いた。


「…ばーんッ!」



「うわぁあッ!?」


浩介がそれに驚いて思わず声を上げてしまった。


「こうなるかも知れませんよ?…貴方々に感謝はしています。ですがこれ以上の接触は貴方々にも危険が及ぶ可能性が有りますので、此処で素直にお別れしましょう?」



「そ、そんなに…危ないんですか?」


大輝が聞き返すとレティシアは頷く。

そして「こんな風に」と呟いた瞬間、彼女は自分の後方へ素早く振り返り、何かを右手で投擲する。

するとバチィッという音と共にそれが命中、姿を現した。


「ぎゃあぁあぁッ──!?」


そこに居たのは左手から血を流している30代の小太りの男で上下共に白の服を着ている。彼等の前へ彼女が立ち、目の前の相手を睨んでいると後ろに居た浩介が叫んだ。


「マジかよ…全然気付かなかったぜ!?」



「……私を付けて来たのは貴方々以外にもう1人居たという事。まさか、私が気付いていないとでも?」


そう言い放つと目の前の相手は右肩に刺さった十字架状の剣を引き抜いて投げ捨てるとレティシアを威圧する。


「くッ…くそぉッ!!ぶっ殺してやる…!!」



「…貴方々は下がって、彼は私が対処します。」


レティシアは臆する事も無く浩介達へ促す。

彼等は来た道を走って離れから見ていた。


[おいおい、まさかこんな場所で殺り合う気か?]



「ええ、そのつもりですよ?死徒…そして貴方の様な信徒も全て私の敵ですから。」



「お前…一体誰だ!?」



「神の名において貴方を断罪します。遮断ッ──!!」


十字架を切る様に右手の指先で印を結ぶと青白い術式と共に空間が変貌、男とレティシアだけが残され、対する相手は何かの呪文を唱えると目の前に食虫植物の様な見た目の化け物が姿を現した。

緑色の巨体と共に白く濁った目玉、そして両腕には牙の様な物が生えた上下折り畳みの口。

唸り声の様な物を上げてその場に立ち尽くしている。


[ありゃあ傀儡だな。しかも植物型と来た…だがお前さんならあんなの楽勝だろ?]



「ソア、何事にも油断は禁物ですよ。顕現ッ!!」


両手を広げた途端、彼女を青白い光が包み込むと共に黒い修道服の様な物を纏うと共に長い髪が三つ編みに結ばれていた。そして彼女は昨夜と同じ形で法術を唱えると左右の手の間から6本の爪の様な形で白銀の刃が出現する。


「複製法術と召喚法術を…同時にやりやがった!?」



「これ位は出来て当然の事……参りますッ!!」



地面を左足で蹴って駆け出し、敵との間合いを詰めると繰り出された一撃を飛び上がって躱す。

そして空中で身を翻すと左手に持っていた十字架状の剣を全て投擲し敵へ突き刺したのだ。命中したのは敵の複部と左右の両肩、3箇所へ命中し敵が悲鳴を上げる。着地した彼女は残る右手の剣を相手へ差し向け、苦しんでいる様を見つめていた。


「ギィイィイィィッ──!?」



「……人の命、そして人の尊厳を弄んだ愚行…その身を持って思い知るが良い!!」


そして右手の剣を自身の左側へ向けて振り抜くとそれを解き放つ。胸や頭部、首にそれ等が突き刺さると彼女は叫んだ。


「神罰招雷ッ──!!」


すると轟音と共に稲妻が敵の頭上から命中しその身を燃やしていき、黒い塵へ変化すると共に崩れ落ちてしまった。反撃すらさせずに倒してしまうと今度は左右に1本ずつ十字架の剣を握り締めると男の方を見据えていた。


「う…嘘だろ!?傀儡が…俺の自慢の傀儡が一瞬で…!?」


有り得ない。何故なら自身の傀儡が彼女へ一度だけ攻撃を放った以外、後は何も出来ぬまま一方的に消滅させられたからだ。


「……まだ続けますか?」



「て、テメェッ…一体──」



焼却者インシネイター……。」



「え……?」


今、目の前の少女は此方へ何を言った?

気の所為だと、聞き間違いだと思いたいがハッキリ聞こえた……焼却者と。


「焼却…者…だと!?」



「万雷の裁定者、レティシア・バラデュール…その身と魂に刻み込みなさい。私の名をッ──!! 」


鋭い眼光で彼を睨んだと思った時、一瞬で男との間合いを一気に詰めると十字を描く様に彼を左右の剣で斬り裂いた。

そして肉体が消滅すると彼女は剣をそれぞれ消すと共に術を解く。


「途絶解除…あんな者までこの街に居るとは。」



[異術者というかその端くれだな。大方あの傀儡で全て片付ける気だったんだろ……あのガキ共以外に妙な気がしたから見張ってて正解だったぜ。]


レティシアは振り返り、浩介達が逃げた方向を見ると物陰から3人が顔を覗かせた。


「……まだ居たんですね。」



「それより…アイツはどうなったんですか?」


浩介がそう問い掛けると彼女は呟いた。


「死にましたよ。」



「し、死んだ!?」



「えぇ…彼は私が処罰すべき相手でしたから。それに異端者へ裁きを下すのは当然の事なので。」


来た道を引き返してレティシアは歩みを進め、暫く歩いた末に歩道の真ん中で立ち止まると彼等の方を振り返った。


「…私が戦っているのはそういう相手。命の保証も無く、危険な事ばかり……それでも私に付いて来ますか?」


彼女はそう問い掛けると浩介と大輝だけが彼女へ「それでもついて行く」と一言呟いた。そしてレティシアもまた観念したのか2人と共に街中を歩き出した。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

あれから様々な場所を冴月と共に探した竜弘だったが浩介は見つかる事はなかった。もうすっかり日も落ちて、街灯もポツポツと点き始めている。

2人が暫く道なりに進んで行くと建設途中のビルの前で立ち止まった。


「浩介の奴…帰ったのかなぁ?ゲーセンにもカラオケにも居なかったし。」



「…もういい、探しても時間の無駄。帰るわよ。」


冴月は彼へそう話して共に歩き出すと聞き覚えのある声に竜弘が振り返った。何故か浩介が2人の元へ駆け寄って来たのだ。


「浩介!?お前…今まで何処に行って──」



「そ、それより…変なのに追われてて…!!」


竜弘が冴月へ目で合図するとコクンと頷く。

そして2人は浩介から場所を聞いてその方面へと走って向かうが何処にも死徒は居ない。

2人が向かったそこは綾崎市と隣町を結ぶ橋で綾崎大橋と呼ばれる物。上に弧を描く様な形をした所謂アーチ橋と呼ばれる構造となっている。白鳥川という大きな川を跨いだ上に掛かっている場所で人や車等の乗り物の往来が可能だ。


「冴月、どう?気配は感じる?」



「…奴等のは感じない。でもこの感覚は……竜弘、絶対に私から離れないで!!」



「わ、解ったッ!!」


突然の叫び声に竜弘は頷く。

そして警戒していると橋の向こう側から誰かが歩いて来て2人の前で立ち止まった。首元や肩周りが白く、足元が開かれた黒の上下の服と首から下げた銀色のチェーンにあるペンダントの先には焔色の丸型の宝石が埋め込まれている。その人物の両足の膝から下は黒いブーツだった。


「女の人……?」



「アイツは焼却者……私と同じ。」


冴月がそう呟くと目の前の彼女は被っていたベールを取ると美しい金色の髪と紫色の少々吊り上がった瞳が現れる。異国の人間というのは一目で解る程、容姿端麗で歳は恐らく竜弘より1つか2つ上なのだが何処か大人びた雰囲気が感じられた。


「……成程、そういう貴女も私と同じですか。」



「…そう。何か不満でも?」


金色の吊り上がった瞳が相手を睨み、対する相手も紫色の瞳で冴月を見据えているのが解る。

すると彼女の方から冴月へ向けて話し出した。


「先ずは先にご挨拶を。私の名はレティシア・バラデュール、称号は万雷の裁定者……。」



「…万雷の裁定者。」


冴月が繰り返す様に復唱する。

彼女からすれば目の前に居る相手は自身の同胞、だが何処か異質な雰囲気を感じていた。

冴月もまた彼女に対し同様に自身の名を伝える。


「……私の名は冴月、蒼焔灼眼の討ち手。」



「蒼焔灼眼……これはまた面白い方と出会えました。この巡り合わせは主に感謝しなくてはなりませんね……。出会った序でに少し手合わせを願えますか?」



「……悪いけど容赦はしない。」



「…それは此方も同じ事。その称号に相応しいかどうか…貴女の実力を確かめさせて頂きます。複製ッ、召喚ッ!!」


レティシアと名乗った少女は両手の指の間に握った白と黒の十字架を剣へ変化させ、握り締める。


「…顕現ッ!!」


冴月が力強く叫び、中指の指輪から出現した法衣を纏うと共に蒼月を左手へ握り締める。彼女の瞳が金色から紅色へと変貌し目の前のレティシアを睨み付けていた。


[サツキ、奴の剣は恐らく法術で構成している。それにあの気迫…只者ではない。油断するなよ。]



「解ってる!!」


冴月が左手で鞘を引き、右手で柄を握り締めて抜刀すると青白い炎が刀身を覆うとそれを自身の右下へ払う様にして下げて見せた。


[あのガキ、結構生意気で強そうだぜ?捻り潰してどっちが上か解らせてやらねぇとなぁ?イッヒッヒッヒィ!!]



「ソア、口を慎みなさい。無礼ですよ。」


お互い臨戦態勢へ突入、そして空気が一瞬止まったと思った途端に同時に叫んだ。


「「遮断ッ──!!」」


周囲にドーム状の結界が展開され、橋の上だけが異空間へ取り込まれると川の水の音も止まった。


「……参りますッ──!!」



「来る…ッ!! 」


レティシアが先に仕掛け、駆け出すと右足を軸に跳躍し落下の勢いに任せる様に右手の剣を振り下ろす。冴月はそれを刃で防ぎ、左へ振り払うと反撃として右横へ一閃し斬り裂く形で燃え盛る刃を振り翳すがレティシアは身体を反らせ避けた。そして彼女は冴月目掛けて右足で回し蹴りを繰り出したが冴月は後退しそれを避け、刀を正面に両手で持ちながら構え直す。


「成程…確かに実力は有る様ですね。」



「体術も剣術も全て早い…それに隙がない…でもッ──!!」


冴月は深呼吸し、離れに居る竜弘を少し見ると頷いては駆け出して一気に間合いを詰めるとレティシアへ向けて刀身を力強く振り下ろした。


「緋炎一閃ッ!!」



「くッ……!!」


燃え盛る刃が彼女へ到達、レティシアへ防御させる暇も与えずに大きく袈裟斬りに彼女を斬り裂いた。だが目の前の彼女は突然姿を消してしまったのだ。


「消えた!?」



[サツキ、後ろだ!!]


ステュクスに促され素早く振り返るが間に合わず、腹部へ正面蹴りが炸裂し冴月の肉体が吹き飛んだ。


「うぐぅッ──!?」



「確かに今のは良い一撃でした。もしあれを喰らっていたら今頃は肉も骨も臓器も焼かれている事でしょう……。」


冴月は立ち上がって再び構え直すとレティシアへ立ち向かい、何度も果敢に刃を振り下ろし攻撃を仕掛けていく。対する彼女もそれを剣で弾きながら様子を伺っていた。

冴月の繰り出した足元への斬り払いの一撃を跳躍し避けた彼女は右手の剣を3本纏めて投擲、冴月が全て弾き返したタイミングでポツリと呟いた。


「……拘束。」



「なッ──!?」


再び斬り掛かろうとした途端、冴月の両腕や腹部を鋼色の鎖が縛り付けていた。見回してみると弾き飛ばした剣の十字架からそれが出現しているのが解る。それは橋の通路右側、冴月の後方、そしてアーチを描いている左側の鉄骨部分の計3本。


「くそッ…!!」



「神に代わり、私が貴女へ天罰を下します。悪く思わないで下さいね…例え同胞でも私の行動の邪魔だけはされたくないので。」


すっとレティシアが左手の剣を差し向けるとバチバチと異様な音がし始め、身体を右側へ強く捻ると共に左手を右側から振り抜くとそれを解き放った。


「天罰迅雷ッ──!!」


投擲された剣は光の矢の如く冴月目掛けて飛んで来るが、避け様にも体が動かせない。このままでは確実に串刺しにされてしまうだろう。


「冴月ぃいいッ!?」


竜弘が思わず叫んだ。彼女がこのまま死ぬのを黙って見てはいられない。だが、どうすれば良いか解らない。それに間違いなくあの人には勝てない、正面からやり合えば呆気なく殺される。


-それでも彼女を見殺しになんか出来ない。-


突き動かしているのはそれだけ、その一心で竜弘は彼女の方へ手を強く伸ばした。その瞬間何が起きたか解らないが投擲された3本の剣が冴月へ差し掛かる直前、障壁により剣が弾き飛ばされたのだ。


「剣が…何故!?」



「いい加減…ッ、外れろぉおッ!!」


同様しているレティシアを他所に冴月が無理やり鎖を振り解いて駆け出し、その半ばで跳躍する。


「だぁああああッ──!!」


そして柄に左手を添え、その刃を力強くレティシアの頭上へ向け思い切り振り下ろすと彼女は左右の指の間へ再び剣を呼び出して交差させると防ぐ。衝撃により彼女の足が地面へ僅かにめり込むと冴月の方を睨んでいた。


「ぐぅううッ─!?な、なんて馬鹿力…!!」



「こんのぉおおッ!!」


レティシアが彼女を無理に弾き飛ばすと冴月が後方へ宙返りし着地して立ち上がると刃へ青い炎を纏わせてその刃先を向けた。


「これで終わらせてやる!!神罰だか何だか知らないけど、私はお前が嫌いだぁあッ──!!」


再び駆け出した冴月は思い切り右足を踏み込むと地面がめり込む位に変形、そして瞬発力を利用し加速すると袈裟斬りの要領でそれを振り上げて来る。


「蒼穹ッ──!!」



「そんなもので…ッ!!」


迎え撃つ様にレティシアも駆け出して雷を纏った状態から裏拳の要領で右手の剣を斬り払う様に振り翳すと刃同士が接触した末に炎と雷が飛散した。


「引き分け…ですね……。」



「…悔しいけどそうみたい。」


冴月が不快な表情を浮かべ、刀を下ろし後退するとレティシアもまた後退し剣を下ろす。


「…貴女の実力、確かに見せて頂きました。何れまた何処かで会いましょう……サツキ。」



「ふんッ……。」


冴月が背を向けるとレティシアもまた背を向け立ち去って行った。


[…万雷の裁定者か。どうする?]



「私の邪魔さえしなければそれで良い。それより、さっき見たアレは……。」


冴月は疑問に思っていた。あの時、レティシアが自分へ向け投擲した剣は障壁により弾き飛ばされたのだ。


「あれはどう見ても防御法術…けど使ったのは私じゃない。だとしたら……」



[…タツヒロか?いや、戦闘鍛錬をした程度で法術が扱える訳がない。]


冴月は無言で頷くと竜弘の元へ戻り、法衣と蒼月を消すと彼と共に来た道を引き返して行った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「竜弘…悪ぃッ、昨日は本当にすまん!!悪気が有ってサボった訳じゃないんだよ…!!」


朝から竜弘へ向けて浩介は両手を合わせて謝っていた。一方の竜弘は溜め息をついて頭を抱えながら彼の話を聞いていた。


「僕と倉本さん、昨日早退して夜まで浩介の事探したんだから…もうサボるなよ?」



「お、おう!次は気を付ける!!」


2人の話を冴月は左手で頬杖を突いたまま横で聞いているとステュクスが彼女へ話し掛けて来る。


[…あの小僧、昨夜の動きからするに恐らく妾達を出し抜いたつもりであろうな。]



「……やっぱりそう思う?」



[そうでなければ…あのレティシアという焼却者には都合良く出会わんだろう?]



「……それでも私達は私達の成すべき事をするだけ、それに変わりはない。」


冴月は呟くと始業のチャイムが鳴り、普段と変わらず授業が始まった。2人の焼却者が再び巡り会う日は来るのか……それは未だ誰にも解らない。

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